遺産分割協議が不調なときの預金の相続手続と遺産分割調停(相続相談)

遺産分割協議が不調なときの預金の相続手続と遺産分割調停(相続相談)

【預金の相続事例】
預金:600万円
その他遺産はない。

【相続関係(兄弟姉妹の相続)】
被相続人:叔母(配偶者も子もいなかった。)
相続人:母と伯父の子(代襲相続人)

【相談内容】
被相続人の叔母は、生前、身体が不自由だったので、私(相続人母の子)が、母に代わり叔母の面倒をみてきました。叔母は、銀行に行って預金を引き出すこともできなかったため、私が、叔母の介護費用や入院費などを立替えて支払っていました。(立替費用:200万円)

今回、叔母が亡くなりましたので、私が母に代わり、代襲相続人の従姉と預金の遺産分割について交渉することになりました。

私の立替費用のこともあり、従姉と遺産分割について話し合いをしました。
私が、従姉に遺産分割を提案した内容は、次のとおりです。

預金600万円のうち、私の立替金(200万円)を差し引いた残額を、母と従姉で半分ずつ相続するという内容です。

この提案をしたところ、従姉は難色を示して、預金の他に遺産があるはず、と言い張り、遺産分割の話しは物別れとなってしまいました。
叔母には現金もなく、預金も引き出せなかったことから、叔母に係るもろもろの費用を私が立替えていたという経緯があります。ですので、現金はありませんでした。また、他に遺産もありませんでした。

従姉は、この遺産分割の話し合いの前すでに、銀行に対して口座凍結を申出ていたとのことです。この理由を、だれかが勝手に引き出すのを防ぐ目的だから、という説明でした。
後に、私が銀行に問い合わせをしたところ、銀行が従姉に「相続解約請求書」を郵送したことが判明しました。

遺産分割の話しが物別れとなってしまった現状では、今後、どのような対応をしたらよいでしょうか。

相手方(従姉)の行動予測

相手方は、すでに、「相続解約請求書」を受取っていますので、相続手続に必要な書類を集めるものと思われます。
銀行が「相続解約請求書」を郵送するときは、預金の相続手続に必要な書類の説明書も一緒に郵送していますので、これで、相手方は、相続手続の必要な書類を知ることになります。

従姉は、この遺産分割の話し合いの前すでに、銀行に対して口座凍結を申出ていたとのことです。この理由を、だれかが勝手に引き出すのを防ぐ目的だから、という説明でした。
後に、私が銀行に問い合わせをしたところ、銀行が従姉に「相続解約請求書」を郵送したことが判明しました。
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従姉は、銀行に電話し、「相続解約請求書」を郵送させていますので、明らかに、預金の相続手続をする目的があって、口座凍結の申出をしたと言えます。

相続書類の収集

相手方は、相続書類の収集を行うと思われますが、今回の相続では、叔母には配偶者も子もいなかったことから、叔母の兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人の兄弟姉妹が相続人となるときの相続書類は、法定相続分で相続登記(必要書類)でご確認ください。
このように、今回の兄弟姉妹の相続では、相続書類を多数取寄せる必要がありますので、従姉本人で、すべての相続書類を収集するのが難しいと思われます。
従姉本人が収集する場合、一か月以上はかかると思われます。この収集を司法書士など専門家に依頼した場合であっても、一か月はかかると思われます。

当面の対応方法

  1. 相続人は、相談者の母と従姉なので、従姉ではなく、相続人である母に「通帳など遺産」を渡した、ということにしてはいかがでしょうか。従姉には、通帳のコピーを渡します。
  2. 相手がごねている現状では、相続手続が進みませんので、このまま保留状態で、何もしないようして、3か月ほど様子を見てはいかがでしょうか。相手がごねている現状では、将来的には、遺産分割調停となることを想定します。

次回、交渉の結果、従姉が明らかに争う姿勢を見せたときの対応方法

立替金の請求

従姉が、次に明確に争う姿勢を見せたときには、次の段階として、従姉が相続人として負担すべき「立替金の2分の1の100万円(分割債務)」を請求します。
「立替金」は被相続人の叔母の「債務」ですので、相続人は「債務」も相続することになります。
100万円の請求は、内容証明郵便でします。このようにすれば、遅延損害金(年3%)も請求できることになります。

遺産分割調停

遺産分割調停については、申立てを、相続人の母か、相手方か、どちらがするのか、しばらく様子を見た方がよいでしょう。
従姉が、遺産分割調停を申立てをしようとする場合、前述の「被相続人・相続人の相続証明書全部と戸籍の附票」を揃える必要があります。
また、遺産分割調停の申立書など書類作成を従姉本人ができないときは、司法書士にその作成を依頼することになります。
場合によっては、弁護士に遺産分割調停の代理を依頼することになるかもしれません。

相手方の従姉としては、遺産分割調停の申立てを自分でしても、弁護士を代理人としても、どちらも、結果は同じで、従姉に有利な結果とはならないでしょう。

なぜなら、現在、立替金を除いた残額で、相談者の母と従姉で折半(法定相続分)することを交渉しているからです。
このことは、遺産分割調停となった場合でも、結果は同じ(法定相続分)だからです。従姉の取り分は、結果として同じです。従姉の取り分の計算方法は、次のとおりです。

  1. 遺産分割協議で、立替金を差し引いた残額を2分の1(法定相続分)ずつ分配する場合
    (600万円-200万円)×1/2=200万円
  2. 遺産分割調停で2分の1(法定相続分)ずつ分配し、立替金の2分の1(法定相続分)を支払う場合
    600万円×1/2-100万円=200万円

このように、従姉の取り分は、200万円で同じです。
今現在、遺産分割協議が成立すれば、従姉は、何ら手続をすることなく、200万円を手にすることができます。

これを、遺産分割調停でするとすれば、

  1. 「被相続人・相続人の相続証明書全部と戸籍の附票」を収集しなければなりません。
    この収集を司法書士など専門家に依頼すれば、実費の他、報酬を約5万円支払う必要があります。
  2. 従姉が、遺産分割調停の申立てする場合、申立書類の作成を司法書士に依頼すれば、実費の他、報酬を約10万円支払う必要があります。
    従姉が、遺産分割調停の申立ての代理を弁護士に依頼する場合、実費の他、弁護士に着手金:30万円と、成功報酬を約10%として(300万円×10%=30万円)、合計約60万円を支払う必要があります。

預金の一部の払い戻し

従姉は、相続人母の同意を得ることなく、預金の一部の払い戻しができます。

現在、法定相続人は、他の相続人の同意を得ることなく、預金の一部を払い戻すことができます。
例えば、被相続人叔母の預金が600万円の場合、次の計算方法で、従姉は、預金の一部の払い戻しができます。
600万円×1/3×1/2(法定相続分)=100万円

次のページでご確認ください。
遺産分割前の預貯金の払戻し制度の新設

まとめ:遺産分割協議が不調なときの預金の相続

預金の相続手続で遺産分割協議が不調なときは、こちらは焦ることなく、しばらく相手方の様子を見ることにします。
相手方が、話し合いに応じようとせず、相手方が自分で預金の相続手続をしようとしている様子が伺えるようなときには、預金を手にしたいと考えているはずなので、こちらとしては、相手方から申し出があるまで、じっと待つことです(3か月ほど)。
相手方の申出次第では、相手方が争う姿勢を明確にしたときは、こちらとして、その後の請求や手続を「感情を交えず」に粛々と行うことが必要です。

今回の相談者の場合、膠着状態となっていつまでに、という限度はありますが、この限度(3か月ほど)までは、じっと待つことが必要です。相談者としては、今回の事例では、遺産分割協議、遺産分割調停のどちらにしても結果は同じで、損をすることはありません。
ですので、焦らないことが必要です。
遺産分割調停の申立ては、できるだけ相手方がするのを待ち、こちらから申立てをしないようにします。こちらが申立てようとすれば、手間暇、費用がかかります。

相続登記や預貯金(預金・貯金)の相続手続については、当司法書士事務所にご相談ください。

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