海外在住日本人でも安心!日本の遺産調査の手順と必要書類

海外在住日本人(または日本国籍を離脱した元日本人)が日本における遺産(不動産と預貯金のなど)を調査する方法

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

【相続登記相談事例】
私は、アメリカに住んでいる元日本人(日本国籍を離脱)です。被相続人父の遺産について、妹と遺産分割協議をしようとしているところです。父の相続人は、私(姉)と妹の二人です。
父の遺産については、私がアメリカに住んでいるので、妹がすべて管理しています。
先日、妹が自分で作成した遺産分割協議書をメールしてきました。この遺産分割協議書に記載されている遺産と遺産の分割方法について、私(姉)として、承諾すべきかどうかよくわかりません。
そこで、私が妹と遺産分割協議をする前に、父の遺産について、どのような遺産があるのかを調査して、遺産を把握したいと考えています。

遺産の種類は、次のとおりです。
不動産
 ① 父が住んでいた土地建物(姉妹ともに夫所有の不動産に居住している。)
 ② 地方の山林(町まで判明しています。)
預金
 A銀行とB銀行
まずは、これらの遺産を調査して遺産の内容を把握したいのですが、私は、アメリカに住んでいますので、この調査をすることができません。この調査を誰に依頼したらよいでしょうか。
また、調査を依頼するために、私が用意する書類を教えてください。遺産調査をするための手順についても教えてください。
海外在住日本人の遺産調査
海外在住日本人の遺産調査

海外在住日本人(日本国籍あり)が遺産調査をするための一般的な方法

海外在住日本人が遺産調査をするためには、次のような手順で行うのがよいでしょう。以下の内容のうち必要書類は、日本国籍を有する日本人の場合です。日本国籍を離脱している元日本人の必要書類については、後述します。

遺産調査を依頼する先の選択:相続手続に詳しい司法書士または弁護士

遺産調査を依頼する際の専門家については、遺産調査や遺産分割協議についての経験が豊富で、相続登記など相続手続に詳しく、信頼できる専門家(司法書士または弁護士)に依頼するのがよいでしょう。
司法書士を選択するのであれば、司法書士は不動産登記(不動産名義変更)の専門家であり、相続登記や預貯金の相続手続にも詳しい司法書士がよいでしょう。
また、海外在住日本人が相続人となる場合の手続も、これについて詳しい司法書士がよいでしょう。
弁護士は、法律全般に精通しているはずですが、特に、遺産相続に詳しい弁護士を選択するのがよいでしょう。

遺産調査だけを依頼するのであれば、司法書士でもよいでしょう。これのみを弁護士に依頼する場合は、司法書士報酬よりも弁護士報酬が高くなると思われますので、それぞれの専門家に支払う報酬がどのくらいになるのかを、事前に確認した方がよいでしょう。
遺産が多岐(遺産の種類が多い)にわたり、遺産総額が高額となる場合で、相続人間の遺産分割協議が整わないことが想定される場合は、最初から相続に詳しい弁護士に依頼することも考えられます。
特に、海外在住日本人が、遺産分割調停をする場合、日本の家庭裁判所に出向くことは、費用面と時間的な問題がありますので、弁護士に依頼することを選択するのも一つの方法です。
司法書士または弁護士に依頼する場合、実際には、その専門家が依頼者の求めていることを正確に実行してくれるかどうか、依頼してみて初めて分かりますので、依頼する前によく調べた方がよいでしょう。これは、人からの紹介の場合にもいえることです。人からの紹介だからと言って、必ずしも、その専門家が相続手続に詳しいとは限らないからです。

海外在住日本人が遺産調査をするために必要な書類

海外在住日本人が遺産調査を依頼するためには、次のようなの書類を用意する必要があります。

  1. 本人確認書類
    パスポート・外国の運転免許証などの本人確認書類のコピーが必要です。
  2. 在留証明書とサイン拇印証明書(日本大使館・領事館で取得)
  3. 被相続人と相続人の関係を証明する除籍謄本・戸籍謄本など
    海外在住日本人が、日本にある除籍謄本・戸籍謄本などを取得することは難しいと思われますので、これらの取得を専門家に依頼します。次の相続証明書が必要です。この場合、相続手続で用意する相続証明書、すなわち、相続登記など相続手続に必要な書類すべてを用意する必要はありません。相続手続に必要な書類すべてを用意する時期は、実際の相続手続を行う時です。
    被相続人と相続人との関係が親子の場合(被相続人が兄弟姉妹の場合は、兄弟姉妹に子がいないこと、父母祖父母が死亡していることを証明)
    ①被相続人の除籍謄本(死亡の事実が記載)と戸籍の附票(死亡時の住所が記載)
    ②相続人の戸籍謄本(相続人であること)と戸籍の附票(海外に転出した外国名が記載)
  4. 委任状
    司法書士や弁護士に調査を依頼するための委任状が必要です。この委任状は、専門家に作成してもらい、署名・拇印します。
  5. 相続関係説明図
    相続関係が複雑な場合は、相続関係説明図を作成します。これは、依頼を受けた専門家が作成しますので、依頼者が作成する必要はありません。
    もっとも、被相続人と相続人との関係が親子の場合、相続関係説明図を作成しなくても、除籍謄本と戸籍謄本で相続関係が分かりますので、相続関係説明図を作成する必要はありません。
  6. 父の遺産に関する資料
    ①不動産
    不動産の登記されている内容を確認するために、最低限、不動産がどこの市区町村であるのかを専門家に伝える必要があります。
    ②預貯金
    ゆうちょ銀行の場合は、それだけで調査できますが、通常の金融機関の場合、どこの金融機関(支店までは必要ない)なのかを専門家に伝える必要があります。

専門家の調査の手順

  1. 依頼者が専門家に連絡
    司法書士や弁護士に連絡をし、調査を依頼をしたい旨を伝えます。メールや電話で状況を説明します。
  2. 専門家による委任状の作成と送付
    専門家が委任状を作成しますで、依頼者が作成する必要はありません。依頼者が自分で委任状を作成し専門家に渡し、手続ができない場合もありますので、手続が確実にできるように、委任状の作成は専門家に任せます。
    依頼者が、専門家からの委任状に署名拇印して、必要書類を揃えて、専門家に郵送します。
  3. 専門家による調査:専門家は、次の調査をします。
    ①不動産:名寄帳登記記録情報の取得
    ①ー1名寄帳の取得
    市区町村役場(東京23区は都税事務所)に名寄帳の請求をします。これにより、その市区町村内にある被相続人名義の不動産すべて(例外あり)を確認できます。
    ①ー2登記記録情報(登記簿謄本)の取得
    名寄帳を取得することにより不動産を特定できますので、その後、不動産の登記記録情報を取得します。これにより、登記されている内容を確認できます。
    ②預貯金:残高証明書と入出金明細書の取得
    ②ー1残高証明書:特定日の残高が記載されているもの
    残高証明書は、特定の日にある残高を証明するものです。特定日は、残高証明書を請求する日とします。この特定日をいつにできるかを、金融機関の担当者に確認します。金融機関によって異なります
    ②ー2入出金明細書:いつからいつまでの「入金、出金」の金額が記載されているものです。いつからいつまでの日は、おおよそ、被相続人死亡1年前から入出金明細書を請求する日とします。入出金明細書は、10年以前のものは、取得できない可能性があります。また、残高証明書の手数料は、1,000円前後ですが、入出金明細書の手数料は、金融機関によって、かなり異なり、横浜銀行の場合、一月当り330円、5年分ですと合計:19,800円かかります。ですが、口座の入金出金状況を調べることは重要ですので、多少手数料が高い場合であっても、取得するようにします。
  4. 専門家による遺産調査結果の報告
    遺産調査を専門家に依頼した場合、専門家は、遺産の調査結果を報告してくれます。まじめな専門家であれば、普通、そのようにします。
    専門家が遺産を調査した後、それぞれの遺産について分析をします。
    不動産であれば、不動産の明細と評価価格を教えてくれます。
    預貯金であれば、残高と入出金明細書の内容から、実際、被相続人の預貯金がいくらあったのかを推測することができます。

以上のことから、遺産全体の総額を知ることができます。

国籍離脱した元日本人が用意する書類

国籍離脱した元日本人が用意する書類は、日本国籍を有する海外在住日本人とは、多少異なります。日本国籍を有する海外在住日本人が用意する書類と異なる書類について説明します。そのほかの書類は、同じですので、前述の用意する書類で確認してください(一部重複します)。

  1. 本人確認書類
    パスポート・外国の運転免許証などの本人確認書類のコピーが必要です。
  2. 被相続人と相続人の関係を証明する除籍謄本・戸籍謄本など
    海外在住日本人が、日本にある除籍謄本・戸籍謄本などを取得することは難しいと思われますので、これらの取得を専門家に依頼します。次の相続証明書が必要です。この場合、相続手続で用意する相続証明書、すなわち、相続登記など相続手続に必要な書類すべてを用意する必要はありません。相続手続に必要な書類すべてを用意する時期は、実際の相続手続を行う時です。
    被相続人と相続人との関係が親子の場合(被相続人が兄弟姉妹の場合は、兄弟姉妹に子がいないこと、父母祖父母が死亡していることを証明)
    ①被相続人の除籍謄本(死亡の事実が記載)と戸籍の附票(死亡時の住所が記載)
    ②相続人の除籍謄本(相続人であること、国籍を離脱した記載が必要)と戸籍の附票(海外に転出した外国名が記載。保存期間の経過により取得できない場合がある。)
  3. 委任状と「外国公証人による署名証明
    司法書士や弁護士に調査を依頼するための委任状が必要です。この委任状は、専門家に作成してもらいます。
    日本国籍を有しない元日本人が日本大使館・領事館に在留証明書・サイン拇印証明書を申請しても受け付けてもらえません。日本大使館・領事館は、日本国籍を有する日本人のための機関だからです。
    次を参考にしてください。
    ニューヨーク総領事館:在留証明に関するよくある質問集(FAQ)
    そこで、委任状については、次の方法で行うことができます。
    委任状について、外国公証人に証明文を書いてもらいます。これには、次の二通りの方法があります。
    ①元日本人が、外国公証人の面前で委任内容を(外国語で)陳述し、陳述の内容を外国公証人が文書として(外国語で)作成し認証したもの。
    ②元日本人が、すでに作成した委任状を公証役場に持参し、公証人の面前で、これに署名(サイン)し、公証人が認証した文書
    ①②のうち、②を選択(②は①より費用が安く、簡易な方法です。)し、依頼者(委任者)が元日本人であり、日本語を理解できるので、委任状は日本語で作成して問題ありません。ただし、委任状のタイトルと日付は、日本語と外国語を併記します。
    この場合、専門家が作成した委任状を受取った時点では署名(サイン)しません。
    この委任状を外国の公証役場に持参し、公証人の面前で署名(サイン)します。
    署名(サイン)した書面に公証人が証明文(委任状のタイトルと日付を記載してもらいます)を付けてくれます。公証人の証明文を日本語に翻訳します(金融機関などに提出)。
    (以上、2024年、横浜銀行と三井住友銀行で手続完了)

アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスには、日本人専門の公証人(元日本人)がいるようですので、日本語ができるのであれば、この公証人に依頼するとよいでしょう。

相談事例の場合の遺産調査結果(仮定)

相談事例で、元日本人(日本国籍を離脱)から依頼された被相続人の遺産について、仮に、次のとおりだったとします。

調査により判明する遺産(遺産の分析)
不動産
①父が住んでいた土地建物 評価価格:3,000万円
②地方の山林 評価価格:20万円
預金
A銀行 残高:1,000万円
ただし、事例の場合、被相続人の死亡3か月前から死亡日まで、妹が500万円を引き出している。
B銀行 残高:1,000万円
ただし、事例の場合、被相続人の死亡3か月前から死亡日まで、妹が800万円を引き出している。

以上のことから、遺産総額は次のとおりです。

不動産
①父が住んでいた土地建物:3,000万円
②地方の山林:20万円
預金
A銀行 残高:1,000万円+500万円=1,500万円
B銀行 残高:1,000万円+800万円=1,800万円
合計:6,320万円

遺産分割協議をする場合、各相続人が取得する相続額を計算

●まず、法定相続分で計算
本来取得できる価格は、
相談者の姉:6,320万円×1/2=3,160万円
妹:6,320万円×1/2=3,160万円
●次に、実際に相続できる価格(不動産:3,020万円+預金残高:2,000万円=5,020万円)で計算
5,020万円のうち、
妹は、銀行から1,300万円引き出しているので、
3,160万円-1,300万円=1,860万円(妹が取得できる価格)
相談者の姉は、3,160万円(姉が取得できる価格)

以上の結果を踏まえて、遺産分割協議(案)を検討します。

例えば、
妹は①父が住んでいた土地建物:3,000万円所有権全部を取得できません。
反対に、姉は、①父が住んでいた土地建物:3,000万円所有権全部を取得できます。
現にある預金:2,000万円を妹が1,860万円を、残額140万円を姉が取得することもできます。

あるいは、例えば、
①父が住んでいた土地建物:3,000万円を売却して、預金と合わせて、分配するという方法もあります。
この場合、妹は1,860万円を取得し、姉は3,160万円を取得することになります。

どちらにしても、まずは、姉から妹に遺産分割協議書(案)を作成して、遺産分割の内容を提案するようにします。
二人の遺産分割協議(話し合い)が上手くいかない場合、姉は遺産分割調停を弁護士に依頼するようにします。日本における遺産分割調停を姉に代わり、弁護士が代理人として行ってくれます。

貸金庫がある場合

金融機関から入手した入出金明細書に「貸金庫の手数料の口座振替」がある場合、貸金庫がありますので、遺産分割の話し合いをする前に、貸金庫の中身を確認します。
貸金庫を開けるには、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。国籍離脱した元日本人は、外国公証人の署名証明が必要です。
貸金庫を開ける時に立ち会えない相続人は、第三者(司法書士や弁護士)に依頼することもできます。

相続税の申告と納税の期限に注意

相談事例では、遺産総額が6,320万円(実際には、土地を路線価で計算するため、よい高くなる。)であり、相続税の基礎控除額が、3,000万円+600万円×2名=4,200万円であることから、相談事例では、相続税の申告と納税が必要です。相続税の申告・納税の期限は、被相続人死亡の日から10カ月以内のため、遺産分割協議の成立(遺産分割協議書の作成)時期によっては、申告・納税の期限を過ぎてしまうことになります。申告・納税の期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税がかかりますので注意が必要です。特に、遺産分割調停となった場合、相続開始から10カ月以内に解決することが難しくなる恐れがあります。相続税については、税理士や税務署に早めに相談するのがよいでしょう。

まとめ:海外在住日本人と国籍離脱した元日本人が日本にある遺産を調査する方法(相続登記相談)

海外在住日本人・日本国籍を離脱した元日本人の遺産調査の手順と必要書類

  1. 専門家の選択
    相続手続に詳しい司法書士または弁護士に依頼します。
    遺産調査のみであれば司法書士、複雑な場合や遺産分割調停が必要な場合は弁護士に依頼するのがよいでしょう。
  2. 必要書類
    ①本人確認書類(パスポート、外国の運転免許証など)。
    ②被相続人と相続人の関係を証明する除籍謄本・戸籍謄本・戸籍の附票
    ③委任状と在留証明書・サイン拇印証明書、日本国籍離脱者は外国公証人による署名証明。
  3. 調査手順
    専門家に連絡し、調査依頼をします。
    専門家が委任状を作成し、依頼者が署名・拇印(サイン)して、必要書類と一緒に郵送します(日本国籍離脱者は外国公証人による署名証明)。
    専門家が不動産の名寄帳と登記記録情報を取得し、預貯金の残高証明書と入出金明細書を取得します。
    調査結果を専門家から報告します。
  4. 遺産分割協議の内容を検討
    調査結果を踏まえて、自分から遺産分割協議の内容を提案します。

相続登記や預貯金の相続手続やについては、当司法書士事務所にご相談ください。

相続登記や預貯金の相続手続について、当司法書士事務所にお気軽にお問い合わせください。
tel:045-222-8559 お問合わせ・ご相談・お見積り依頼フォーム

相続登記相談風景(イメージ)
相続登記相談風景(イメージ)

「相続登記相談事例など」に戻る

タイトルとURLをコピーしました