相続放棄があったときの法定相続登記(兄弟姉妹)の方法
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
【相続登記事例】
土地・建物は、被相続人長女名義です。被相続人長女には配偶者も子もおりません。
相続人は、被相続人長女の兄弟姉妹の長男、二女、二男で、長男は、被相続人長女について相続放棄(家庭裁判所の相続放棄申述申立て)をしました。
被相続人長女の死亡後、二男が死亡し、二男の配偶者と子が、二男(父)について相続放棄(家庭裁判所の相続放棄申述申立て)をしました。その後、長男は、二男について相続放棄(家庭裁判所の相続放棄申述申立て)をしました。
この場合、相続登記をするには、どういう書類が必要で、どういう登記の方法をすればよいのか教えてください。また、この登記を司法書士に依頼する場合の費用についても教えてください。
固定資産評価価格は、土地が800万円、建物が200万円です。
法定相続人を確定する。
事例の場合、被相続人長女には配偶者も子もいなかったことから、兄弟姉妹が法定相続人となります。父母、祖父母は、すでに死亡しています。
被相続人長女の法定相続人は
被相続人長女の法定相続人は、長女の兄弟姉妹の長男、二女、二男。長男が相続放棄をしたので、最終的な法定相続人は、二女と二男。
民法(相続の放棄の効力)
民法 | e-Gov 法令検索
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
被相続人二男の相続人は
被相続人二男の相続人は、二男の配偶者と子。配偶者と子が相続放棄をしたので、相続人は、兄弟姉妹の長男と二女。さらに、二男の相続人となった長男が相続放棄をしたので、最終的な法定相続人は、二女のみ。
相続登記の方法:数次相続の法定相続分で登記
事例の場合、相続放棄によって、法定相続人は二女のみのため、長女名義の土地・建物を、最終的に二女名義とするには、死亡した順番(長女→二男)に、すべて法定相続分で(数次相続)登記し、次のように登記します。これらをまとめて同時に登記申請します。
(1)被相続人長女について二女・(亡)二男名義とする相続登記
(2)被相続人二男について二女名義とする相続登記
相続登記の手順:数次相続の法定相続分で登記
事例の場合、次の手順で相続登記申請の準備をします。
(1)法定相続分の確定
(2)必要書類の取得、相続放棄申述受理証明書の取得
(3)相続関係説明図の作成
(4)登記申請書の作成
法定相続分の確定
事例では、すべて法定相続分で登記しますので、まずは、それぞれの登記の法定相続分を確定する必要があります。
(1)被相続人長女について二女・(亡)二男名義とする相続登記
最初の登記で、(亡)二男はすでに死亡していますが、死者名義で登記することになります。
死者名義の相続登記(不動産名義変更):死者名義の相続登記ができるのか?を参考にしてください。
相続人の法定相続分は、兄弟姉妹二女と(亡)二男2名の法定相続分にしたがって、次のように計算します。
二女:2分の1
(亡)二男:2分の1
民法(法定相続分)
民法 | e-Gov 法令検索
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(2)被相続人二男について二女名義とする相続登記
被相続人二男の法定相続分が2分の1であるため、この持分を二女が相続することになります。
二男の配偶者と子が相続放棄をし、この相続放棄で、二男の相続人となった兄の長男も相続放棄をしています。
最終的な二女の持分(所有権)の確認
(1)(2)の相続登記をすることで、二女が単独名義人となることを確認します。
(1)の相続登記:二女持分2分の1、(亡)二男持分2分の1
(2)の相続登記:二女持分2分の1
二女:1/2+1/2=2/2=1
必要書類の取得、相続放棄申述受理証明書の取得
(1)(2)の相続登記で必要となる書類を取得します。基本的に必要となる書類は、次のとおりです。
被相続人長女についての相続登記(相続人は兄弟姉妹)
- 長女の除籍謄本など(長女の出生から死亡まで)
住民票の除票(本籍記載必須) 1通(または戸籍の附票(本籍記載必須)
登記名義人長女と被相続人長女が同一人物であることを証明する必要があります。
ただし、保存期間の経過によって取得できない場合があります。この場合、法務局に「長女名義の権利証」などを提出します。 - 父母の除籍謄本など(父母の出生から死亡まで)
これにより、長女の兄弟姉妹が、長男、二女、二男のほかにいないこと、父母がすでに死亡していることを証明します。 - 祖父母の除籍謄本
祖父母がすでに死亡していることを証明します。 - 長男の戸籍謄本、相続放棄申述受理証明書
長男が相続放棄しているので、これを証明します。
相続人の二女が、放棄した長男の利害関係人として、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書を申請します。 - 二女の戸籍謄本と住民票
相続人であることを証明します。名義人となるため住民票が必要です。 - 二男の戸籍謄本と住民票除票
相続人であること、長女の後に死亡していることを証明します。名義人(死者名義)となるため住民票が必要です。
被相続人二男についての相続登記(相続人は兄弟姉妹)
(被相続人長女についての相続登記で使用する書類と重複する場合は、各1通で足りる。)
- 二男の除籍謄本など(二男の出生から死亡まで)
二男に配偶者と子がいることを証明します。ほかに子がいないことを証明します。
住民票の除票(本籍記載必須) 1通(または戸籍の附票(本籍記載必須) - 父母の除籍謄本など(父母の出生から死亡まで)
これにより、二男の兄弟姉妹が、長女、長男、二女のほかにいないこと、父母がすでに死亡していることを証明します。 - 祖父母の除籍謄本
祖父母がすでに死亡していることを証明します。 - 長男の戸籍謄本、相続放棄申述受理証明書
長男が相続放棄しているので、これを証明します。
相続人の二女が、放棄した長男の利害関係人として、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書を申請します。 - 二女の戸籍謄本と住民票
相続人であることを証明します。名義人となるため住民票が必要です。 - 配偶者と子の戸籍謄本、相続放棄申述受理証明書
配偶者と子が相続放棄しているので、これを証明します。
相続人の二女が、(亡)二男の配偶者と子の利害関係人として、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書を申請します。