相続登記の「登記の目的」・「(登記の)原因」・「申請人」
相続に関係する登記手続き(不動産名義変更)では、被相続人の有する権利(所有権など)の割合によって登記申請書に記載する「登記の目的」が異なり、相続する方法によって、登記申請書に記載する登記する時の登記の「原因」・「申請人」が異なります。
「登記の目的」
被相続人の有する権利(所有権・地上権・賃借権)を相続登記により名義変更するときは、その権利の割合で登記申請書に記載する「登記の目的」が異なります。ここでは、被相続人の有する権利を「所有権」の場合を前提とします。
● 被相続人の所有権の割合:100%
(登記記録には被相続人が「所有者」として記載されています。)
➡ 「登記の目的」を「所有権移転」とします。
被相続人の所有権の一部を移転登記することができません。
「登記の目的」として「所有権一部移転」とすることはできません。
例えば、相続人が子A・B2名のとき、法定相続分は各2分の1です。
この場合、相続人の子Aは、自分の「持分」2分の1だけを登記することができません。
次のような登記を申請することはできません。
×「登記の目的」:所有権一部移転
×「相 続 人」:持分2分の1 A
事例の場合では、次のように登記申請書に記載します。
〇「登記の目的」:所有権移転
〇「相 続 人」:持分2分の1 A
持分2分の1 B
相続登記の大原則
「相続」を登記の「原因」とするときは、所有権(持分)の一部を移転登記することができません。
所有権(持分)の全部を移転登記しなければなりません。
なお、相続と遺贈を同一不動産で登記する方法(順番)を参考にしてください。
例えば、上記の事例で、相続人A・Bがいて、Bが登記申請に協力しないとき、あるいは、Aが自分の権利を確保したいとき、Aは、自分の持分2分の1とBの持分2分の1で登記申請できます。これは民法の「保存行為」としてA単独で申請できます。
この場合、所有権全部の登記をしますので、不動産全体にかかる登録免許税を負担して登記所に納めることになります。自分の持分2分の1に相当する登録免許税だけを納めることができません。
相続登記が完了しますと、登記識別情報通知(権利証)が登記所から発行されるのが原則です。A単独で申請した場合、Aには登記識別情報通知が発行されますが、申請人とならなかったBには登記識別情報通知が発行されません。
例えば、将来、この不動産を売却するとき、あるいは、遺産分割でBの持分をAに移転登記するとき、Bは登記識別情報通知(権利証)を持っていないことから、別の手続きが必要となります。
● 被相続人の所有権の割合:例えば、持分2分の1というように「持分」で登記されている場合
(登記記録には被相続人が「共有者」として記載されています。)
➡ 「登記の目的」を「(被相続人氏名)持分全部移転」と記載します。
前述と同じで、被相続人の持分の一部を移転登記することができません。
● 登記名義人AとBが共有者として登記されている場合、
AとBの相続登記は(AとBが被相続人)
➡ AとBの登記申請書を別々に作成して
「登記の目的」を「(被相続人氏名)A持分全部移転」と記載します。
「登記の目的」を「(被相続人氏名)B持分全部移転」と記載します。
この場合、「登記の目的」を「AB持分全部移転」や「共有者全員持分移転」として、ABの登記を1件で申請することができません。なぜなら、AとBの死亡日が異なり、登記の「原因」が異なるからです。
「(登記の)原因」・「申請人」
法定相続分による移転登記
法定相続分による移転登記の「(登記の)原因」・「申請人」は次のとおりです。
登記の「原因」:○○年○○月○○日相続
「相続」の日付は、被相続人の死亡日
「相続人」(被相続人の氏名)
住所・氏名(持分があれば持分を記載します。)
数次相続のうち、旧民法の家督相続がある場合
数次相続とは、登記名義人の死亡により相続が開始し、名義変更をしないうちに、さらに、その相続人の死亡により相続が開始した場合をいいます。
旧民法が適用される場合、例えば、登記名義人の被相続人が昭和18年死亡の場合、その遺産は「家督相続」により相続人の一人が相続します。この家督相続は、役所に家督相続をした旨の届出をすることによって戸籍に記載されます。戸籍には被相続人の死亡日のほか、家督相続の届出があった旨が記載されます。
登記の「原因」:昭和18年1月1日A家督相続昭和30年○○月○○日相続
「A家督相続」の日付は、被相続人の死亡日(昭和18年1月1日)
「相続」の日付は、Aの死亡日(昭和30年○○月○○日)
「相続人」(被相続人の氏名)
Bの住所・氏名
数次相続の場合、上記家督相続の例のように、第1の相続が開始し、これを相続した相続人A(Aの単独相続)が死亡した後に、Bが相続登記を申請する場合は、登記申請書1件で登記申請ができます。
すなわち、第1の相続、その後(第2・第3・・)の相続で、単独相続(名義人を一人とする)であれば、最終の相続人名義(B)に登記申請ができます。
数次相続のうち、新(現在の)民法の相続が連続した場合
登記の「原因」:○○年○○月○○日「A」相続○○年○○月○○日相続
「A相続」の日付は、被相続人の死亡日
「相続」の日付は、「A」の死亡日
「相続人」(被相続人の氏名)
Bの住所・氏名
→ 第1の相続による移転登記をしないうちに、相続人(A)が死亡し、
第2、第3の相続が開始した場合で、第1と中間の相続が単独相続(A)である場合には、
最終の相続人(B)に直接、相続による移転登記を申請することができます。
この場合、第1と中間の相続が単独相続であるという条件は、
これが、遺産分割、相続放棄などによって結果的に単独相続になった場合を含みます。
最終の相続は、法定相続などによる共同相続(相続名義人が2人以上)であってもこの方法をとることができます。
数次相続で、登記申請1件で申請できる場合のメリットは、登記費用を節約することができることです。
例えば、登録免許税が50,000円、司法書士報酬が50,000円の場合、1件で申請すれば100,000円済みますが、これを2件で申請すれば200,000円かかることになります。
当事務所では、数次相続を1件で申請できる場合は1件で申請しております。
法定相続による登記前に、遺産分割が成立した場合
登記の「原因」:○○年○○月○○日相続
「相続」の日付は、被相続人の死亡日
「相続人」(被相続人の氏名)
Aの住所・氏名
→ 「相続」の日付は、遺産分割が成立した日ではありません。
遺産分割が成立しますと、その効力が被相続人の死亡日に遡って効力を生ずるからです。
法定相続による登記をした後に、遺産分割が成立した場合(共同申請)
登記の「原因」:○○年○○月○○日遺産分割
「遺産分割」の日付は、遺産分割が成立した日
登記権利者:権利を取得する相続人
登記義務者:権利を失う相続人
例えば、次のような事例です。
法定相続分で登記して、登記記録には次の内容が記載されています。
共有者 持分2分の1 A
持分2分の1 B
↓
これを、遺産分割でA単独名義とする場合は、
「登記の目的」:B持分全部移転
「原因」:○○年○○月○○日遺産分割
「権利者」住所・持分2分の1 氏名A
「義務者」住所・氏名B
この場合、登録免許税は、移転する「持分2分の1」の評価価格の0・4%(税率)が登録免許税です。
登記所に提出する添付書面としてBの登記識別情報通知が必要です。
相続させる旨の遺言書があった場合
登記の「原因」:○○年○○月○○日相続
「相続」の日付は、被相続人の死亡日
「相続人」(被相続人の氏名)
Aの住所・氏名
遺言書の「遺贈」による移転登記の場合(共同申請)
登記の「原因」:○○年○○月○○日遺贈
「遺贈」の日付は、被相続人の死亡日
登記権利者:受遺者(遺贈を受けた人)
登記義務者:共同相続人全員または遺言執行者
「遺贈」で登記する場合、登記義務者として遺言執行者がなる場合は、遺言執行者が受遺者(登記権利者)であるとき、形式的には共同申請の方式ですが、実質的には受遺者の単独で申請することができます。ただし、申請書類が相続人の単独申請の場合と異なります。遺贈の場合の必要書類は、自筆証書遺言書と遺贈(譲渡する)の登記を参考にしてください。