遺言書作成事例(答えが出せない場合の相続人一人に相続させる。)と遺留分侵害額請求権との関係(相談)

遺言書作成事例(答えが出せない場合の相続人一人に相続させる。)と遺留分侵害額請求権との関係(相談)

【遺言書の内容】
遺言者は、遺言者の所有する不動産と預貯金その他すべての財産を長男○○に相続させる。
遺言者は、本遺言の執行者として、長男○○を指定する。

このような遺言書を作成した場合、将来、予想されることは?

家族関係の現状、母の財産、長女が希望すること、長男が思うこと

【家族関係】
母、長男(兄)、長女(妹)
同じ敷地内に、2棟の家(古屋)があり、一方に母と長男が住み、もう一方に長女と配偶者、その子が住んでいる。

【母の財産】
敷地と建物(古屋)2棟は、母所有。土地・建物の時価は約5,000万円。
そのほかの母の財産は、預貯金が1,000万円

【長女が希望すること】
長女(妹)は、古屋を建て直したいと考えている。
建て替えるのであれば、長女は専業主婦であるため、長女の配偶者がローンで建て替えることになる。新たな建物は、長女の配偶者が所有者となる。

【長男が思うこと】
母がこのことを長男(兄)に話すと、長男は難色を示している。

【問題点:母の悩み】
(1)このような事情であるので、今後、どういうことにしたらよいでしょうか。
(2)母が遺言書を書くとした場合、どのような遺言の内容にしたらよいでしょうか。

(1)このような事情であるので、今後、どういうことにしたらよいでしょうか。

家族の現状分析

長女(妹)には、配偶者がいて、子がいます。配偶者の実家は、資産家です。
片や、長男(兄)は、一度も結婚したことがなく、配偶者も子もなく、独身です。仕事は、非正規の社員です。それほど収入が多くありません。長男は母と一緒に暮らしています。

このように、兄と妹を比較しますと、この二人の「幸せ度数」は、現状で、兄を5とすれば、妹は8程度だと思われ、妹は、十分幸せだと思われます。

このような現状において、さらに、妹夫婦が家を建て直して、新築の家で暮らすということは、兄にしてみれば、妹を羨ましく、場合によっては妬ましく思うのが普通です。ですから、兄は、妹夫婦が家を建て直すことに難色を示したわけです。

兄にしてみれば、妹に配偶者がいて、子がいることを否定するつもりはなく、お互いに現状であれば、お互いが古屋に住んでいるのであれば、それほど大きな違いはないと、兄は思っているでしょう。
ところが、妹夫婦が家を建て直して、新築の家で暮らすということは、兄にしてみれば、明らかに自分の方が不幸せだ、惨めだと感じることでしょう。ですので、妹夫婦が家を建て直すことに難色を示したわけです。兄がこのように思うこと、他人を妬むことは普通のことです。兄を責めることはできません。
ですので、妹が家を建て直して、新築の家で暮らすことを、兄に我慢しなさい、ということは、兄に酷な話しです。
もし、妹の希望を認めるのであれば、今後、兄と妹夫婦・子の関係が悪くなることも考えられます。

一方、妹は、今住んでいる家が古いし、配偶者がローンを借りられるほど収入があるので、この際、家を建て直して、新築の家で暮らしたいと思っていますが、妹が、このように考えることも普通のことで、妹を責めることはできません。なぜなら、多くの人は、この妹のように、自分の幸せを中心に考えるからです。

だからといって、妹の希望を叶えてあげることができません。なぜなら、前述のように、兄が、妹の希望に難色を示しているからです。兄は、妹がそうしようとすることを快く思っていないからです。
反対に、妹は、兄が快く思わない理由が分からないでしょう。これも、多くの人が分からないのと同じように、妹も兄の気持ちが分からない、兄の気持ちを察することができません。

では、このような現状で、今後、どのようにしたらよいでしょうか。

母は、隣に住んでいる孫をとても可愛がっています。その気持ちと妹の希望は、別に考える必要があります。
兄が快く思っていない以上、現状を変えること、すなわち、妹夫婦が家を建て直して、新築の家を建てることを母は認めることができません。
せいぜい、妹夫婦が住んでいる古屋を修繕したいのであれば、妹夫婦のお金で修繕することを認めるだけです。
母は、兄(長男)のことを考えれば、これ以上のことを妹(長女)に認めることができません。

(2)母が遺言書を書くとした場合、どのような遺言の内容にしたらよいでしょうか。

遺言書で、土地の半分を長女に相続させるとした場合

母の希望としては、土地が300㎡あるので、この土地の半分を長女に相続させたいと考えています。現状、土地の半分の上に立っている家に住んでいるということもあるからです。

母が、もし、遺言で「土地の半分を長女に相続させる。」とした場合、現状で、長女が希望していること、すなわち、長女が家を建て直して暮らすことを、母の死後、実現できることになります。

片や、兄は、土地の半分を相続し、現状の生活を続けることになります。この場合、兄は、誰からの金銭的な援助を受けることなく、その後、自力で生活することになります。

このように考えますと、兄は、非正規の社員ということもあり、自分の土地と建物(古屋)はあっても、多くの収入を望むことはできず、現状維持の生活を一生余儀なくされる可能性が高くなります。
例えば、急な出費(入院・治療)や古屋の修繕が必要な場合、非正規の仕事を続けられなくなった場合など収入を確保できない状況になった場合、兄は、生活をしていくことが困難となることも予想されます。
現状で、兄は母と一緒に暮らしているので、現在は、非正規の社員とはいっても、生活費など生活の面では不安はないでしょう。ところが、母の死後は、先の理由から、急に不安にかられることも十分考えられます。

一方、妹は、隣の新築の家で、配偶者と子と一緒に暮らして、配偶者の実家が資産家であることから、現在も将来も、安定した、安心した暮らしが、ほぼ保証されています。妹は、将来に対する心配が、生活費の面では、ほぼないことになります。

もし、母が遺言書を書いておかなければ、どうなることが予想されるでしょうか。

母の死後、母の遺産について、妹が遺産分割で次のように主張することが予想されます。

妹は、土地の半分に立っている家に住んでいることから、土地と住んでいる家を相続取得することを主張するでしょう。この主張は、法定相続分の2分の1が妹の権利であるので、当然と言えば法律上は当然のことです。
預金については、母が1,000万円を遺したとして、妹は、土地の半分と家を確保できれば、預金を兄が取得することを認めることが予想されます。

遺産分割協議で、このような結論となった場合、「家を建て直して、新築の家で暮らす」という当初の妹の希望が叶うことになります。あるいは、相続した土地と家を売却して、別の場所で暮らすということも考えられます。

遺産分割協議で、このような内容とした場合、兄は、預金1,000万円を相続したからといって、将来、安心してくらせるとも限りません。

そうであるならば、母が兄(長男)の将来の生活を心配しているのであれば、母が次のような遺言書を書いておくことが最善の方法ではないかと思われます。
これは、兄(長男)が現状と将来を望むことに合致するからです。

このような遺言書の内容にした場合、兄に、配偶者も子もなければ、兄が妹よりも先に亡くなった場合、その遺産は、妹が相続することになる(法定相続人)からです。もっとも、兄が将来、結婚しないとも限りませんが。

【遺言書の内容】
遺言者は、遺言者の所有する不動産と預貯金その他すべての財産を長男○○に相続させる。
遺言者は、本遺言の執行者として、長男○○を指定する。

このような内容の遺言が執行された場合、妹は、どうしたらよいでしょうか。

遺留分侵害額請求権の行使

妹には、遺留分があるので、法定相続分の2分の1の遺留分があります。妹の法定相続分は2分の1であるので、その2分の1、すなわち、4分の1の遺留分があります。
事例の場合、母の遺産が、土地と建物で5,000万円、預貯金が1,000万円、合計6,000万円あったとして、その4分の1、1,500万円を、兄に対して遺留分侵害額請求権を行使して、1,500万円の支払いを請求できることになります。

兄は、妹から遺留分に相当する金額1,500万円を請求されれば、これを妹に支払わなければなりません。

兄が、1,500万円を妹に支払うことができる場合に予想されることは

兄が、この1,500万円を妹に支払うことができれば、とりあえずは、「相続」の問題は終わりです。

妹は、この1,500万円を基にして、家を建て直そうとするかもしれません。
この場合、土地は兄の所有ですので、妹が家を建て直すのであれば、兄の同意が必要となります。

兄にしてみれば、妹が家を建て直すことに同意した場合、次の問題があります。

  1. 固定資産税の支払いはどうするのか。
    兄としては、少なくとも、固定資産税の半分は、妹に負担してもらう必要があります。
  2. 妹が家を建て直すことに同意して、兄が得をすることはあるのか。
    兄が金銭的に得をすることはありません。
    兄は、母から相続した1,000万円と自分の手持ち500万円を合わせて妹に支払っているので、現状、兄に金銭的な余裕はありません。

兄が、1,500万円を妹に支払うことができない場合に予想されることは

前述の兄が妹に1,500万円を支払うことができたとしても、兄には金銭的な余裕がないことになります。
また、兄に自分の手持ち500万円がない場合、妹に1,500万円を支払うことができないことになります。

この場合、兄は、土地と建物を売却して、その売却代金から妹に1,500万円を支払うことになります。
兄が、土地と建物を売却する場合、土地の全部を売るのか、半分を売るのかは、考えどころです。

例えば、妹が住んでいる土地の部分を妹に売るということも考えられます。
この場合、土地の価格5,000万円の半分2,500万円として、遺留分侵害額に相当する1,500万円とを相殺して、妹が兄に1,000万円を支払うということも考えられます。
そうすれば、母から相続した1,000万円と妹からの1,000万円を合わせた2,000万円を兄が確保できることになります。

他に売却した場合であっても、兄が土地の半分を売却すれば、2,000万円を確保できることになります。
とりあえず、この方法で兄は、生活費の面では安心できるのではないかと思われます。

遺言書の付言事項

前述のように、母が、「不動産と預貯金その他すべての財産を長男に相続させる。」と遺言した場合、この内容だけでは、長女に不快感をもたらすことになることが予想されますので、次のような「遺言の付言事項」を書いておいた方がよいでしょう。

私が、このような遺言の内容を書くこととなった理由を以下に述べます。
私が、このような遺言の内容で、長男にすべての財産を相続させるとしたのは、決して、長女に財産を相続させるつもりがないわけではありません。
長男、長女に財産を相続させるかを種々検討した結果です。
特に、長男は、非正規の社員で収入に乏しく、結婚もしておらず、子もなく、母としては、長男の将来を心配しております。
また、長男が非正規の社員であることから、将来の年金で生活できるのかも心配するところです。
ですから、長男が、将来、安心して過ごせるかを考えたとき、長男が安心して暮らしていけるだけのものを遺したいと考えたからです。

長男がこの遺言を執行するに当たり、長男は、長女にこの遺言書を見せて、長女が遺留分侵害額請求権を行使できるようにしてあげてください。
長女がこの遺留分侵害額請求権を行使するかどうかは自由ですが、遺留分侵害額請求権を行使するに当たっては、裁判に訴えることなく、二人で話し合って決めてください。

例えば、長男が長女に遺留分侵害額に相当するお金を支払えるのであれば、これを支払い、支払えないのであれば、土地を売るなりして、長女に遺留分侵害額に相当するお金を支払ってあげてください。
また、長女が自分の住んでいる土地を長男から買いたいと思うのであれば、長男は、これに応じてあげてください。
いずれにしても、最善の解決策を話し合いで決めてください。
母は、兄妹が末永く良好な関係でいられることを切に希望します。

遺言書をどのような形式の遺言書で作成したらよいのか

事例のケースでは、遺言書は、公正証書遺言書で作成するのがよいでしょう。
なぜなら、公正証書遺言書で相続登記など相続手続を行うときは、相続開始後、比較的速やかに手続を行うことができるからです。
公正証書遺言書ではなく、自筆証書遺言書では、家庭裁判所の検認手続遺言書情報証明書を取得するのに、手間暇、場合によっては、費用もかかってしまいます。相続開始後、速やかに相続手続を行うことができません。

まとめ:遺言書を作成するときに留意すること

遺言書を書く場合、相続人の現状や将来を考え、相続人の関係をも考慮して、総合的に判断するのがよいでしょう。

相続登記や遺言書作成については、当司法書士事務所にご相談ください。

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