推定相続人の子が一人の場合と二人以上いる場合の生前贈与【相続対策】

推定相続人が子一人の場合であっても、生前贈与をした方がよいのか?【相続対策】

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

【相続登記相談事例】
現在、父が高齢となっているため、生前贈与により自宅の土地建物を子(推定相続人一人)の私名義に変更しておいた方がよいのか教えてください。
【相続関係】
父(80歳)の推定相続人:子(50歳)一人のみ
【現在の財産】
● 父と子が居住している土地(100㎡)・建物(平成20年建築)
  土地・建物の評価価格(固定資産税)合計:1,500万円(土地が1,000万円、建物が500万円)
  土地の路線価:15万円
  土地:15万円/㎡×100㎡=1,500万円
  建物:500万円
  合計:2,000万円
● 預貯金など金融資産:200万円

父の推定相続人が子一人の場合、父の相続が開始したとき、相続人は子一人であるので、その子が父の遺産すべてを相続取得します。
ですので、事例の場合、基本的には、父が死亡し、相続が開始した後に、相続登記(相続による不動産名義変更)をした方がよいでしょう。

推定相続人とは、相続が開始した時、相続人となる人のことをいいます。相続開始前においては、未だ、法律上の「相続人」ではありませんので、推定相続人といいます。

このページでは、推定相続人が子一人の場合、基本的には、登記名義人が死亡し、相続が開始した後に、相続登記(相続による不動産名義変更)をした方がよい理由について解説します。また、推定相続人が2名以上いる場合、生前贈与(相続時精算課税制度による贈与)をした方がよいケースについても解説します。

登録免許税の違い:生前贈与と相続とで登録免許税が異なる

生前贈与による登記(名義変更)と「相続」による登記(名義変更)とでは、登録免許税が異なります。

登録免許税は、登記申請の際、法務局(登記所)に納める税金のことを言います。登録免許税は、登記の原因(売買贈与相続など)により異なります。

生前贈与の場合の登録免許税

登記原因を贈与で登記する場合の登録免許税の税率は、「評価価格」の2%です。
例えば、事例のように評価価格が1,500万円の場合の登録免許税は、次の計算式により算出します。
1,500万円×2%=300,000円
評価価格が1,500万円であれば、「贈与」の登録免許税は30万円かかることになる。

固定資産税納税通知書・課税明細書

固定資産税納税通知書・課税明細書(見本)
固定資産税納税通知書・課税明細書(見本)

評価価格は、一般的に「評価価格」といい、市区町村役場によって言い方が異なります。「評価額」という言い方の場合もあります。評価価格は、固定資産税や都市計画税を算出する基になる価格です。ですので、固定資産税納税通知書の「課税明細書」に記載されている一番高い価格が「評価価格(評価額)」ということになります。

「相続」を登記原因とする場合の登録免許税

登記原因を「相続」で登記する場合の登録免許税の税率は、「評価価格」の0・4%です。
例えば、事例のように評価価格が1,500万円の場合の登録免許税は、次の計算式により算出ます。
1,500万円×0・4%=60,000円
評価価格が1,500万円であれば、「相続」の登録免許税が6万円で済む。

不動産取得税の違い:生前贈与と相続とで不動産取得税が異なる

生前贈与の場合の不動産取得税

登記原因を贈与で登記する場合の不動産取得税の税率は、基本的には、居住用であれば「評価価格」の3%、非居住用であれば「評価価格」の4%です。

居住用不動産の不動産取得税

事例の場合、生前贈与をするとすれば、子が居住用不動産(平成20年建築)の取得に該当しますので、不動産取得税の減税適用により、非課税か数万円の不動産取得税で済むことになります。
不動産取得税については、不動産取得税(買主)を参考にしてください。

非居住用(共同住宅・店舗・事務所など)の不動産取得税

例えば、事例のように評価価格が1,500万円の場合の不動産取得税は、次の計算式により算出します。
土地:1,000万円×1/2×4%=200,000円
建物:500万円×4%=200,000円
合計:400,000円
評価価格が1,500万円で非居住用あれば、「贈与」の不動産取得税は40万円かかることになる。

「相続」を登記原因とする場合の不動産取得税

「相続」を登記原因とする場合、不動産取得税はかかりません。

贈与税の問題

生前贈与の場合、贈与税の問題があります。贈与税は、基本的には、高額となりますので、注意が必要です。
事例のように親から子への生前贈与の場合、暦年贈与相続時精算課税制度の贈与が考えられますが、事例の場合、この二つのうち、生前贈与を行うとすれば、相続時精算課税制度による贈与を選択します。

相続時精算課税制度を利用して生前贈与

通常、事例の場合、相続時精算課税制度を利用して生前贈与することが可能です。
通常の贈与(暦年贈与)では、贈与税が高額でかかることになりますので、相続時精算課税制度を利用した生前贈与がよいでしょう。

相続時精算課税制度を利用した生前贈与とは、財産を所有する人(60歳以上)が、生前に、子や孫(18歳以上)に財産を贈与する場合、この贈与した財産を相続時に、相続財産に戻して相続税の計算をするというものです。
この場合、贈与する価額から特別控除額の2,500万円(累計)を控除し、さらに贈与税の基礎控除額の110万円を控除します。その結果、マイナスになる場合は、贈与税が非課税となります。これがプラスになる場合は、税率が一律20%かかるというのが、相続時精算課税制度を利用した生前贈与です。
詳しくは、相続時精算課税制度を利用した生前贈与を参考にしてください。

相続時精算課税制度を利用した生前贈与では、事例の場合(土地建物:2,000万円)、贈与税の計算は、次の計算式となります。
2,000万円-2,500万円(特別控除額・累計)-110万円(基礎控除額)=-610万円→0円
贈与税がかからないことになります。

【相続時精算課税制度を利用した生前贈与では、確定申告が必要】
相続時精算課税制度を利用した生前贈与では、相続時精算課税選択の特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年の確定申告の時期までに、相続時精算課税選択の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に、相続時精算課税選択届出書、住民票、登記事項証明書などの書類を添付して、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。

まとめ:推定相続人が子一人の場合であっても、生前贈与をした方がよいのか?【相続対策】

以上のことから、生前贈与で名義変更する場合、登録免許税、不動産取得税、贈与税の問題があります。ですので、推定相続人が子一人の場合、相続が開始した後、自分名義に確実に登記ができるのであれば、生前贈与を選択することなく、「相続」で名義変更した方がよいことになります。

ただし、極稀(ごくまれ)に、父が認知していない子がいる場合、父が遺言で別の子を認知することがあります。
通常、推定相続人が子一人の場合、このようなこと(父が遺言で別の子を認知)を知らないのが普通です。
この場合、相続が開始した後、子が全部を相続することができないことになります。

推定相続人の子が二人以上いる場合の生前贈与【相続対策】

生前贈与には、前述のように、登録免許税、不動産取得税、贈与税の問題があります。推定相続人が二人以上いる場合に生前贈与を行うときは、これらの税金の問題を考慮する必要があります。
それでも(税金の問題があったとしても)、推定相続人が二人以上いる場合、次のようなケースでは、生前贈与(相続時精算課税制度による贈与)を選択してもよいでしょう。

自宅の所有権を確保したいとき

生前贈与(相続時精算課税制度による贈与)で行う場合

例えば、父所有の土地建物に子の一人が居住している時、その子がその土地建物に、今後もずっと住み続けたいと考えている場合は、生前贈与で土地建物の所有権を確保しておいた方がよいといえることがあります。

この場合(その子がその土地建物に、今後もずっと住み続けたいと考えている場合)、相続開始後、相続人間での話し合い(遺産分割協議)が上手くいかない場合は、その土地建物を売却などして、引き続き住むことが困難となる可能性があるからです。
このような場合は、生前贈与で土地建物の所有権を確保しておいた方がよいでしょう。

遺言書で行う場合

推定相続人の子が二人以上いる場合で、父に遺言書を書いてもらう場合、遺言書の作成は、公正証書による遺言書で作成します。他の方式の遺言書(自筆証書遺言書登記所保管制度の遺言書)では、相続開始後、速やかに名義変更(相続登記)をすることが難しいからです。

公正証書遺言書で相続登記をした場合、他の相続人の子には、遺留分がありますので、他の相続人の子から遺留分侵害額請求権を行使されることがあります。この場合(遺留分侵害額請求権を行使された場合)、他の子の遺留分に相当する金額を支