数次相続と1件申請による相続登記の方法

数次相続と1件申請による相続登記の方法

数次相続とは、第1の相続が開始した後、第2の相続が開始した場合のことをいいます。
例えば、不動産の名義人Aが平成23年8月1日死亡し、この名義変更登記をしないうちに、平成25年8月1日、Aの子Cが死亡してしまったことで第2の相続が開始した場合をいいます。

各世代の相続人が一人の場合(数次相続と1件申請による相続登記)

事例
不動産名義人の被相続人A(祖父)に続いて、その子(父C)一人が亡くなり、その子(孫E)一人が相続人となった場合
被相続人A(祖父:平成23年8月1日死亡)→(亡)父C(平成25年8月1日死亡)→相続人孫E
この場合、被相続人Aの配偶者BはAの死亡前に他界し、その子(父C)の配偶者(母D)もその子(父B)の死亡前に他界しています。
これを相続関係図にしますと、

数次相続では、原則、2件で登記申請します。第一の相続と第二の相続の2件です。

数次相続では、基本的に、相続ごとに(第1の相続→第2の相続→第3の相続→・・・)1件ずつ申請書を作成します。この場合、相続人の中に、すでに死亡している人がいる場合であっても、この死者を含めて(死者名義)、1件ずつ申請書を作成します。
例外的に、中間の相続の相続人が1名の場合は、中間の相続登記を省略することができます。これは、法定相続分での登記も遺産分割による登記の場合も同じです。

登記申請書1件で作成するか、2件・3件・・・で申請書を作成するかは、次の登記の大原則があるからです。
登記申請書1件で作成できるのは、「登記の目的」、「原因」と「申請人(相続人)」が同じであることが条件です。これらが異なれば、1件で申請書を作成することができず、2件・3件・・・で申請書を作成しなければなりません。
数次相続(被相続人父→弟→母の順番で死亡、相続開始)登記の方法:相続登記相談を参考にしてください。

もう一つ、登記の大原則があります。

それは、登記をする「事実(または法律行為)」ごとにすべて登記をする、というのがあります。

したがいまして、中間の事実(または法律行為)を省略して、最後の事実(または法律行為)だけで登記ができないということになります。

「相続」の場合に限らず、売買の場合も同じです。

例えば、所有者AがBに売却し、BがCに売却して最終的にDが買主となった場合は、「AからBへの所有権移転登記」、「BからCへの所有権移転登記」、「CからDへの所有権移転登記」の3件で登記しなければなりません。

これを1件で「AからDへの所有権移転登記」をすることができません。

このことは、登記の大原則とは別に、税金にも関係します。

例えば、売買の場合、売主には譲渡所得税の問題があり、買主には不動産取得税(と固定資産税)の問題があります。

登記がされますと、その登記情報は、税務署、県税事務所、市区町村役場に通知されます。

このことは、それぞれの役所に登記情報が通知されることによって、「税金」について各役所が課税するかどうかを検討することになります。

売買の先の事例で、「AからDへの所有権移転登記」1件で登記することができることになってしまいますと、

BとCには譲渡所得税と不動産取得税が課税されないことになってしまいます。

これと同様に「相続」の場合も同じです。もっとも、相続税に関しては、税務署は登記とは関係なく調査しているとは思いますが。

「相続」という事実が数回あった場合、中間の相続(という事実)を省略しないで、全ての相続(という事実)で、登記しなければならないということになります。

中間の相続(という事実)を省略して登記することができるとすれば、売買の場合と同じように、相続では相続税が最後の相続人のみに課税されることになってしまいます。(実際、税務署は財産を把握していますので、このようなことはないとは思いますが。)

「相続」の場合、例外的に中間の相続を省略できるのは、「実際に不動産を取得した(亡)相続人A」が一人の場合だけです。

このことは、法定相続分での登記はもちろん、遺産分割(協議・調停)で「実際に不動産を取得した(亡)相続人A一人」とする場合にも中間の相続を省略することができます。

この場合、不動産を取得した「(亡)相続人A」が中間で「相続したという事実」を登記上に表す必要があるため、「年月日A相続、年月日相続(最後)」という記載の方法となります。

中間の相続を省略できる場合であっても、中間の相続という事実があったことを登記上に表す必要があるからです。

事例のように、被相続人(A)(第一の相続)の後に、一人の相続人(C)が死亡し(第二の相続)、一人の相続人(E)が相続する場合の数次相続では、いずれも各世代の相続人が一人の場合には、法定相続による相続登記を1件で申請することができます。

この場合の登記申請に記載すべき登記の原因は、次の記載になります。
原因 平成23年8月1日父(氏名)相続、平成25年8月1日相続
というように、第一、第二の相続の日付を記載します。

登記原因の「平成23年8月1日父(氏名)相続」の「父(氏名)相続」と記載する意味は、事例の場合、「父C(第1の相続人)が相続する。」という意味で、 「平成23年8月1日父(氏名)相続」 という記載方法となります。 最後の「 平成25年8月1日相続」の意味は、孫E(第2の相続人)が相続したという意味になります。

戦前の家督相続の場合も、1件で登記申請できます。

この事例では、1件で登記申請するのではなく、あえて2件で登記することも可能です。第1の相続で「亡父C」名義で登記をして、第2の相続で「孫E」名義に登記することもできます。
この事例のように、第1の相続で相続取得する人が1人の場合、2件ではなく1件で登記するのが普通です。少なくとも、司法書士が登記する場合は1件で申請します。
2件で申請しない理由は、2件で申請しますと、登録免許税を含めて登記費用が2倍になってしまうからです。
ただし、 第1の相続で「亡父C」名義で登記をする場合で、不動産が「土地」の場合、現在(令和4年(2022年)3月31日まで適用)、登録免許税が非課税です。法務省にサイト:相続登記の登録免許税の免税措置についてを参考にしてください。

各世代の相続人が二人の場合(数次相続と1件申請による相続登記)

事例
被相続人(祖父A)(平成23年8月1日死亡)(第1の相続)
この相続人が、(子)Cと亡D(平成25年8月1日死亡)(第2の相続)
亡Dの相続人が(孫)F・Gの場合
この場合、被相続人Aの配偶者BはAの死亡前に死亡し、その子Dの配偶者(E)もDの死亡前に死亡しています。
これを相続関係図にしますと、

「第1の相続」の相続人が不動産を取得する場合

事例の場合、「第1の相続」の相続人C(生存している)が相続により取得する場合の遺産分割協議書の記載方法は、次のようになります。
遺産分割協議の当事者は、被相続人の子C、孫FとG

被相続人A(昭和10年1月1日生)の平成23年8月1日死亡による相続について、その相続人全員において遺産分割協議をした結果、次のとおり決定した。
なお、相続人のうちDが平成25年8月1日死亡しているため、亡Dの相続人C及びDが協議した。

相続人Cは次の不動産を相続する。
不動産の表示(以下省略)

事例のように、「第1の相続」の相続人(被相続人の子)が相続する場合は、通常の相続と同じように考え、この場合、登記申請1件でしか登記する方法がありません。

「第2の相続」の相続人が不動産を取得する場合

事例の場合、亡Dの相続人F(被相続人の孫)が、不動産を相続したいときは、一度、亡Dが遺産分割により相続したという協議書を作成し、さらに、亡Dについて相続人Fが相続するという遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書を2枚作成します。
「第1の相続」の遺産分割協議の当事者は、被相続人の子C、孫FとG
「第2の相続」の遺産分割協議の当事者は、孫FとG

この場合は、亡D名義への相続登記を省略して相続人F名義へ直接、相続登記をすることができます。
上記の例で、この場合の登記原因は次の記載となります。
平成23年8月1日D(氏名)相続、平成25年8月1日相続。(長野地方法務局松本支局で登記完了)

登記原因の「平成23年8月1日D(氏名)相続」の「D(氏名)相続」と記載する意味は、事例の場合、「被相続人の子D(第1の相続人)が相続する。」という意味で、 「平成23年8月1日D(氏名)相続」 という記載方法となります。 最後の「 平成25年8月1日相続」の意味は、孫F(第2の相続人)が相続したという意味になります。

この事例のように、第1の相続人C・Dのうち、(亡)Dが相続したということで、各世代の相続人が一人の場合と同じように、(亡)D名義にすることなく(省略して)、1件で登記申請ができることになります。
もっとも、この場合でも、一度、(亡)D名義に登記して、次に、「第2の相続」の相続人F名義にに登記することも可能です。

事例の場合、例えば、被相続人Aの遺産分割で、相続人Cと、(亡)Dの相続人F・Gが協議して、Fが相続するとした場合、F名義に直接、登記することができません。
なぜなら、Fは、「第1の相続」の直接の相続人ではないからです。「第1の相続」の相続人がCとDだからです。

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