通常の法定相続人:昭和23年1月1日以降の相続開始に適用
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
相続が開始したとき、誰が相続人になれるかは、民法という法律で決められています。これを法定相続人といいます。
法定相続人の意味は、相続人の間で遺産分割協議を行う場合にこの協議に参加できる資格のある人であったり、家庭裁判所の相続放棄や限定承認の手続ができる人のことをいいます。
まずは、法定相続人が誰であるかを確定させてからこれらのことができることになります。
反対に言いますと、遺産分割協議が成立して遺産分割協議書を作成した後、協議に参加した人以外に法定相続人がいることが判明した場合、遺産分割協議をやり直さなければならなくなります。
また、家庭裁判所の相続放棄や限定承認の手続の場合も、法定相続人でない人がこれらの手続をすることができません。相続登記の手順も参考にしてください。
家督相続については、後述します。
被相続人一人に相続が開始した場合、次の人が法定相続人となります。
配偶者は、常に法定相続人(通常の相続) | |
第1順位(はじめは) | 子(→孫 →・・・) |
第2順位(子・孫・・・がいないとき) | 父母(→祖父母 →・・・) |
第3順位(子・孫・父母・祖父母・・・がいないとき) | 兄弟姉妹(→甥・姪) |
通常の相続では、亡くなられた方(被相続人といいます。)の配偶者は、常に法定相続人となります。ただし、下に説明するとおり、代襲相続(だいしゅうぞうぞく)の場合、被相続人の兄弟姉妹の配偶者は法定相続人となりません。(被相続人の後に兄弟姉妹が死亡した(数次相続)の場合、兄弟姉妹の配偶者は法定相続人となります。)
ここにいう配偶者とは、法律上の婚姻関係にある人、すなわち、戸籍上に婚姻の記載がある人ということになります。離婚した配偶者は法定相続人となれません。
内縁の妻は、法律上の婚姻関係にある人とはいえないので、法定相続人となれません。
内縁の妻に相続させたい(正確には遺贈)場合には、公正証書遺言書など法律上の遺言書を作成しておいた方が良いでしょう。
被相続人の子(養子を含みます。)、孫、親(父母・祖父母)、兄弟姉妹、甥・姪は、次の順番で法定相続人となります。養子の相続はこちら「養子の相続」でご確認ください。
第1順位の法定相続人(最初に相続人となる人・配偶者がいれば配偶者も相続人)
最初に法定相続人となれるのは、子
子がすでに亡くなっている場合(代襲相続・だいしゅうぞうぞく)は、孫
代襲相続の場合、被相続人の子の配偶者は法定相続人になれません。
孫もすでに亡くなっている場合(代襲相続)は、ひ孫
と以下被相続人の直系を下にたどっていきます。
第2順位の法定相続人(第1順位の子などがいない場合・配偶者がいれば配偶者も相続人)
次に、被相続人の直系を下にたどって子を含め誰もいない場合は、被相続人の親(父母・祖父母)が法定相続人となります。
親(父母・祖父母)がすでに亡くなっている場合は、兄弟姉妹(第3順位)に移ります。
第3順位の法定相続人(第2順位の父母などがいない場合・配偶者がいれば配偶者も相続人)
最後に、被相続人の兄弟姉妹(第3順位)が法定相続人になります。
兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合(代襲相続)は、兄弟姉妹の子(甥、姪)が法定相続人となります。代襲相続の場合、被相続人の兄弟姉妹の配偶者は法定相続人になれません。
この場合、兄弟姉妹の子(甥、姪)もすでに亡くなっている場合は、子のようにその下の甥の子・姪の子は法定相続人になれません(昭和56年1月1日以降に開始した相続)。ただし、昭和55年12月31日以前に開始した相続については、子の場合と同様、甥、姪の子も法定相続人になれます。
以上は、被相続人一人に相続が開始した場合に言えることです。
詳しくは、相続人が兄弟姉妹(甥姪の子)の相続を参考にしてください。
数次相続の場合の法定相続人
数次相続は、例えば、被相続人の相続開始後、第1順位の相続人について相続手続をしない間に、第一順位の相続人が亡くなった場合のことをいいます。数次相続は、代襲相続とは異なり、死亡による相続が順次、開始されることをいいます。
すなわち、被相続人が連続して2人いる場合はどうでしょうか。
最初に亡くなった被相続人の法定相続人は、前記の順番で法定相続人が決まります。
次に亡くなった相続人についても前記の順番で法定相続人が決まることになります。
この相続関係図では、被相続人が父のAです。被相続人父A所有の不動産を相続登記(名義変更)する場合、誰が相続人となるでしょうか。 (1)父A死亡時(平成30年)の相続人:母(配偶者B)・子C・子D (2)母B死亡時(令和3年)の相続人:子C・子D (3)子C死亡時(令和4年)の相続人:配偶者E・孫F 以上のことから、被相続人父A所有の不動産を相続登記(名義変更)する場合、、 子D、配偶者E・孫Fの3名が相続人となり、協議することになります。 法定相続分は、 (1)父A死亡時(平成30年)の相続人:母(配偶者B):2分の1・子C:4分の1・子D:4分の1 (2)母B死亡時(令和3年)の相続人:子C:4分の1・子D:4分の1(合計:2分の1) (3)子C(4分の1+4分の1=2分の1)死亡時(令和4年)の相続人:配偶者E:4分の1・孫F:4分の1 子Dが被相続人父A所有の不動産に住んでいる場合、子Dは、配偶者E・孫Fの協力を得ることができなければ、自分名義に相続登記をすることができません。少なくとも、子Cが生存中に協議できれば、この時点よりも容易に自分名義に相続登記をすることができたかもしれません。
このように、最初に亡くなった被相続人の相続手続をしておかないと、法定相続人が増えていき、遺産分割協議をするにも困難を極める可能性が高くなります。
相続手続を早めに行うことの理由はここにあります。
代襲相続の場合の法定相続人:昭和23年1月1日以降の相続開始に適用
ケース1:第1順位の子がすでに亡くなっている場合(代襲相続)
第1順位の相続人である子が、被相続人の死亡前に、すでに亡くなっている場合、第1順位の相続人である子の子、すなわち、孫が直接的に法定相続人になります。
この場合、第1順位の相続人である子に配偶者がいても、その配偶者は法定相続人になれません。
代襲相続をした孫も、被相続人の死亡前に、すでに亡くなっている場合
孫の子、すなわち、ひ孫が法定相続人になります。
被相続人の直系の孫・ひ孫は代襲相続人・再代襲相続人となるを参考にしてください。
これに関連して、代襲相続ではありませんが、
第1順位の相続人である子が、被相続人の死亡後に、亡くなった場合(数次相続)、
第1順位の相続人である子に配偶者がいれば、配偶者とその子(孫)が法定相続人になります。
ケース2:第3順位の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合(代襲相続)
第3順位の兄弟姉妹が、被相続人の死亡前に、すでに亡くなっている場合、この兄弟姉妹の子、すなわち、甥、姪が直接的に法定相続人になります。
この兄弟姉妹に配偶者がいても、その配偶者は法定相続人になれません。
これに関連して、代襲相続ではありませんが、
第2順位の相続人である兄弟姉妹が、被相続人の死亡後に、亡くなった場合(数次相続)、
第2順位の相続人である兄弟姉妹に配偶者がいれば、配偶者とその子(甥・姪)が法定相続人になります。
代襲相続の場合は、代襲相続をした甥、姪も、被相続人の死亡前に、すでに亡くなっている場合、甥、姪の子は、法定相続人になれません(昭和56年1月1日以降に開始した相続)。
ただし、昭和55年12月31日以前に開始した相続については、子の場合と同様、甥、姪の子も法定相続人になれます。
詳しくは、相続人が兄弟姉妹(甥姪の子)の相続を参考にしてください。
「法定」相続人と「共同」相続人の違い
法定相続人は、民法の規定によって相続人となる人のことです。例えば、被相続人が父、相続人が母と子A・Bで合計3人の場合、母と子A・Bが法定相続人です。
この場合、子Bが「相続放棄(家庭裁判所の手続き)」をした場合、母と子Aが共同相続人ということになります。
代襲相続の場合の遺産分割協議をする相続人を参考にしてください。
家督相続:昭和22年5月2日までの相続開始に適用
家督相続とは、例えば、次のように戸主の死亡や隠居が「戸籍」に記載されている場合、次の戸主が前戸主の財産すべてを相続することをいいます。
昭和15年〇月〇日前戸主○○死亡に因り(より)家督相続届出同年〇月〇日受付
昭和15年〇月〇日前戸主○○隠居に因り(より)家督相続届出同年〇月〇日受付
このように戸籍に記載されているときは、新たに「戸主」となった人が、前戸主の財産すべてを当然に承継相続します。(遺産分割協議などは必要ありません。)
このような相続関係の場合、例えば、次のように登記します。
「死亡」による家督相続の場合は、原因日付を「死亡日」で記載します。
「隠居」による家督相続の場合は、原因日付を「隠居の届出をした日」で記載します。
登記の目的 所有権移転
原 因 大正5年〇月〇日B(氏名)家督相続、昭和15年〇月〇日C(氏名)家督相続、
昭和30年〇月〇日相続
相 続 人 (被相続人 A(氏名))
(住所)○○
持分〇分の〇
(氏名)○○
(住所)○○
持分〇分の〇
(氏名)○○
(住所)○○
持分〇分の〇
(氏名)○○
推定相続人の廃除(勘当との違い)
推定相続人とは、将来相続が開始した場合に法定相続人となるべき人をいいます。
将来的に、相続人の資格がある人のことをいいます。
これに対して、法定相続人とは、相続が開始したときの相続人(相続開始後の法定相続人)をいいます。
勘当とは、例えば、親が子に対して、「お前と親子の縁を切る」というような場合です。
実の子に対して、このように言っても法律上の効果はありません。
実の親子関係を切ることはできません。
養子縁組によって法律上の親子関係が成立している場合は、養親養子の離縁の合意があれば、離縁の届出をすることによって、親子関係を解消することができます。離婚と同様に、裁判による離縁もあります。
推定相続人の廃除は、例えば、親が子に対して、「お前と親子の縁を切る」というような場合に、親が子に相続させたくない、というときに使えます。
この推定相続人の廃除は、生前は、家庭裁判所に相続人廃除の申立てをすることができます。
遺言によっても、相続人の廃除をすることができます。
遺言による場合は、家庭裁判所に廃除の申立てをする遺言執行者を決めておいた方がよいでしょう。
推定相続人の廃除を申立てをするには、廃除する理由が必要です。理由もなく廃除を請求することはできません。
1.被相続人に対する虐待
2.被相続人に対する重大な侮辱
3.その他の著しい非行
相続人の廃除は、推定相続人の相続権を奪うことになりますので、廃除する理由は、具体的で著しい、と家庭裁判所に判断されるべき理由でなければなりません。
被相続人の推定相続人が、兄弟姉妹の場合、相続人の廃除を申立てをすることはできません。
相続人の廃除は、遺留分を有する推定相続人に対して、だけだからです。
兄弟姉妹には、遺留分がないので、この場合、配偶者に全部相続させるか、第三者に全部遺贈させるか、を遺言すれば、兄弟姉妹は相続することができなくなります。
民法(推定相続人の廃除)
民法 | e-Gov法令検索
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。