「かかりつけ司法書士」とは
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
「かかりつけ司法書士」とは、一般の人が、風邪をひいた時やちょっと体の調子が悪い、といった時に、街の診療所のお医者さんに診てもらうように、法律のことや法律の手続きのことで、ちょっと聞いてみようかと思うような時に、気軽に質問や相談ができる「頼りになる司法書士」のことをいいます。
大企業には、通常、顧問弁護士がおりますので、法律的な問題が生じた場合、顧問料を支払っている弁護士に聞けば済むことですが、一般の方の多くは、法律的なことや法律手続について気軽に聞ける専門家が身近にいないのが現状だと思われます。
「かかりつけ医」の役割
昨今、医療関係では、一般の方が大病院で直接、診てもらうよりも、まずは、「かかりつけ医」で診てもらうことが推奨されています。
「かかりつけ医」であれば、そこでの過去の受診データがありますので、かかりつけ医としても、初めて受診する人よりも、何回も受診している人の方が、診察した結果の対処の仕方がスムーズにできるようです。
また、かかりつ医であれば患者さんとの、それまでの信頼関係がありますので、患者さんとしても、気軽に安心して診てもらえるという精神面でのメリットもあるようです。
手術などを伴う場合で、街の診療所のお医者さんにはできない場合は、大病院を紹介してもらえますから、その点も安心できるようです。
司法書士の法律的な能力は、どのくらい
これが司法書士の場合、司法書士は、弁護士ほどではないにしても、法律面の専門家ですから、法律的なことや法律の手続きのことで質問したり相談できます。
弁護士が、法律全般について万能な資格者で、裁判所関係でいえば、主に争いのある案件で、依頼者の代理人として業務を行うことができます。
これに対して、司法書士は、裁判所関係でいえば、弁護士のように、依頼者の代理人となって業務を行うことができませんが、家庭裁判所や地方裁判所などに提出する書類(例えば、訴状や答弁書、準備書面など)の作成をすることができます。
このことは、司法書士が依頼されれば、訴状や答弁書などを作成して、裁判所に提出することができるということを意味します。
なお、簡易裁判所(訴額:140万円以内の案件)において、司法書士は、弁護士と同じように依頼者の代理人となって、裁判官や相手方と直接、やり取りをすることができます。
このように、司法書士は、弁護士ほどではないにしても、法律面や法律の手続のことを知っていますので、街の診療所のお医者さんが「かかりつけ医」であるように、司法書士が街の法律面での「かかりつけ医」となる資格があると言えます。
司法書士法では、次のように司法書士が業務を行うことが規定されています。
司法書士法(業務)
司法書士法 | e-Gov法令検索
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
三 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第六章第二節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第八号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
五 前各号の事務について相談に応ずること。
六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。
イ 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定による手続(ロに規定する手続及び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であつて、訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ロ 民事訴訟法第二百七十五条の規定による和解の手続又は同法第七編の規定による支払督促の手続であつて、請求の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ハ 民事訴訟法第二編第四章第七節の規定による訴えの提起前における証拠保全手続又は民事保全法(平成元年法律第九十一号)の規定による手続であつて、本案の訴訟の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ニ 民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)の規定による手続であつて、調停を求める事項の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
ホ 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第二章第二節第四款第二目の規定による少額訴訟債権執行の手続であつて、請求の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
七 民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であつて紛争の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しくは裁判外の和解について代理すること。
八 筆界特定の手続であつて対象土地(不動産登記法第百二十三条第三号に規定する対象土地をいう。)の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の二分の一に相当する額に筆界特定によつて通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は代理すること。
以上の内容から、司法書士は、弁護士ほどではないにしても、その業務を行う上で、相当な法律知識を持っていないと、業務を行うことができないということになります。このことは、司法書士が、相当な法律知識を持っているということを意味します。
弁護士の業務として、一般の方のイメージですと、争いごとのあることを弁護士に依頼することが多いと思います。
司法書士も、争いごとについて、裁判(訴状などの作成や提出)することができますが、司法書士は、一般的には、弁護士ほどには裁判に精通している訳ではありません。
このことは、一般的に、司法書士は、争いごとの質問や相談を受けた場合、その案件が勝訴する可能性が高い場合に引き受けることはあります。
これが、勝訴する可能性が低い場合や勝訴する可能性が五分五分の場合は、弁護士さんを紹介することもあるでしょう。
このように、司法書士は、法律面や法律手続の知識がありますので、敷居が高いと思われている弁護士さんよりも、まずは、司法書士に質問や相談をすることに向いていると言えます。
「かかりつけ司法書士」として相応(ふさわ)しい司法書士とは
前述のように、司法書士が相当な法律知識を持っているからと言って、これを以って、質問や相談を受けたときに、適切なアドバイスや回答ができるか、といえば、必ずしもそうとは限りません。
これは、司法書士としての知識と経験とは別物だからです。また、司法書士としての経験のほかに、人としての知識と経験も、司法書士が合わせ持っていないと、適切なアドバイスや回答をすることはできません。
司法書士としての経験は、司法書士としての法律的な知識を持っていることを前提に、司法書士としての業務全般を経験したことがあるかどうかです。業務全般の経験があることによって、総合的なアドバイスや回答ができることになります。
法律的な知識を持っているだけでは、実際、どうなの、と聞かれた場合、答えようがないことも一つの理由です。
人としての知識や経験は、例えば、依頼者以外の関係者に、書類を用意してほしい場合、単に、これこれの書類を用意してください、というだけでは足りません。書類を用意してほしい理由や事情など、きちんと説明できるかどうかも、また、分かりやすい文章を作成できるかどうかも、人として重要なことです。
業務を行う上で、法律知識とは関係なく「雑にならない」ように行えるかどうかも重要なことです。
「かかりつけ司法書士」としては、単に、法律知識があります、司法書士としての経験があります、だけでは足りないということになります。
「かかりつけ司法書士」として相応しい司法書士の条件
そこで、「かかりつけ司法書士」として相応しい司法書士の条件を列挙してみます。
司法書士として・人としての知識・経験がある
何を以って知識・経験があるのか、判断する基準は、その司法書士が行っていることが見えること、これが見えないようでは判断しようがないからです。
その一つが、ホームページを持っていて、ホームページの内容が詳しいこと、内容が分かりやすく書いてあること。
相続登記や遺産相続手続を専門としていない、特化していないこと
相続登記や遺産相続手続に詳しい、特化しているのであれば、逆に、それ以外のことは、不得手(ふえて)、苦手(にがて)と思われてしまうので、このようなことをアピールしていないこと。
実は、相続登記や遺産相続手続について本当に詳しいのであれば、司法書士業務全般について、知識と経験が必要です。
例えば、相続については、単に手続き面のことだけではなく、相続放棄のことはもちろんのこと、限定承認のことや債務整理のことにも精通している必要があります。
そうでなければ、「かかりつけ司法書士」として、相続についての適切なアドバイスや回答をすることができないからです。
司法書士の総合的な知識と経験で解決できた次の事例を参考にしてください。
被相続人のマイナスの財産があるときの相続方法(相談事例)
敷地内に他人名義の土地(1㎡)を発見した場合の登記の方法(事例)
処分禁止の仮処分:NO,2(経過説明)申立人は誰?
費用面(報酬)で適切であること
例えば、遺産相続手続の費用(報酬)は、いくらが適正価格なのか?を参考にしてください。
「かかりつけ司法書士」との相性
何事も、相性が良くないと、上手くいきません。この司法書士が自分にとっての「かかりつけ司法書士」として相応しいかどうかを、まずは、判断していただくことが、その後の人生をより良い方向に、ご自分をもっていけるかもしれません。
「かかりつけ司法書士」を持つことをお勧めします
それぞれの地域に「かかりつけ司法書士」がいて、多くの人が法律的なことや法律手続について気軽に聞ける「かかりつけ司法書士」を持つことを願います。