被相続人が台湾の方の相続登記(戸籍証明書がない場合)

被相続人が台湾の方の相続登記(出生から死亡までの戸籍証明書がない場合)

事例:被相続人は台湾人で、出生から死亡までの戸籍証明書(日本人の場合の除籍謄本)がない。法定相続人全員が日本人(帰化により日本国籍を取得)。

台湾には戦前から戸籍制度がありますので、相続登記では基本的に、日本と同様に被相続人の出生から死亡までの戸籍証明書が必要となります。
被相続人と相続人が台湾の方の場合の「基本」を参考にしてください。

被相続人の出生から死亡までの戸籍証明書(除籍謄本など)が必要となる理由は、被相続人の相続人が全部で誰と誰かを証明する必要があるからです。法定相続分での登記や遺産分割協議は相続人全員でこれをしなければならないからです。

では、ある事情により台湾の方が台湾における戸籍がない場合は、どのように相続登記手続を進めたらよいでしょうか。
ある事情とは、事例の場合、被相続人の台湾人が日本で出生し、この場合、両親は戦前、日本に来日しており、戦争直後に日本で被相続人を出生しています。
両親は、日本の住所地の役所に出生届をし、戦争直後の日本にあった中華民国駐日代表団僑務処に子の登録申請し、中華民国留日僑民登記證が交付されました。
戦後は、外国人の扱いとなりましたので、外国人登録を行っています。

被相続人は台湾人であるので、台湾本国に戸籍の登録をすべきであったのですが、両親はこの手続を台湾本国で行っていなかったと思われます。被相続人の子は、亡くなるまで一度も台湾に行ったことがありませんし、パスポートもありませんでしたので、外国にも行ったことがありませんでした。相続人としては、被相続人の親戚が台湾にいるのかどうかも見当がつきません。

この事例の場合、最終的に、相続登記が完了しましたので、登記所に提出した証明書類(評価証明書は除く)は、次のとおりです。(平成30年東京法務局城南出張所で完了)

  • 相続関係説明図(通常、登記所に提出するもの)
  • 被相続人の住民票の除票
     被相続人は日本で死亡している。
  • 法定相続人の戸籍証明書(戸籍謄本)
     法定相続人は日本国籍(帰化)である。
  • 相続人の住民票
     相続人は日本に居住している。
  • 被相続人の「外国人登録原票写しの証明書(出入国在留管理庁)」
     下記に記載します。
  • 台北駐日経済文化代表処発行の「相続関係の説明図」の証明書
     下記に記載します。
  • 上申書(登記所に提出用)
     下記に記載します。
  • 法定相続人の印鑑証明書

被相続人の「外国人登録原票写しの証明書(出入国在留管理庁)」

被相続人の「外国人登録原票写しの証明書」を取得します。
最近、日本に居住することになった外国人は、「住民票」に登録することになっていますので、「外国人登録原票」はありません。
これは、平成24年(2012年)7月9日から外国人登録制度が廃止となり、外国人の方も住民票に登録する制度が開始されたからです。

平成24年(2012年)7月9日以前に日本に居住していた外国人については、それまでの「外国人登録原票」のデータが国の機関(出入国在留管理庁)に移行されました。そこで、このデータを取得するには国の機関(出入国在留管理庁)に請求することになっています。これが「外国人登録原票写しの証明書」です。

これにより、被相続人の日本における家族構成を証明する手がかりとなります。
「外国人登録原票写しの証明書」には次の事項が記載されていますので、戸籍証明書よりもかえって詳細に外国人についての情報が記載されています。日本における住所を変更する度に書き換えられます。
最初に日本に居住し始めたときから最後までの書類が一体として綴じられています。
内容は、例えば、本人の氏名・住所・生年月日・国籍のほかに、写真、職業、家族構成などが記載されています。

このように「外国人登録原票写しの証明書」には、外国人本人についての詳細な情報が記載されていますが、これが戸籍証明書に代わる正式な証明書ではありません。
「外国人登録原票写しの証明書」には戸籍証明書のような絶対的な証明力はありません。絶対的な証明力のある戸籍で証明できない場合に「補完する証明書」です。ただ、「補完する証明書」とはいっても信憑性のある証明書といえますので、取得して登記所に提出する価値のある証明書です。

このように、通常では登記所に提出する必要がない書類であっても、登記申請後、登記所の判断で、これでは登記ができません、と言われないようにするため、登記所の登記官を納得させるために、できる限りの書類を提出する必要があります。
特に事例の場合、被相続人が台湾籍であるのもかかわらず、全く戸籍証明書を取得できないので、「外国人登録原票写しの証明書」を登記所に提出するしか方法がありません。

現在、外国人登録原票の写しまたは外国人登録原票記載事項証明書を取得できるのは、基本的に、死亡した外国人の配偶者、直系尊属、直系卑属、兄弟姉妹です。
兄弟姉妹の甥姪は、これを取得できません。配偶者、直系尊属、直系卑属、兄弟姉妹が死亡している場合、兄弟姉妹が全員亡くなっている場合、甥姪がいても、これを取得できません。結果、誰も取得できないことになります。
出入国在留管理庁総務課情報システム管理室出入国情報開示係に電話確認済み。
以上の点については、出入国在留管理庁のホームページを参照してください。

台北駐日経済文化代表処発行の「相続関係の説明図」の証明書について

この「相続関係の説明図」の証明書は、相続登記で登記所に提出する「相続関係説明図」のようなもので、1枚の書面です。
この「相続関係の説明図」の証明書は、例えば、中国本土の中国籍の方が被相続人で、その相続人全員が日本に居住しており、日本にある中国大使館で「相続証明書」として取得する場合の相続関係説明図によく似たものです。
この証明書も、被相続人が台湾籍であるのもかかわらず、全く戸籍証明書を取得できないので、「外国人登録原票写しの証明書」と同様に登記所に提出するしか方法がありません。

この「相続関係の説明図」の証明書は、法定相続人全員が台北駐日経済文化代表処に出向いて申請します。(予約して出向きます。)
相続人の住所地を管轄する台北駐日経済文化代表処(事務所)で証明書を発行してもらいます。相続人の住所地の代表処で個別に手続きをします。代理人ではこの手続ができません。相続人本人が出向く必要があります。
「相続関係の説明図」は日本語で問題ありませんが、証明文は中国語と英語で記載されていますので、日本語の翻訳文を作成します。(誰が作成しても問題ありません。)

取得方法は、出先の代表処で個別に確認します。担当者によって異なります。
「相続関係の説明図」の見本や必要書類を教えてくれます。
ただし、窓口の担当者によって、対応の仕方が異なります。日本語(会話)でも問題ありませんが、親切に対応してくれる人と不親切な対応の人がいます。不親切な人の対応の場合、手続がなかなか進みません。この場合、不親切な担当者が変わるのを待ちます。数か月後、担当者が変わっていることもあります。
東京在住の方は、
台北駐日経済文化代表処
東京の住所・電話番号
業務内容

上申書(登記所に提出用)について

登記所に提出する「上申書」は、単に、法定相続人が誰で、他に相続人がいないことの内容だけでは足りません。より詳細に被相続人の出生から死亡までの事情を記載し、被相続人の戸籍証明書を提出できないやむを得ない事情によることを記載します。(平成30年東京法務局城南出張所で完了)
日本人の場合の通常の「上申書(他に相続人がいないことの証明書)」の見本はこちらを参考にしてください。

被相続人が外国人で戸籍が(一部)ない場合、これとこれを用意すれば登記が完了するとは言えませんので、個別に検討、登記所にも確認する必要があります。

被相続人の除籍謄本や相続人の戸籍謄本など相続登記に必要な書類が決められています。もし、必要な書類が現実的に用意できない場合、これを補完する書類を用意するしかありません。補完できないのであれば登記ができないことになります。補完書類を用意する理由は、相続関係が確かであると登記所の登記官が納得できるほどのものであることが必要です。登記所の登記官が納得できるほどの書類をできるだけ用意すれば登記は可能となります。

この被相続人の場合、生前、日本の公証人役場で公正証書遺言書を作成しておけば、より容易に相続登記ができたと思われます。以上のような問題で困惑することはありません。
次を参考にしてください。
相続登記をスムーズ(比較的簡単)に行うための「台湾籍の方の公正証書遺言書作成」
相続登記と相続人が外国人(台湾の方)も参考にしてください。

実例:被相続人・相続人が台湾の方の相続登記

(1)2023年
被相続人 台湾籍
相続人 配偶者:台湾籍、長男・二男:台湾籍、長女:日本国籍(帰化)
台湾戸籍:3段階の認証がない
台湾戸籍の一部がない:上申書で対応
取得できるものを揃えて、登記完了(東京法務局・豊島出張所、練馬出張所)

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