遺産が預貯金のみの場合の相続分譲渡のメリットと遺産分割協議の方法
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
【相続相談・実例(2024年)預貯金相続手続完了】
令和〇年、長女が死亡(配偶者・子なし)し、兄弟姉妹の長男、二男、二女、三女4名が相続人です。
長女の生前、長男は、長女の面倒を見ており、他の相続人は、長女の面倒をまったく見ていなかったという事情があります。
長男は、長女の介護施設立替金、病院治療費・入院費用、葬儀・納骨関連費用などを立替えて支払っています。
このような事情から、相続人4名のうち二男は、相続しなくてもよいと長男に伝えています。長男が他の相続人との話し合い、書類の取りまとめを主導し、預貯金の相続手続を行おうとしています。
他の相続人:二女、三女は、法定相続分で遺産を分配するように主張しています。
この場合、長男は、どのような方法でほかの相続人と協議したらよいでしょうか。長男は、他の相続人よりも多く遺産を取得したいと考えています。
【事例の場合で分かること】
(1)法定相続人は、兄弟姉妹の長男、二男、二女、三女の4名。
(2)長女の生前、長男は、長女の面倒を見ており、他の相続人は、長女の面倒をまったく見ていなかったという事情がある。
(3)長男は、長女の介護施設立替金、病院治療費・入院費用、葬儀・納骨関連費用などを立替えて支払っていた。
(4)預貯金は、合計:4,000万円であるので、法定相続分で分配することになれば、相続人一人当たり1,000万円。
(5)二男は、一人当たりの分配額:1,000万円をいらないと、長男に言っている。
(6)他の相続人:二女、三女は、法定相続分で遺産を分配するように主張している。
事例の場合の考え方(方針)
預貯金を法定相続分により均等で分配する方法
二男は、法定相続分により均等で分配する場合の一人当たりの分配額:1,000万円をいらないと、長男に言っているが、二女、三女は、法定相続分で遺産を分配するように主張しているので、通常であれば、預貯金合計:4,000万円を長男、二女、三女の3名で均等に分配(一人当たり13,333,333円)することになります。
そうしますと、長男は、生前の長女の面倒を見ていたという事情が考慮されないことになり、長男の長女に対する貢献度が報われないことになります。長男の寄与分ということも考えられますが、寄与分をいくらにするかは、その算定が必ずしも簡単ではなく、また、遺産分割協議で他の相続人の同意が必要となります。
二男から長男に相続分を譲渡する方法
そこで、二男の法定相続分4分の1を長男に譲渡することを検討します。
相続分の譲渡は、ある遺産に限定することなく、相続人の相続権の全部(または一部)を他に譲渡することをいいます。詳しくは、相続分の譲渡(注意点:基本は相続の同順位同士で)を参考にしてください。
相続分の譲渡であれば、ほかの相続人の相続権を取得することで、後に、(相続分譲渡をしていない)ほかの相続人との遺産分割協議も可能となります。(相続分譲渡は、遺産分割協議の前に行うことで、後に、ほかの相続人との遺産分割協議を行うことが可能となります。)
また、相続分譲渡は、譲渡人・譲受人との契約であるため、他の相続人の同意を得ることなく行うことができます。
長男が二男の相続分4分の1を取得することで、相続分での分配を行ったとしても、結果的に、長男は、二女、三女よりも分配金が多くなります。
長男の取得金額
4,000万円×(1/4+1/4)=2,000万円
二女、三女の取得金額
4,000万円×1/4=1,000万円
相続分譲渡証書の作成
事例の場合、まずは、相続分譲渡証書を作成します。
相続分譲渡証書(例)
被相続人 長女 ○○
生年月日 昭和〇年〇月〇日
死亡日 令和〇年〇月〇日
最後の本籍 ○○○○
上記被相続人の相続に関し、相続人の二男○○(甲)は、相続人の長男○○(乙)に対し、その相続分(4分の1)全部を譲渡し、長男○○(乙)は、これを譲り受けた。
令和〇年〇月〇日
譲渡人甲(二男)
(住所)○○○○
(氏名)○○ ㊞(実印、印鑑証明書)
譲受人乙(長男)
(住所)○○○○
(氏名)○○ ㊞(実印、印鑑証明書)
預貯金の相続手続で、相続分譲渡証書を金融機関に提出しますので、譲渡人・譲受人ともに、実印で押印し、印鑑証明書を付けます。
遺産分割協議書の内容、作成
長男が二女・三女と遺産分割協議をし、合意したので、次のような遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書(一部省略)
被相続人:長女○○(昭和〇年〇月〇日生)の令和〇年〇月〇日死亡により開始した相続につき、同人の相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。
同人の相続人は、次のとおりである。
長男○○、二男○○、二女○○、三女○○、以上4名。
ただし、二男○○は、別紙「相続分譲渡証書」に記載のとおり、長男○○に対しその相続分(4分の1)全部を譲渡し、長男○○はこれを譲り受けている。これにより、長男○○の相続分は2分の1である。二女○○、三女○○の相続分は各4分の1である。
記
【預貯金】(個別明細省略)
以上預貯金の合計額:4,000万円
【債務(以下、全部 立替者:長男○○)】(個別明細省略)
以上債務の合計額:300万円
上記預貯金全額の相続解約払戻し手続き完了後、各金融機関からの支払を受けた後、上記預貯金全額から被相続人長女○○のために長男○○が立替えていたものなど金300万円を長男○○が受け取った後の残金について、長男○○が2分の1の割合で取得し、二女○○、三女○○が各4分の1の割合で取得する。
ほかに相続すべき預貯金等金融資産があった場合も、長男○○が2分の1の割合で取得し、二女○○、三女○○が各4分の1の割合で取得する。以上の預貯金の解約払戻し手続及び長男○○、二女○○、三女○○への支払いについては、次の者に依頼、委任する。
受任者(省略)
長男○○、二女○○、三女○○への送金は、前記受任者より行う。
以上、遺産分割協議が成立したことを証するため、協議書を作成して署名押印する。
まとめ:遺産が預貯金のみの場合の相続分譲渡のメリットと遺産分割協議の方法
事例のように、相続人の一人が生前の被相続人の面倒を見ており、被相続人に関する立替金を負担していたような場合、他の相続人から相続分の譲渡を受けることで、自分の相続分にプラスして相続分を増やすことが可能となります。その結果、預貯金など遺産の分配額を増やすことができることになります。事例の場合、長男の寄与分を考慮することもできますが、その算定は簡単ではありませんので、相続分譲渡を選択することで、長男の分配額を増加することが容易となります。
このようにすることで、長男の被相続人に対する貢献度が反映されることになり、長男は報われることになります。
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