敷地内に他人名義の土地(1㎡)を発見した場合の登記の方法(事例)

敷地内に他人名義の土地(1㎡)を発見した場合の登記の方法(事例)

【事例】
(1)敷地内に他人名義の土地(1㎡)がある。家を建て直すために土地の名義人を確認したところ、他人名義の土地があることが分かった。
(2)敷地は、約40年前に分譲地(綺麗に区画されている)を購入したものである。
(3)土地の名義人は、すでに死亡している。元々地主である。現在の相続人が10名いる。
(4)登記上の「地目」が「田」である。元々、田んぼだったと思われる。
どのような方法で敷地所有者に登記(名義変更)したらよいでしょうか。

事例の問題点

(1)敷地内に他人名義の土地(1㎡)がある。
(2)敷地は、約40年前に分譲地(綺麗に区画されている)を購入したものである。
(3)土地の名義人は、すでに死亡している。元々地主である。現在の相続人が10名いる。
(4)登記上の「地目」が「田」である。

(1)(2)土地の面積が1㎡、約40年前に敷地を取得しているので、通常、「時効取得」で登記をすることを考えます。が、「時効取得」でよいでしょうか。
(3)土地名義人の相続人が10名いますので、この10名に対してどういう対応をしたらよいでしょうか。
(4)土地の「地目」が「田」であるので、何か手続きが必要でしょうか。

問題点の解決方法

「登記の原因」は「時効取得」でよいのか

(1)(2)から「登記の原因」を「時効取得」とする場合、事例では、約40年前に分譲地として購入したものであるので、「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」に該当しますので、「時効取得」で登記ができると考えられます。相続登記と時効取得(相続相談)を参考にしてください。

民法(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

民法 | e-Gov法令検索

しかし、「時効取得」を登記原因として名義変更登記をする場合、「時効取得」であることを土地名義人の相続人10名に「その根拠(いつ取得して、いつから占有し始め、いつ時効が完成したのか)を示して」、なおかつ、この10名に対して「時効の援用」をすることによってはじめて「時効取得」で登記ができることになります。また、これらのことを、この10名に納得してもらう必要があります。
このことは、法律上(理屈では)問題ありませんが、「果たして相続人10名全員が理解し、納得できることでしょうか。」ということを考える必要があります。
10名のうち1名でも理解できない、納得できない人がいれば、通常の登記申請では、「時効取得」で登記ができないことになってしまいます。

この時効取得でできるという「理屈」を押し通すのであれば、裁判(10名を被告として訴訟)をしなければならなくなります。そうしますと、自分では裁判は難しいので、弁護士に依頼することになります。この場合、弁護士に着手金として30万円、成功報酬(約30万円)を支払わなければならなくなります。また、裁判となりますと、解決するまでの期間が半年以上はかかることになります。

そこで、この事例では、時効取得ではなく、「贈与」を登記原因とすれば、「贈与が、単に、あげます、もらいます」で成立しますので、理屈としては、理解しやすく納得しやすくなります。
また、「贈与」を登記原因とした場合、贈与税の問題がありますが、贈与税の控除額:110万円以内であれば、贈与税がかからないことになりますので、「贈与」で問題がないことになります。
例えば、1㎡の土地の税務署路線価を仮に20万円とした場合、土地の価格は20万円であるので、贈与税がかからないことになります。

土地名義人の相続登記で登記する人を誰にしたらよいのか

(3)土地名義人の相続人が10名いますので、相続登記をする必要があります。この場合、登記する名義人を相続人の全員とするのか、そのうちの一部の人にするのかを検討します。このどちらでも登記することができます。

最終的な名義変更の「登記の原因」を「贈与」としますので、10名の相続人のうちの1人を相続名義人とします。後述します登記上の地目が「田」の問題もありますので、名義人を一人で登記します。

登記上の地目「田」の問題点

事例の場合、登記上の地目が「田」ということは「農地」であるので、「他人名義に変更」するときは、農業委員会に「農地法5条の届出(所有権の移転)(土地が市街化区域である場合)」をする必要があります。(ここに気が付きませんと、司法書士として恥ずかしい思いをすることになります。)

事例で、名義変更登記は、①相続登記と②贈与登記をしますが、①相続登記では、この農業委員会への届出をする必要がありませんので、相続登記を申請する際は、「農地法5条受理証明書」を登記所に提出する必要がありません。②贈与登記では、「農地法5条受理証明書」を登記所に提出します。

農地法5条の届出は、譲受人(譲り受ける人)を「敷地を所有している人」、譲渡人(譲り渡す人)を「相続名義人となる人」で届出をします。
農地法5条の届出は、譲渡人が死亡している場合、相続人名義に相続登記をしないですることもできますが、この場合、農業委員会に、被相続人の除籍謄本(被相続人の出生から死亡まで)と相続人全員の戸籍謄本を提出する必要があり、農業委員会でこれらの書類を確認しなければなりません。
そうしますと、農地法5条の受理証明書を発行してもらうまでに時間がかかることが想定されますので、まずは、相続人名義に相続登記をします。
さらに、相続登記で、相続人10名名義とする登記をしますと、農地法5条の届出書には、相続人10名に署名捺印をいただくことになってしまいますので、相続登記では名義人を1名で登記します。
また、相続登記で、名義人を1名とすることで、他の相続人9名の理解が得やすくなります。これは、遺産分割協議で、被相続人の土地1㎡を1名の相続人が取得するという内容であれば、他の相続人の理解が得やすくなります。

登記を含めた手続の手順

  1. 司法書士と敷地所有者で説明書を携えて(手土産を持参)、相続人10名を訪問して、説明する。
    この際、手続の方法について理解してもらう。
  2. 相続人10名に対して、遺産分割協議書(相続人ごと個別に作成)を送付して、これに署名・実印を押印の上、戸籍謄本と印鑑証明書を用意してもらう。このほか、名義人となる人には、委任状、農地法5条の届出書、贈与契約書、委任状に署名・実印を押印してもらう。
  3. 相続人10名から書類が揃った旨の連絡を受けた後、上記の書類を受取りに行く。この際、戸籍謄本と印鑑証明書の手数料を各人に支払う。
  4. 相続土地名義人(被相続人)の相続登記に必要な書類のうち、被相続人の除籍謄本(出生から死亡まで)などは司法書士の職務上請求書で取得する。
  5. 相続登記を申請する。(登記完了まで約2週間)
  6. 相続登記が完了した後、農業委員会に農地法5条の届出をする。(農地法5条の受理証明書は1週間後(横浜市の場合)
  7. 農地法5条の受理証明書を取得した後、「贈与」で登記申請する。(登記完了まで約2週間)
  8. 登記完了後、相続人10名に対して、登記が完了した旨の連絡をする。

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