相続の換価分割は、裁判所の競売手続きで行うことができる。
これは、相続の遺産分割審判による換価分割のための差押(競売開始決定)という方法で行うことができます。
次の登記記録(登記簿)の甲区3番で「差押」が登記されています。
この差押は、「競売開始決定」を原因として「申立人A」と記載されています。
通常、競売開始決定による差押の登記の多くは、抵当権や根抵当権の担保権実行による場合に行われます。この場合、登記記録(登記簿)には、抵当権や根抵当権などが登記されています。
ですが、この登記記録をよく見てみますと、甲区欄のみで、甲区2番で「相続」を原因として3名の名義で登記されています。登記原因が「相続」であるので、この3名は共同相続人(実際に相続する法定相続人)だということが分かります。
また、甲区3番の「差押」には、「申立人」としてAが記載されています。このAの住所・氏名から甲区2番で登記されているAと同一人物で、Aが相続人として競売の申立てをしたということが分かります。
遺産の換価分割をするための競売申立による差押
結論から先に申しますと、この登記記録の内容には、「換価分割」とは記載されていませんが、共同相続人が3名で、「差押」、「競売開始決定」、「申立人(相続人)」と記載されていることから、裁判所の手続で、不動産を売却して遺産を分配することを意味しています。
遺産である不動産を分割して終わりではなく、不動産をお金に換えて、共同相続人の相続分で遺産を分割することを換価分割といいます。
では、なぜ、このように不動産の登記記録に「差押」が登記されてしまっているのでしょうか。(そこまでしなくてもよいのではないかと思われるかもしれません。)
競売申立による差押の登記は、この登記記録の場合、申立人Aが自分で法務局(登記所)に登記申請するのではなく、裁判所に競売の申立をすることにより、裁判所が法務局に対して「嘱託」という方法で行います。これは、相続人Aが換価分割のための競売を申し立てたことを意味します。
では、なぜ、裁判所の手続でないと換価分割ができないのでしょうか。
甲区2番の「相続」による「所有権移転」は、共同相続人3名で登記されていますが、この登記は、相続人A1名で相続登記をすることができます(民法第252条:保存行為による相続登記)。共同相続人1人からの相続登記の方法(法定相続分で遺言書で)を参考にしてください。
換価分割の一般的な方法
まず、換価分割は、相続人同士の話し合いで、遺産分割協議で行われます。遺産分割協議が成立すれば、遺産分割協議書を作成して、換価分割の方法などを遺産分割協議書に記載します。
これで問題がなければ、相続登記をした後、不動産を売却して、売却代金を分配することになります。
換価分割の遺産分割協議書の記載方法
例えば、次のような換価分割の内容を遺産分割協議書に記載します。
相続人全員名義で相続登記をする場合
相続人A、B、Cは、後記の不動産を各持分3分の1の割合で相続取得する。 ただし、不動産を売却し、売却代金から次の経費等を差し引いた金額を相続分(各持分3分の1)の割合で分配する。 (不動産の売却については、Aを代理人として手続を行い、Aが売却代金の受領、諸経費の計算・精算、金銭の分配を行う。) 売却に係る経費等 (1)上記不動産の司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費) (2)売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業 者への仲介手数料、交通費など) (3)境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など (4)譲渡所得税がかかる場合の譲渡所得税 (5)上記の他、不動産売却に伴う必要な経費
相続人の一名を相続名義人として相続登記をする場合
相続人Aは、後記の不動産を相続取得する。 ただし、Aが不動産を売却し、売却代金から次の経費等を差し引いた金額を、相続人A、B、Cの相続分(各持分3分の1)の割合で分配する。 売却に係る経費等 (1)上記不動産の司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費) (2)売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業 者への仲介手数料、交通費など) (3)境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など (4)譲渡所得税がかかる場合の譲渡所得税 (5)上記の他、不動産売却に伴う必要な経費
以上の内容は、不動産売却のための換価分割と代償分割を参考にしてください。
遺産分割協議が整わない場合は、遺産分割調停を申立てる
相続人同士の話し合いが上手くいかない、遺産分割協議が整わない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。遺産分割調停において換価分割で遺産を分配することが成立すれば、遺産分割協議と同様な方法で、相続登記をした後、不動産を売却して、売却代金を分配することになります。
ここまでは、特に問題なさそうです。
遺産分割調停が不成立の場合、遺産分割審判に移行する
ところが、遺産分割調停でも話し合いがまとまらない場合は、遺産分割審判に移行して、最終的には、家庭裁判所の裁判官が判決と同様に遺産分割の判断をすることになります。
この場合、遺産分割の審判では、次のような内容が審判書に記載されます。
相続人A、B、Cは、不動産を各持分3分の1の割合で相続取得する。 不動産を売却し、相続分(各持分3分の1)の割合で金銭で分配する。 上記の換価を実行する相続人Aを指定する。
家事事件手続法(遺産の換価を命ずる裁判)
家事事件手続法 | e-Gov法令検索
第十三節 遺産の分割に関する審判事件
第百九十四条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売して換価することを命ずることができる。
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。
3 前二項の規定による裁判(以下この条において「換価を命ずる裁判」という。)が確定した後に、その換価を命ずる裁判の理由の消滅その他の事情の変更があるときは、家庭裁判所は、相続人の申立てにより又は職権で、これを取り消すことができる。
4 換価を命ずる裁判は、第八十一条第一項において準用する第七十四条第一項に規定する者のほか、遺産の分割の審判事件の当事者に告知しなければならない。
5 相続人は、換価を命ずる裁判に対し、即時抗告をすることができる。
6 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判をする場合において、第二百条第一項の財産の管理者が選任されていないときは、これを選任しなければならない。
7 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判により換価を命じられた相続人に対し、遺産の中から、相当な報酬を与えることができる。
8 第百二十五条の規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第六項の規定により選任した財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。
上記の条文から、審判においても、任意売却で換価分割ができることもありますが、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、競売して換価分割をしなければならなくなります。
換価の実行を命じられた相続人Aが、不動産の所在地を管轄する裁判所に対して、不動産の競売を申立てます。
そうしますと、前述したとおり、裁判所が不動産を管轄する登記所に対して、「競売開始決定」による差押の登記を嘱託して、登記所が差押の登記をします。
その後は、通常の競売手続と同じ方法で、
裁判所が入札期間内に買受希望者に価格を入札させ、売却決定期日に売却許可決定を行い、買受人が決定します。
その後、裁判所が配当表を作成し、各相続人が配当金を受けることになります。
遺産分割調停中に申し出された換価分割を参考にしてください。
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