相続放棄の意味

相続放棄の意味

ご相談などで来られる方の中には、過去の被相続人の遺産について『私は相続放棄しました。』という人がいます。司法書士など専門家は、『私は相続放棄しました。』と言われますと、「家庭裁判所で相続放棄」したものと解釈します。ですが、よくよく話しを聞くうちに「家庭裁判所で相続放棄」したのではなく、相続人同士の話し合いで「相続放棄しました。」ということがよくあります。
こういう場合は、『私は何も相続しませんでした。』というのが正確な話し方といえます。

「相続人同士での相続放棄」と「家庭裁判所での相続放棄」の違い

「相続人同士での相続放棄」の場合、遺産分割協議では、相続人全員が参加して協議します。「相続人同士での相続放棄」をする人でも遺産分割協議に参加します。
これに対して、「家庭裁判所での相続放棄」をした相続人は、相続人から外れますので、遺産分割協議そのものに参加して協議することができません。

一般的に、相続人の間で遺産分割協議を行うとき、「私は相続放棄します。」という場合があります。これで、亡くなった方(被相続人)の遺産について「相続しない。」ということを意味します。ですが、この場合、遺産分割協議書とは別に、相続放棄した人の相続放棄証明書というものは作成しません。
これは、あくまでも、遺産分割協議書の中で、積極財産、消極財産を誰が相続するか、という記載になります。この遺産分割協議書には、法定相続人全員が署名・実印を押印しますので、当然、この相続人の中には、「私は相続放棄します。」と 言った相続人も署名・実印の押印をすることになります。

遺産分割協議書の中に、「私は相続放棄します。」と 言った相続人が何も相続するものが記載されていなければ、この相続人は、他の相続人に対して「相続しない。」ということを意味します。また、遺産分割協議書の中で、通常こういう記載の仕方はしませんが、「誰々は何も相続しない。」と、あえて記載しても、しなくても問題ありません。

法定相続人の中に、家庭裁判所の相続放棄の手続をした人がいる場合、この人は、他の相続人に対して「家庭裁判所から郵送された相続放棄申述受理通知書」を渡しておけばよいことになります。
この相続放棄した人は、遺産分割協議書に署名捺印をすることはありません。なぜなら、家庭裁判所の相続放棄が完了すれば、放棄した人は、始めから相続人とはならなかったとみなされるからです。
すなわち、家庭裁判所の手続で相続放棄した人は、そもそも遺産分割協議に参加する相続人としての資格がないことになります。ですから、遺産分割協議書に署名捺印ができないことになります。

被相続人の遺産に債務がある場合

いわゆる「私は相続放棄します。」という場合、遺産の中に債務がある場合、債権者には通用しません。相続放棄する相続人が、被相続人の債務を免れるためには、債権者の同意が必要になります。

債権者に通用するには、相続開始から原則3か月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしなければなりません。これによって債権者の同意なく、債務を免れることができます。

一般的に言われる相続放棄と家庭裁判所に対する相続放棄との違いに注意する必要があります。

相続放棄と相続財産管理人

積極財産(プラスの財産)のない相続放棄

相続放棄とは、消極財産(マイナスの財産・借入れ)が積極財産(プラスの財産)を上回る場合に行われます。
相続放棄(家庭裁判所の手続)は、法律上、相続開始の時点から、あるいは自分に相続権があることを知った時から3ヶ月以内(原則)に、家庭裁判所に対し申立てる(申述)ことにより、債務を免れることができます。(債務が免除される)

積極財産(プラスの財産)が全くなく、消極財産(マイナスの財産・借入れ)のみがある場合、相続権のある第1順位(と配偶者)の相続人が相続放棄の申立をし、次に、第2順位以降の相続人が相続放棄の申立をします。
このようにして、相続権の順番に相続放棄の申立をしていきます。
最後には、相続権を持った人が誰もいなくなります。

積極財産(プラスの財産)が全くない場合は、これで相続手続、債務が完了します。

積極財産(プラスの財産)のある相続放棄

積極財産(プラスの財産)がある場合、例えば、アパートローンの残額がアパートの土地・建物の価格を超えるとき、アパートを売却してもアパートローンの残額を返済できないときは、まず、上記のように相続放棄を家庭裁判所に申立てます。
相続権の順番に相続放棄をします。

アパートは、相続人が相続財産管理人に引き渡すまで、その管理をします。

相続権を持った人が誰もいなくなると、相続財産は、相続財産管理人が管理、処分することになるので、家庭裁判所に対し相続財産管理人選任の申立をします。
この申立をする人は、相続人であった人でもいいし、アパートローンの債権を有する債権者も利害関係人として、申立てることができます。

選任された相続財産管理人は、アパートを売却して、アパートローン(債務)を返済することになります。

この事例のように、相続人であった人は、相続財産管理人が選任され、アパートを引き渡すまで、きちんと管理しなければなりません。

なお、相続財産管理人を参考にしてください。

特別受益証明書とは(相続分を受け取る権利がありません、という意味に解釈されてしまう場合がある。)

相続人の間で行う遺産分割協議(話し合い)の場合、「私は、生前、お父さん(被相続人)から法定相続分に見合うもの(不動産や金銭など)をもらっていた(生前贈与)ので、今回の相続でもらおうとは思っていません。」ということもあります。
こういう場合、「特別受益証明書(相続分がないことの証明書)」という書面に、この人(特別受益者)が署名・実印を押印する(印鑑証明書付き)場合があります。これを不動産の名義変更登記で使用することはあります。
この特別受益証明書の意味は、「相続しません。相続放棄します。」という意味ではなく、「私は、被相続人の生前、相続分に見合うものをもらっていたので、今回の遺産分割協議では、遺産を相続しません。」という意味になります。
このような特別受益証明書に署名・捺印(実印)した相続人であっても、被相続人に債務があれば、これを免れることができません。特別受益証明書を渡したからといって債務を免れることができません。債務を免れるには、債務を引き継ぐ相続人について債権者の同意が必要だからです。

今から30年ほど前までは、今でもそうしていることもあるかもしれませんが、被相続人の生前、法定相続分に見合ったもの(不動産や金銭など)をもらっていなかったにもかかわらず、特別受益証明書に署名捺印(実印と印鑑証明書付き)することがありました、あります。

この場合(もらっていなかった場合)、特別受益証明書に署名捺印をするということは、「私は、被相続人の生前、法定相続分に相当する財産をもらっていたので、今回の相続では、私は、相続分を受け取る権利がありません。」と言っていることを意味します。
このような内容の特別受益証明書に署名捺印をするように他の相続人から言われた場合(昔はよくありました。今でもあるかもしれません。)、それが真実であれば問題ありませんが、真実でない場合(もらっていなかった、生前贈与を受けていなかった場合)、最初に説明しました「私は、相続しません。」と同じ意味となってしまいます。あるいは 「相続分を受け取る権利がありません」という意味に解釈されてしまう場合があります。

それはそれで、 このような(真実ではない)内容の特別受益証明書に署名捺印する本人が、これを承知で納得しているのであれば問題ありませんが、安易に署名捺印をすることは避けた方がよいでしょう。

このように、厳密に言えば、遺産分割協議では、遺産にどういうものがあり、その金額、価値がどれだけあるのかを相続人全員に示して、生前贈与を受けていた相続人がいるのであれば、「あなたは、特別受益があったので、だから、あなたには、今回、相続分を受け取る権利がありません。」という順序で行った方がよいでしょう。説明もしないで、ただ単に、こういう書面(特別受益証明書)に署名捺印をしてください、といやり方は、他の相続人にとっては疑念の残るやり方と思われてしまうでしょう。
こういう場合は、遺産分割協議書で、誰が何を相続するという内容の書面に相続人全員が署名捺印する方法の方がよいでしょう。

厳密に言えば、例え、生前贈与を受けていた場合であっても(法定相続分に相当するかもしれない財産の贈与を受けていた場合であっても)、相続開始時における遺産全体の金額(価値)は増減するものです。
遺産分割協議(話し合い)では、相続人全員が納得するように、全ての遺産(金額・価値を含めて)を示して、特別受益証明書に頼ることなく、誰が何を相続する(相続しない人は何も書かれない)という内容の遺産分割協議書に相続人全員が署名捺印する方法がよいと思われます。

物事は、まず厳密に考えて、その後に色々な事情を考慮して結論を出すのがよいでしょう。
自分だけが得をするような方向に持っていこうとすると、他の相続人の反発を招くことになり、そうしますと、裁判で解決しなければならないことになり、時間と手間、お金がかかってしまうことになり、結局、損をすることになってしまうでしょう。

相続放棄したときの生命保険金は

相続放棄した場合、生命保険金は受け取れるでしょうか。

例えば、亡くなった父親の借金の総額が2億円で、父親が亡くなったことによる生命保険金が2億円の場合、父親の2億円の借金を相続放棄しても、2億円の生命保険金を受け取ることができるでしょうか。
この問題は、生命保険契約の受取人が誰になっているかによって結論が異なります。

生命保険金を受け取って相続放棄ができる場合

(1)保険証券の記載が「保険金受取人 A」
(2)保険証券の記載が「保険金受取人 相続人」

受取人がA(または相続人)というように、「ある特定の人」が指定されている場合は、ある特定の受取人が生命保険金請求権を取得します。

受取人が指定されているかどうかは、「保険証券」に記載されている内容で確認します。
この場合、保険金が相続財産には含まれませんので、相続放棄した相続人が指定されているときは、生命保険金請求権を取得し、生命保険金を受け取ることができます。
生命保険金を受け取っても相続放棄ができます。

なお、生命保険金を受け取った場合、相続税の関係では「みなし相続財産」となりますので、相続税の対象となります。生命保険金から控除できる(差し引くことのできる)金額は、「500万円×法定相続人の数」です。
法定相続人が3人であれば、1,500万円までの保険金には相続税がかからないことになります。
相続税については、相続税の主な内容を参考にしてください。

生命保険金を受け取って相続放棄ができない場合

次の場合(保険金の受取人が指定されていない場合)、保険金を受け取った場合は、相続放棄ができなくなります。保険金が相続財産の中に含まれることになります。相続放棄をすると生命保険金を受け取ることができなくなります。
(3)保険証券の記載が「保険金受取人 被相続人(亡くなった人の名前)」
(4)保険証券の記載が「保険金受取人 空欄」

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