第1順位の相続人で相続債務を止める限定承認

第1順位の相続人で相続債務を止める限定承認

相続が開始し、被相続人の債務がプラスの遺産の額を超えるとき、超える可能性があるとき、法定相続人は、通常、家庭裁判所に相続放棄を申し立てます。(相続放棄の申述
【事例】プラスの遺産が、現金・預貯金の合計が1万円、マイナスの遺産が1,000万円、不動産はありません。相続人は、配偶者・子3名、被相続人には兄弟姉妹が5名います。この場合、通常通り、相続放棄の手続をした方がよいでしょうか。
通常、このような場合、相続放棄の手続を考えることになります。相続放棄をしなければ、1,000万円の債務を支払わなければならなくなるからです。

通常の相続放棄の手続は

相続放棄を選択する場合、事例では、まず、配偶者と第1順位の法定相続人全員(子3名)が家庭裁判所に相続放棄を申立て、受理されますと、相続放棄した法定相続人 (配偶者と子3名) は、初めから相続人ではなかったことになりますので、第2順位の法定相続人(被相続人の父母→祖父母)が相続人となります。

事例の場合、被相続人の父母はすでに死亡しているため、相続権が被相続人の兄弟姉妹(第3順位の相続人)に移ります。この兄弟姉妹も1,000万円の債務を支払いたくないと思いますので、この兄弟姉妹全員5名も、同じように相続放棄の申立てをします。

第3順位の兄弟姉妹5名全員も相続放棄を受理されますと、相続人がだれもいない状態、相続人不存在の状態となります。
これで、相続放棄の手続が完了することになります。

通常の相続放棄の手続を行うことでの問題点

通常の相続放棄の手続を行う前は、それほど面倒なことはないと思うかもしれません。

配偶者と子3名(第1順位の相続人)が相続放棄を申立てる場合

初めに、配偶者と子3名が行う場合、家庭裁判所に提出する書類も多くはありません。次の書類を提出します。(相続開始から3か月以内の申立の場合です。)

  1. 被相続人の住民票の除票(被相続人の最後の住所を証明します。)
  2. 被相続人の除籍謄本(事例の場合、配偶者がいますので、配偶者記載の戸籍謄本)
  3. 配偶者の戸籍謄本(被相続人と同じ戸籍に記載されていますので不要です。)
  4. 子3名の戸籍謄本(子が結婚している場合は配偶者とは別の戸籍謄本、子が結婚していない場合は配偶者と同じ戸籍に記載されていますので不要です。)
    → 子3名が被相続人の子であることを証明できさえすれば問題ありません。
  5. 配偶者と子3名の住民票の提出は不要ですが、申立書に「住所」を正確に記入するため住民票を取得した方がよいでしょう。

このように考えますと、配偶者と子3名の相続放棄の手続が非常に簡単にできることが分かります。

被相続人の兄弟姉妹5名(第3順位の相続人)が相続放棄を申立てる場合
被相続人の必要書類
  1. 被相続人の住民票の除票(被相続人の最後の住所を証明します。)ただし、配偶者と子が裁判所に提出した除票を援用できますので、提出は不要です。
    配偶者と子が相続放棄をしたということを知らなかった場合(配偶者・子と兄弟姉妹が疎遠の場合)、兄弟姉妹は、被相続人の住民票の除票を取得して、被相続人の最後の住所を確認する必要があります。
  2. 被相続人の除籍謄本(戸籍謄本)のほかに、
    被相続人の出生から死亡まですべての除籍謄本(子3名以外に子がいないことを証明します。)
    被相続人父母の除籍謄本(父母が死亡していること証明します。)
相続放棄の申立てをする兄弟姉妹(第3順位の相続人)の必要書類
  1. 戸籍謄本(有効期限:3か月)
  2. 住民票:家庭裁判所に提出する必要はありませんが、申立書に正確に記入するため取得した方がよいでしょう。。
  3. 被相続人の配偶者と子が相続放棄をしたことの書面(相続放棄申述受理通知書または相続放棄・限定承認の照会書の結果)
    兄弟姉妹が配偶者・子と連絡がとれる状態であれば、この書類を受け取ります。
    配偶者・子が相続放棄をしたということを知らなかった場合(配偶者・子と兄弟姉妹が疎遠の場合)、兄弟姉妹は、「配偶者と子が相続放棄をしたことの書面(相続放棄申述受理通知書または相続放棄・限定承認の照会書の結果)」を自分で家庭裁判所に申請して取得することになります。意外と面倒な手続きです。

このように考えますと、被相続人の兄弟姉妹が相続放棄を申立てる場合、結構、面倒な手続きとなります。詳しくは、被相続人の兄弟姉妹の相続放棄を参考にしてください。

通常の相続放棄の手続で費用はどのくらいかかるでしょうか。

事例の場合、当事務所に報酬規程(税抜きで)では、最初の相続人配偶者が3万円、次の相続人子が2万円。
配偶者と子3名の場合、3万円+6万円=9万円となります。
次に、被相続人の兄弟姉妹の場合、前述のとおり複雑な手続きとなりますので、最初の兄弟姉妹が5万円、次の兄弟姉妹が2万円。
兄弟姉妹が5名の場合、5万円+8万円=13万円
一連の相続放棄の手続の合計金額が22万円となります。

限定承認で行う場合

このように、第1順位の相続人から第3順位の相続人まで、すべて相続放棄で行おうとする場合、必要書類も多く、費用もかなりかかることになります。
そこで、このような場合に考えられる手続が、限定承認の申立てです。(限定承認の申述
限定承認は、プラスの遺産の限度でマイナスの遺産を支払えばよいので、最低でもプラスマイナス0円となります。
この限定承認の申立ても、相続放棄の申立てと同様に家庭裁判所に対して行います。

被相続人のプラスの遺産が、たとえ1万円ほどしかない場合であっても、家庭裁判所は認めてくれます。(平成26年さいたま家庭裁判所飯能出張所で受理)

限定承認申立ての必要書類

被相続人について
  1. 住民票の除票(本籍・筆頭者の記載のあるもの)最後の住所を証明します。
  2. 除籍謄本(出生から死亡までの戸籍・除籍謄本)ほかに子がいないことを証明します。
    (事例の場合、配偶者がいますので、配偶者記載の戸籍謄本)
限定承認する人(相続人全員で申立てをする:事例の場合、配偶者と子3名)
  1. 戸籍謄本
  2. 配偶者の戸籍謄本(被相続人と同じ戸籍に記載されていますので不要です。)
  3. 子3名の戸籍謄本(子が結婚している場合は配偶者とは別の戸籍謄本、子が結婚していない場合は配偶者と同じ戸籍に記載されていますので不要です。)
  4. 配偶者と子3名の住民票の提出は不要ですが、申立書に「住所」を正確に記入するため住民票を取得した方がよいでしょう。
財産目録

不動産や預貯金の内容を記載したもの

限定承認申立の費用(合計金額:約130,000円)

家庭裁判所に支払う費用
  1. 限定承認の申立手数料:800円(収入印紙代)
  2. 切手代(限定承認する人お一人につき):約500円
官報公告掲載料

官報公告掲載料:約50,000円(実費)
当事務所が官報掲載の代行をします。

当事務所の司法書士報酬

司法書士報酬:77,000円(税込み)
当事務所では、限定承認の申述・申立は全国対応です。

結論

このように考えますと、事例の場合、相続放棄ではなく、限定承認を選択した方がよさそうですね。
限定承認をすれば、事例の場合、配偶者と子3名で「相続の限定承認」を行い、したがって、第2順位の相続人や第3順位の相続人が手続きをすることが不要となります。
限定承認は、プラスの遺産の限度でマイナスの遺産を支払えばよいので、最低でもプラスマイナス0円となります。
このようにすれば、第1順位の相続人で相続債務を止めることができます。
被相続人の兄弟姉妹に迷惑をかけたくないと思われる場合、限定承認の方法がよいでしょう。

次も参考にしてください。
限定承認の基本
相続放棄・限定承認の相談事例(必要書類・スケジュール)

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