所在等不明共有者(行方不明共有者)がいる不動産の売却までの手続:不在者財産管理人選任・「持分の取得」・「持分の譲渡」(相続登記相談)
【相続登記相談】 マンションの名義が、被相続人の父と、その弟が共有(各持分2分の1)で登記されています。 このマンションを売却しようと考えています。 弟は、現在、行方不明の状態です。弟には、妻も子もおりません。 この場合、どのような手続をすれば、売却できるでしょうか。 マンションの時価は、約2,000万円です。被相続人父の遺産は、このマンションのほかに預貯金などはありません。被相続人父の相続人は、母と私です。現在、母と子の財産は、預金が500万円です。
相続登記(不動産名義変更)を申請(相続登記相談)
まず、被相続人父について、相続登記を申請します。このページでは、相続した不動産の共有者の中に、行方不明の人がいる場合について解説しますので、相続登記については簡単に説明します。
相続登記について、詳しくは、次のページでご確認ください。
相続登記の手順、法定相続人、法定相続分、相続関係説明図、相続登記の必要書類、相続登記費用、相続登記申請書の書き方、遺産分割協議書の書き方
相続人が母と子であるので、法定相続分(各2分の1)で登記するのか、母または子のどちらの名義で登記するのかを決めていただきます。
相続登記の方法により、必要書類が異なることになります。
詳しくは、法定相続分での相続登記の方法、または、遺産分割協議書での相続登記の方法を参考にしてください。
税金(相続税・譲渡所得税)を考えて、名義人を決める(相続登記相談)
相続取得する名義人を決める場合、相続税や、不動産を売却しますので、譲渡所得税(売却による利益に対してかかる税金)を考える必要があります。次の点について検討する必要があります。
このマンションに、被相続人父と母、子が同居していた場合の税金(相続税・譲渡所得税)
このマンションに、被相続人父と母、子が同居していた場合、被相続人父の持分2分の1を母(または)子が相続取得すれば、相続税の計算では、マンションの土地について小規模宅地の特例(80%減額)が適用されますので、相続不動産の相続評価を下げることができます。
また、この場合、マンションの売却では、居住用不動産の売却となりますので、売却により利益が出たとしても、利益の3,000万円控除が適用されることになります。
この場合、母または子、どちらか一人の名義としても、譲渡所得税がかかる可能性は、かなり低くなります。
例えば、マンションを2,000万円で売却した場合、購入時の売買代金を1,500万円(建物は減価償却費相当額を控除した後)とした場合、500万円(2,000万円-1,500万円)の利益が出ます。
被相続人父の持分が2分の1であるので、譲渡益の250万円が譲渡所得税の対象となりますが、250万円-3,000万円=0(課税譲渡額)となりますので、譲渡所得税がかからないことになります。(ただし、この場合、必ず、譲渡所得税の申告をすることによって譲渡所得税が非課税となります。)
このマンションに、被相続人父と母、子が同居していなかった場合の税金(相続税・譲渡所得税)
このマンションに、被相続人父と母、子が同居していなかった場合、前述の小規模宅地の特例や居住用不動産の3,000万円控除が適用されません。
この場合、譲渡所得税がかかるようなときは、相続人の母と子の2名で法定相続で登記します。2名の名義で登記することにより、売却による利益を分散させることができます。(1名で登記した場合も、下記の計算から、結果は変わらないようです。)
前述の例で言えば、マンションを2,000万円で売却した場合、購入時の売買代金を1,500万円(建物は減価償却費相当額を控除した後)とした場合、500万円(2,000万円-1,500万円)の利益が出ます。
被相続人父の持分が2分の1であるので、譲渡益の250万円が譲渡所得税の対象となります。
母と子2名の名義で登記すれば、母の利益は125万円、子の利益も125万円です。
母(または子)1名の名義で登記すれば、利益が250万円です。
(1)母と子2名の名義で登記すれば、母の利益は125万円、子の利益も125万円です。
長期譲渡所得税(5年超所有)の場合の計算は、次のとおりです。
- 所得税
125万円×15%=187,500円 - 復興特別所得税
復興特別所得税 = (譲渡所得 × 所得税率) × 2.1% = 基準所得税額 × 2.1%
125万円×15%×2.1%=3,937円 - 住民税
125万円×5%=62,500円
以上1名当たり、253,937円
2名合計:507,874円
(2)母(または子)1名の名義で登記すれば、利益が250万円です。
この場合の長期譲渡所得税(5年超所有)の場合の計算は、次のとおりです。
- 所得税
250万円×15%=375,000円 - 復興特別所得税
復興特別所得税 = (譲渡所得 × 所得税率) × 2.1% = 基準所得税額 × 2.1%
250万円×15%×2.1%=7,875円 - 住民税
250万円×5%=125,000円
以上合計:507,875円
不動産の共有者の中に、行方不明の人がいる場合の売却までの手続(相続登記相談)
不動産の共有者の中に、行方不明の人がいる場合の売却までの手続は、次の二通り(A・B(さらに二通り))の方法があります。どちらが適切なのかを、事案に応じて選択します。
A:従来からある「不在者財産管理人」を選任してから不動産を売却する方法
B:令和5年4月1日から施行された所在等不明共有者の「持分の取得」または「持分の譲渡」による不動産の売却
A:従来からある「不在者財産管理人」を選任してから不動産を売却する方法
内容につきましては、相続と不在者財産管理人を参考にしてください。
管轄裁判所:行方不明者の最後の住所地の家庭裁判所
対象となる財産:行方不明者の全財産(全部の財産)
申立人:利害関係人として他の共有者(被相続人父の相続登記をした後の相続名義人)
申立て条件:所在等不明の証明
申立人の代理人となれる人:弁護士のみ。司法書士は代理人となれない。
司法書士ができるのは、申立書類の作成と提出。
売却までの期間:申立てから売却まで約6か月
次の2段階で申立てをします。
- 第1段階:不在者財産管理人選任の申立て
最寄りの警察署に捜索願を提出します。受理証明書をもらい、家庭裁判所に提出します。
申立人:利害関係人として他の共有者(被相続人父の相続登記をした後の相続名義人)
予納金:申立てた後、家庭裁判所から予納金の納付を言われます。(事案によって約30万円から100万円)
予納金は、申立人の負担となります。
予納金は、財産管理人となる弁護士・司法書士の報酬として裁判所から支払います。
警察への捜索願により、行方不明者が見つかることもあります。この行方不明者と連絡が取れて話し合いができれば、申立てを取下げて、不動産を売却することができます。 - 第2段階:不動産売却の許可申立て:財産管理人が申立てます。
売買契約書(案)を家庭裁判所に提出します。
不動産の売却
売買契約の締結は、財産管理人と他の共有者が売主となります。
売却代金
行方不明者の共有持分に相当する代金は、原則、財産管理人が行方不明者が現れるまで保管します。
財産管理人が代金(管理している金銭)を供託して、財産管理行為を終了させることもできます。
費用(手続を司法書士に依頼した場合)
- 当司法書士事務所報酬:11万円
- 実費
① 裁判所申立手数料:800円
② 郵便切手代
③ 戸籍謄本など取寄せ費用
④ 予納金:事案によって30万円から100万円
B:令和5年4月1日から施行された所在等不明共有者の「持分の取得」または「持分の譲渡」による不動産の売却
管轄裁判所:不動産所在地の地方裁判所
対象となる財産:所在等不明共有者の共有持分のみ
申立人:利害関係人として他の共有者(被相続人父の相続登記をした後の相続名義人)
申立て条件:所在等不明の証明
申立人の代理人となれる人:弁護士のみ。司法書士は代理人となれない。
司法書士ができるのは、申立書類の作成と提出。
公告期間:3か月以上(異議届出期間等の経過)
「時価相当額の金銭」の供託:不動産売却の前(売却代金を受け取る前に)に申立人が負担します。
売却までの期間:申立てから売却まで約6か月
費用(手続を司法書士に依頼した場合)
- 当司法書士事務所報酬:165,000円
- 実費
① 裁判所申立手数料:2,000円
② 郵便切手代:6,000円
③ 戸籍謄本など取寄せ費用
④ 時価相当額の金銭:共有持分に相当する金額(不動産売却の前に申立人が負担します。)