相続登記:「錯誤による所有権更正」と「遺産分割による所有権更正」の違い

相続登記:「錯誤による所有権更正」と「遺産分割による所有権更正」の違い

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

相続登記における「錯誤による所有権更正」と「遺産分割による所有権更正」の違いについて解説します。

【相続登記相談】
昨年、父が亡くなり、父所有の不動産の相続登記をしました。
この相続登記では、母と子2名の名義で、法定相続分で登記をしました。
その後、母と子2名での遺産分割協議が成立し、母が不動産の所有権全部を取得する内容の遺産分割協議書を作成しました。
このため、昨年、母と子2名の名義で、法定相続分で登記をしたことは誤りであったので、「錯誤による所有権更正」で登記をし直したいと考えています。
このことを司法書士に確認したところ、次のように言われました。
『相談者の場合は、法定相続分で登記しているので、「錯誤による所有権更正」ではなく、「遺産分割による所有権更正」で登記します。』
どうも、私には、「錯誤による所有権更正」と「遺産分割による所有権更正」の違いが分からないのですが、この違いについて教えてください。
土地建物:名義人
土地建物:名義人
登記簿:法定相続分で相続登記
登記簿:法定相続分で相続登記

「遺産分割による所有権更正」登記とは

「遺産分割による所有権更正」登記ができる条件

(1)法定相続分で相続登記がなされている。
(2)申請できる登記権利者は、相続人のみ。
   登記権利者となる人が相続人であること。登記権利者が第三者(第三者に対する遺贈)となる場合は、単独申請ができない。
(3)登記上の利害関係人が存在しない(存在する場合は、第三者の承諾書が必要)。
   これについては、登記上の利害関係を有する第三者がある場合を参考にしてください。

事例の場合、これらの条件がすべて揃っていますので、遺産分割協議書により不動産の所有権全部を取得した母は、遺産分割による所有権更正登記を単独で申請することができます。

事例の場合、相続登記が法定相続分(相続人母持分2分の1、長男持分4分の1、二男持分4分の1)で登記されたことは、法律上誤りではないため、「錯誤」とは言えません。
法定相続分で登記したことは、民法の規定に基づいて登記したことなので、正しい登記と言えます。ですので、この登記が誤りで、錯誤とは言えないことになります。

法定相続分での登記は、次を参考にしてください。
法定相続分での相続登記の方法
共同相続人1人からの相続登記の方法(法定相続分で遺言書で)

相談者としては、『本当は、母が所有権全部を取得した登記をすればよかったが、それを法定相続分で登記してしまった。だから、この登記は誤りで、錯誤で登記をし直すことにしたい。』と、心情的に思っているので、「錯誤による所有権更正」登記をすべきと考えたと思われます。

「錯誤による所有権更正」登記をすべき場合については、後述します。

「遺産分割による所有権更正」登記の具体的な方法

遺産分割で所有権更正登記をする場合の必要書類

登記原因証明情報のみ:遺産分割協議書相続人全員の印鑑証明書
事例の場合、母と子2名で作成した遺産分割協議書に署名捺印(実印で押印)した遺産分割協議書と、母と子2名の印鑑証明書を「登記原因証明情報」として法務局に提出します。

登記申請書の作成:遺産分割で所有権更正登記

事例の場合、次のように登記申請書を作成します。

      登記申請書(一部省略)
登記の目的 〇番所有権更正
原   因 令和〇年〇月〇日(日付は遺産分割協議成立の日)遺産分割
更正後の事項 所有者
      (住所)○○
      (母氏名)○○
申 請 人 (住所)○○
      (母氏名)○○ ㊞(登記識別情報の発行を希望する。)
添付情報
 登記原因証明情報
登録免許税 金○○○円

添付情報
登記原因証明情報として
 遺産分割協議書と「母と子2名の印鑑証明書」(原本還付ができる。)
法定相続分で登記した際、発行された「登記識別情報(通知)」は添付する必要がない。
登録免許税 金○○○円:不動産1個につき1,000円

遺産分割による所有権更正登記の完了後の登記記録(登記簿)

法定相続登記を母と子2名の法定相続分で登記した後、遺産分割協議が成立し、母が不動産を単独で相続取得した場合の登記記載例です。

登記簿:遺産分割による所有権更正登記
登記簿:遺産分割による所有権更正登記

(以上、2026年 岡山地方法務局で登記完了)
以上については、次を参考にしてください。
法定相続登記後の所有権更正登記:登記権利者が単独で申請できる場合(概要)(令和5年4月1日から)
法定相続登記後の遺産分割による所有権更正登記【最新】

「錯誤による所有権更正」登記とは

前述のように、法定相続分で登記した場合は、民法の規定に基づいて登記したことになるので、法律上は正しい登記であって、間違い・誤った登記ではありません。

ところが、遺産分割協議書(法定相続分とは異なる相続の仕方)で、相続登記を行った場合、間違い・誤った相続登記をした場合に、名義人(や持分)を修正することになります。
これを「錯誤による所有権更正」登記で行うことになります。

「錯誤による所有権更正」登記のパターン

成立した遺産分割協議書で相続登記をしたが、相続名義人(や持分)に誤りがあったときの4つのパターンは、次のとおりです。

(1)単独名義としたことが誤りで、共有名義が正しかった場合
(2)共有名義(法定相続分ではない)としたことが誤りで、単独名義が正しかった場合
(3)共有名義(法定相続分ではない)としたことは間違いなかったが、共有持分を間違った場合
(4)共有の名義人を間違い、共有持分を間違った場合

錯誤による所有権更正登記の具体的な方法

事例によく似た例で説明します。
上記(2)のように、遺産分割協議書で登記した共有名義(法定相続分ではない)としたことが誤りで、単独名義が正しかった場合には、次のように、「錯誤による所有権更正」登記をします。

登記簿:遺産分割協議書で相続登記
登記簿:遺産分割協議書で相続登記

例えば、遺産分割協議書による相続登記で、相続人母持分3分の1、長男持分3分の1、二男持分3分の1としたことが誤りで、実は、相続人母単独所有が正しかった場合です。

✖ 母持分3分の1、長男持分3分の1、二男持分3分の1
 👇
🔴 母単独名義
遺産分割協議書の作成し直し

作成し直す遺産分割協議書の内容は、次のとおりです。(一部省略)

被相続人(氏名○○)(生年月日)の〇年〇月〇日死亡により開始した相続につき、相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。
相続人母(氏名○○)は、次の不動産を相続取得する。
【不動産】
○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
錯誤による所有権更正登記の必要書類
「単独名義人となる相続人」(母)(権利者)
(1)認印(住民票は不要)

「持分3分の1の権利を失う相続人」(長男と二男)(義務者)
(1)登記識別情報通知:持分3分の1で相続登記により発行された登記識別情報通知
(2)印鑑証明書
(3)実印
(4)登記原因証明情報(遺産分割協議書とは別に作成して法務局に提出)
錯誤による所有権更正登記の「登記原因証明情報」の作成
登記原因証明情報(所有権更正)(一部省略)
1 登記申請情報の要項
(1)登記の目的 〇番所有権更正
(2)原   因 錯誤
(3)更正後の事項 
         所有者 住所・(母)氏名
(4)当事者
    権利者  住所○○
         (母) 氏名
    義務者  住所○○
         (長男)氏名
         住所○○
         (二男)氏名
(5)不動産の表示
 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡

2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)(現在の登記)
○○が死亡し、同人の共同相続人母、長男、二男は、遺産分割協議書に基づき、本件不動産につき母持分3分の1、長男持分3分の1、二男持分3分の1とする〇年〇月〇日相続を原因として所有権移転登記を完了した。(〇年〇月〇日受付第○○号)
(2)(遺産分割協議書の誤り)
しかし、その後、(1)の登記における本件不動産が記載された遺産分割協議書の内容が誤りであることが判明した。
本件不動産を相続したとする遺産分割:母持分3分の1、長男持分3分の1、二男持分3分の1は誤りであり、正しくは、母が単独で相続したものである。
(3)(所有権の更正)
よって、(1)の所有権移転登記を次のとおり母の単独名義に更正登記する必要がある。
更正後の事項 所有者 住所・(母)氏名

〇年〇月〇日 ○○法務局 ○○支局・出張所 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
義務者(長男)
住所・氏名 実印
義務者(二男)
住所・氏名 実印

権利者(母)
住所・氏名 認印
錯誤による所有権更正登記申請書の作成
      登記申請書(一部省略)
登記の目的 〇番所有権更正
原   因 錯誤
更正後の事項 
      所有者 住所・(母)氏名
権 利 者 住所○○
      (母)氏名○○    ㊞
義 務 者 住所○○
      (長男)氏名○○   ㊞(実印)
      住所○○
      (二男)氏名○○   ㊞(実印)
添付情報
 登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明情報
登録免許税 金1,000円
不動産の表示
 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
錯誤による所有権更正登記の完了後の登記記録(登記簿)

遺産分割協議書により、母持分3分の1、長男持分3分の1、二男持分3分の1で登記した後、遺産分割協議書作成し直し、母が不動産を単独で相続取得した場合の登記記載例です。

登記簿:錯誤によるによる所有権更正登記
登記簿:錯誤によるによる所有権更正登記

まとめ:相続登記:「錯誤による所有権更正」と「遺産分割による所有権更正」の違い

「錯誤による所有権更正」登記の要点は、次のとおりです。

「錯誤による所有権更正」登記は、遺産分割協議書を使用し、法定相続分とは異なる仕方(名義人や持分)で登記したことが誤りであった場合、登記した名義人や持分を修正する登記のことをいいます。
法務局に対し、通常、「錯誤による所有権更正」登記をすることになった理由を記載した「登記原因証明情報」を作成し、提出します。もっとも、改めて作成し直した遺産分割協議書に、前に作成した遺産分割協議書が誤りであってことを記載して、これを登記原因証明情報とすることもできます。
登記申請書の作成では、「権利者」、「義務者」として記載し、それぞれ押印が必要です。
添付情報としては、登記原因証明情報のほか、義務者の印鑑証明書、登記識別情報通知(前の登記で発行された)が必要となります。

これに対し、「遺産分割による所有権更正」登記の要点は、次のとおりです。

「遺産分割による所有権更正」登記は、法定相続分で登記した後、遺産分割協議書を使用し、最終的に不動産を取得した名義人に登記することをいいます。
登記申請書の作成では、最終的に不動産を取得した名義人を「申請人」として記載し、押印します。
添付情報としては、登記原因証明情報のみで足り、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書を法務局に提出します。
「錯誤による所有権更正」登記のように、義務者の登記識別情報通知(前の登記で発行された)は不要です。

ただし、「錯誤による所有権更正」であっても、「遺産分割による所有権更正」であっても、登記上の利害関係を有する第三者がいるときには、注意が必要です。

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相続登記相談風景(イメージ)
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