遺留分減殺請求権

遺留分減殺請求権:2019年6月30日までに開始した相続に適用

【相続相談事例】
2019年6月1日、被相続人の相続が開始し、公正証書遺言書によって、法定相続人(子)ではない親戚の人(受遺者)に、「遺贈」で被相続人名義の不動産が移転してしまいました。
子がこのことを知ったのは、被相続人の相続開始を知った時から1年以内です。

【相談内容】
(1)公正証書遺言書でも、家庭裁判所の検認手続をする必要がありますか?
遺言という場合、通常、自筆証書遺言書(遺言者が自分で全部書くのが基本です。)と公正証書遺言書(公証人役場で作ります。)があります。
自筆証書で遺言書を作成した場合を自筆証書遺言書といい、公正証書で遺言書を作成した場合を公正証書遺言書といいます。

自筆証書遺言書は家庭裁判所の検認手続が必要(登記所の保管制度を利用した遺言書を除く)ですが、公正証書遺言書の場合は、家庭裁判所の検認手続を経ることなく、相続が開始すれば速やかに、相続登記や預貯金の相続手続をすることができます。

(2)法定相続人としてこの親戚の人に、なにか請求することができますか?
事例の場合は、公正証書遺言書によって、法定相続人ではない親戚の人にすでに移転されていることを被相続人名義だった不動産を管轄する登記所で、登記申請書類も含めて法定相続人が確認しているので、被相続人の遺産がどのくらいあったのかを把握できます。

民法では、一定範囲の法定相続人(兄弟姉妹を除く)に対して、一定割合の相続分が保証されています。この一定割合の保証された相続分のことを遺留分といいます。
事例の場合、被相続人の子であるので、子の法定相続分の1/2の1/2=1/4が保証されています。
この持分1/4は、遺言によってすでに移転の手続が完了した後であっても、取戻しを請求することができます。
この遺留分の取戻しのことを遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)といいます。

事例の場合、相続の開始が2019年6月1日で、法定相続人が被相続人の相続開始を知ってから1年以内ですので、この遺留分減殺請求権を行使することができます(2019年6月30日までに開始した相続に適用)。2019年7月1日以降に相続が開始した場合は、遺留分侵害額請求権を行使することになります。

(3)遺留分減殺請求権を行使する場合、家庭裁判所の手続が必要でしょうか?
遺留分減殺請求権の行使は、まず、遺留分を侵害された法定相続人から受遺者(遺言に基づいて遺産の贈与・遺贈を受けた人)に対して直接、請求します。これにより、遺留分を侵害する贈与・遺贈の効力は、その限度で失効します。
この遺留分減殺請求権の行使は、通常、郵便局の内容証明郵便という方法で、受遺者に対して請求します。この請求方法によって、いつ請求したかを後日証明することができるからです。

内容証明郵便によって受遺者が遺留分に相当する遺産を返してくれれば問題ありませんが、受遺者が話に応じない、返還しないなどの場合は、裁判によって取り戻すしかありません。

(4)裁判する場合、どこの裁判所ですか?
裁判によって取り戻す場合、まずは、家庭裁判所に遺留分減殺請求の調停を申立てます。この調停が不成立となった場合は、次に、簡易裁判所または地方裁判所(相手方に請求する金額で異なります。)に遺留分減殺請求訴訟を提起します。

(5)弁護士さんに依頼する場合の費用はどのくらいかかりますか?
弁護士さんに依頼する場合、着手金と成功報酬を支払いますので、仮に100万円取り戻したとすると、弁護士さんには数十万円を支払うことになります。そのほか裁判所に支払う手数料もかかります。

まずは、地元の法テラスで紹介された弁護士さんに、いくら費用がかかるのかをお尋ねして、もし、費用が高いようでしたら(弁護士さんは裁判も含めて最終的に取り戻すことまで考えていますので。)、地元の司法書士に、まずは、遺留分減殺請求の内容証明を作成してもらい、受遺者の対応を見るのがよいと思われます。

遺留分減殺請求権の行使

遺言の執行によって、一定範囲の法定相続人が、一定割合の相続分(遺留分)を侵害された場合、どういうアクションを起こせばよいのか。
遺留分権利者は、遺贈・贈与があったことを知った時から1年以内に、遺贈・贈与を受けた者に対して、遺留分減殺請求をしなければなりません。請求しないと時効により消滅します。
これを知らない場合であっても、10年間、何もしないときは、遺留分減殺請求権は時効により消滅します。10年過ぎると、請求できなくなります。

遺留分減殺請求がされた後は、
遺留分減殺請求を受けた相続人、受遺者、受贈者は、遺留分を侵害した限度で、目的となった財産を遺留分減殺請求をした相続人に返還しなければなりません。
ただし、遺留分減殺請求を受けた相続人、受遺者、受贈者は、遺留分を侵害した限度で目的となった財産の返還に代えて、その価額を金銭で弁償、すなわち、支払うことができます。

遺留分を侵害した限度で目的となった不動産を返還する場合、
すでに、遺言に基づいて、不動産について「相続」や「遺贈」を登記原因にして所有権移転登記された後に、遺留分減殺請求があった場合、遺留分減殺請求をした相続人に名義を変更するには、
「遺留分減殺」を登記原因として、遺留分減殺請求を受けた相続人、受遺者、受贈者が登記申請の義務者となり、遺留分減殺請求をした相続人が登記申請の権利者となって、所有権移転登記をすることによって、遺留分減殺請求をした相続人に名義を変更することができます。

「遺留分減殺」を登記原因として所有権移転登記をした場合、相続税がかからない相続では、基本的に、この場合も相続税や贈与税の問題が生じません。不動産取得税もかかりません。

遺留分減殺請求による移転登記

遺留分減殺による移転登記については、遺留分減殺による所有権移転登記を判決書で登記する方法を参考にしてください。

過去の事例(平成21年、横浜地方法務局栄出張所で登記完了)
(過去の事例のため、現在、以下の内容がそのまま適用されるとは限りません。)

公正証書遺言書に基づき、すでに、登記記録上、遺贈、相続を原因として、遺言書に記載された持分で移転登記がなされた。
その後、遺留分を侵害された遺留分権者(法定相続人)から遺贈、相続により名義人となった者に対し、遺留分減殺請求がなされた。
当事者の話し合いの結果、遺留分を侵害された相続人に、名義変更された不動産の一部を取得させ、遺留分を侵害された相続人に取得させる持分が、その者の遺留分を超えるため、その者からすでに名義人となっている者に対し、清算金(価格賠償)を支払う旨の合意がなされた。この合意に基づき、公正証書を作成する。

遺留分減殺の問題点

上記事例の場合、移転登記の原因を遺留分減殺だけにした場合の問題点とその結論

  1. 譲渡所得税、贈与税など国税の問題
  2. 不動産取得税の問題
  3. 移転登記の登録免許税の税率の問題

上記、税務上の問題があるので、必ず、遺産の価格と侵害された相続人の遺留分の価格を正確に計算する必要がある。

  1. 譲渡所得税、贈与税など国税の問題
    遺留分減殺だけを登記原因にして移転登記をした場合、譲渡所得税、贈与税など国税は、基本的に、かからない。(国税庁の相談センターと戸塚税務署に確認)
    理由:遺留分減殺も相続の一環として国税上考えるから。したがって、遺産分割における代償金の支払いと同様に、遺留分減殺において清算金の支払いがあっても、それが法定遺留分の範囲内の額であるならば、贈与税はかからない。
  2. 不動産取得税の問題
    遺留分減殺だけを登記原因にして移転登記をした場合、不動産取得税は、基本的に、かからない。
    理由:遺留分減殺も相続の一環として県税上考えるから。
    ただし、遺留分を超える持分については不動産取得税がかかる、というのが県税事務所の見解。
    国税の場合と比較して、多少、見解の相違がある。
    この場合、遺留分を超える持分について不動産取得税の納付通知が来た場合、異議を申し立てるべきでしょう。
    理由:遺産分割における代償金の支払いと同様に、遺留分減殺において清算金の支払いがあっても、それが法定遺留分の範囲内の額であるならば、不動産取得税はかからない、と考えるべきであり、国税におけるそれと異なる解釈になるから。
  3. 移転登記の登録免許税の税率の問題
    遺留分減殺による移転登記の税率は、1000分の4(0・4%)。これは、相続による移転登記の税率と同じ。
    遺留分減殺だけを登記原因とした場合、実際は(上記の事例では)、遺留分侵害持分を超えた持分も含んでいるので、この超えた持分に対しても、税率の1000分の4(0・4%)を適用することができるか、という問題。
    結論は、移転登記する持分全部に、税率1000分の4(0・4%)を適用。(平成21年、横浜地方法務局栄出張所で登記完了)

登録免許税について登記所に問い合わせ内容

以下の内容は、念のため、必ず、登記所に確認する必要がある。

  • 相談の要旨
    遺留分減殺による持分移転登記の登録免許税の税率について、
    侵害された遺留分を超えて、遺留分減殺による持分移転登記をする場合の登録免許税の税率は、1000分の4(0・4%)を適用してよいでしょうか。
  • 具体的事情
    公正証書遺言書に基づき、すでに登記簿上、遺贈、相続を原因として、それぞれ持分移転登記がなされております。
    他の相続人ら(遺留分を侵害された者)は、名義人らに対して遺留分減殺請求をしております。
    そこで、他の相続人(遺留分を侵害された者)と名義人らは、公正証書により、侵害された遺留分を含めて移転登記された持分について遺留分減殺を原因として移転登記をする旨の合意書を作成中です。
    この公正証書の中で、侵害された遺留分を超えて、持分を移転登記することになるので、他の相続人(遺留分を侵害された者)から名義人に対して、清算金を支払うことになっております。
  • 相談者の意見
    遺留分の割合を超えて移転登記の申請があった場合であっても、これを却下できない、と記載されております。
    遺留分減殺を登記原因として登記の申請があった場合、この登記申請を却下することができない以上、登録免許税の税率も1000分の4(0・4%)を適用せざるをえないものと考えます。

相続登記については、当司法書士事務所にご相談ください。

相続登記について、当司法書士事務所にお気軽にお問い合わせください。
tel:045-222-8559 お問合わせ・ご相談・お見積り依頼フォーム

「相続登記相談事例など」に戻る

タイトルとURLをコピーしました