遺留分減殺による所有権移転登記を判決書で登記する方法

遺留分減殺による所有権移転登記を判決書で登記する方法

2019年(令和1年)6月30日以前に相続が開始した場合、「遺留分減殺」を登記原因として移転登記ができます。これは、「遺留分減殺請求権」には、物権的効力があるからです。
2019年(令和1年)7月1日以降に相続が開始した場合、「遺留分侵害額請求権」を行使することになります。「遺留分侵害額請求権」は、債権的効力であり、物権的効力がありません。

【相談事例】

【遺言書の内容】
「遺言者は、二女○○に次の土地と建物を相続させる。」
【判決文】
「被告は、原告に対し、平成30年8月1日遺留分減殺により、次の土地と建物の持分4分の1について持分移転登記手続をせよ。」
【相談者(二女)からの質問】
相談者は、遺言者から「土地と建物を相続させる。」とされた遺言者の「二女」です。
「原告の長女」の弁護士から、『判決文に、「被告は、原告に対し・・・持分移転登記手続をせよ。」と書かれているので、被告である「二女」が、原告である「長女」名義に、持分移転登記をしてください。登記費用は、被告である「二女」の負担です。』と言われています。
私(被告の二女)は、自分で「原告の長女」のために持分移転登記をしないといけませんか。

遺留分減殺請求権とは

2019年6月30日以前に相続が開始した場合、遺留分減殺請求権には、物権的効力がありますので、遺留分権利者は、物件そのものを自分に引き渡すように請求する権利があります。
物件が不動産であれば、遺留分権利者の遺留分について「持分」として移転登記をするように要求することができます。

事例の場合、「二女」と「長女」が合意すれば、「二女」と「長女」の共同申請で「遺留分減殺」を登記原因として持分移転登記をすることができます。

「二女」が移転登記に応じないときは、裁判(訴訟)で、遺留分権利者の「長女」が原告となり、「二女」を被告として「移転登記手続をせよ」との確定判決を得て、「原告の長女」が自分で移転登記をすることができます。

相続登記申請

遺言で「相続させる。」とされた二女が、次のように、まず先に相続登記をします。

      登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権移転
原   因 平成30年6月30日相続                   
相 続 人 (被相続人 ○○)
      (住所)○○○○
      (氏名・二女)○○
添付情報
  登記原因証明情報   住所証明情報   評価証明情報          
課税価格   金○○○円
登録免許税  金○○○円(税率は、0・4%)                  
不動産の表示 
 所   在  〇市〇町       
 地   番  ○番○
 地   目  宅地
 地   積  ○○・○○平方メートル
         この価格 金○○○円
 所   在  〇市〇町 ○○番地○   
 家屋番号   ○○番○
 種   類  居宅  
 構   造  木造スレート葺2階建
 床 面 積  1階 ○○・○○平方メートル
        2階 ○○・○○平方メートル
         この価格 金○○○円

遺留分減殺による登記(共同申請)

「二女」と「長女」が合意をした場合、「二女」と「長女」の共同申請で「遺留分減殺」を登記原因として持分移転登記をする方法は、次のとおりです。

      登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権一部移転
原   因 平成30年8月1日遺留分減殺  
権 利 者 亡○○遺留分権利者                
      (住所)○○○○
      持分4分の1
      (氏名・長女)○○
義 務 者 (住所)○○○○
      (氏名・二女)○○
添付情報
  登記原因証明情報  登記識別情報  印鑑証明情報  住所証明情報  評価証明情報
移転した持分の課税価格   金1,100万円
登録免許税  金44,000円(税率は、0・4%)                  
不動産の表示 
 所   在  〇市〇町       
 地   番  ○番○
 地   目  宅地
 地   積  ○○・○○平方メートル
         持分4分の1の価格 金1,000万円
 所   在  〇市〇町 ○○番地○   
 家屋番号   ○○番○
 種   類  居宅  
 構   造  木造スレート葺2階建
 床 面 積  1階 ○○・○○平方メートル
        2階 ○○・○○平方メートル     
         持分4分の1の価格 金100万円

【原因】
遺留分権利者の長女が次女に対し意思表示をした日(意思表示が到達した日)の平成30年8月1日
【添付情報の説明】
登記原因証明情報:登記原因証明情報(遺留分減殺を証する書面)、遺留分権利者の長女の戸籍謄本
登記識別情報:義務者「二女」の登記識別情報(相続登記をしたことによって発行された登記識別情報通知)
印鑑証明情報:義務者「二女」の印鑑証明書
住所証明情報:権利者「長女」の住民票

遺留分減殺による登記(判決)

判決の場合、遺留分権利者の「長女」の単独申請で「遺留分減殺」を登記原因として持分移転登記をする方法は、次のとおりです。

      登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権一部移転
原   因 平成30年8月1日遺留分減殺  
権利者兼申請人 亡○○遺留分権利者                
      (住所)○○○○
      持分4分の1
      (氏名・長女)○○
義 務 者 (住所)○○○○
      (氏名・二女)○○
添付情報
  登記原因証明情報  住所証明情報  評価証明情報
課税価格   金1,100万円
登録免許税  金44,000円(税率は、0・4%)                  
不動産の表示 
 所   在  〇市〇町       
 地   番  ○番○
 地   目  宅地
 地   積  ○○・○○平方メートル
         持分4分の1の価格 金1,000万円
 所   在  〇市〇町 ○○番地○   
 家屋番号   ○○番○
 種   類  居宅  
 構   造  木造スレート葺2階建
 床 面 積  1階 ○○・○○平方メートル
        2階 ○○・○○平方メートル     
         持分4分の1の価格 金100万円

【添付情報の説明】
登記原因証明情報:判決書正本(確定証明書付き)
住所証明情報:権利者「長女」の住民票

相続登記、遺留分減殺による登記をした後の「登記記録」

質問に対する回答

【判決文】
被告は、原告に対し、平成30年8月1日遺留分減殺により、次の土地と建物の持分4分の1について持分移転登記手続をせよ。
【相談者からの質問】
相談者は、遺言者から「土地と建物を相続させる。」とされた遺言者の「二女」です。
原告の「長女」の弁護士から、『判決文に、被告は、原告に対し・・・持分移転登記手続をせよ。」と書かれているので、被告である「二女」が、原告である「長女」名義に、持分移転登記をしてください。登記費用は、被告である「二女」の負担です。』と言われています。
私(被告の二女)は、自分で「原告の長女」のために持分移転登記をしないといけませんか。

回答:判決による遺留分減殺の登記の方法

前述のように、判決によって「遺留分減殺」を登記原因として登記申請する場合、遺留分権利者である「原告の長女」が単独で登記申請します。この場合、弁護士の言うように、「被告の二女」が「単独」で登記申請することができるでしょうか。

「被告の二女」の弁護士の解釈では、判決文に「被告は、原告に対し・・・持分移転登記手続をせよ。」と書かれているので、被告である二女が、遺留分権利者である原告の長女のために、二女が単独で申請すべきであるという解釈です。二女が単独で申請するので、登記費用(登録免許税や司法書士報酬)は、二女が負担すべきとの解釈です。

そもそも、二女が遺留分減殺による共同申請に応じないので、遺留分権利者の長女が裁判(訴訟)をしたのであって、「移転登記手続をせよ。」との確定判決を得た場合は、遺留分権利者の長女が自分で単独で登記申請することになります。
被告の二女は、「移転登記手続をせよ。」との判決文で、単独で登記申請することができません。このような判決文では、遺留分権利者の長女が自分で単独で登記申請すべきだからです。
遺留分権利者の長女が自分で単独で登記申請するので、登記費用(登録免許税や司法書士報酬)も長女が負担することになります。また、登録免許税を納める人は、登記の申請人が負担することになっています。

もし、二女が単独で登記申請する場合は、次の「登記引き取り請求権」を行使した場合です。

登記引き取り請求権による二女の単独申請

事例で、二女が遺留分減殺による共同申請に応じる意思があるにもかかわらず、これに、遺留分権利者の長女が応じない場合、二女が原告となり、遺留分権利者の長女を被告として、「被告は、原告に対し・・・持分移転登記手続をせよ。」との裁判(訴訟)をすることができます。
これを「登記引き取り請求権」といいます。

この判決が確定すれば、二女が単独で「遺留分権利者の長女」名義に「遺留分減殺」を登記原因として申請することができます。この場合、登記費用(登録免許税や司法書士報酬)は、二女が負担することになります。

まとめ

判決文に、「被告は、原告に対し・・・移転登記手続をせよ。」と書かれている場合、単独で登記申請するのは、原告であって被告ではありません。これは、遺留分減殺の場合だけではなく、登記原因が売買など、ほかの登記原因の場合も同じです。
(後日談)
先の「長女の弁護士」から二女に対し、「私の解釈が間違っていました。」と連絡があったとのことです。