法定相続人一人に相続させるという遺言書で相続登記と認知の遺言書

「法定相続人一人に相続させる」という遺言書で相続登記と認知の遺言書

【事例】
被相続人:父
法定相続人:子(長男)一人
遺産:6,000万円
(1)不動産:3,000万円
(2)預貯金:3,000万円

公正証書遺言書(A)

子(長男)に「すべての財産を相続させる。」
「遺言執行者として○○を指定する。」

公正証書遺言書(B)

「○○を認知する。」
「遺言執行者として○○を指定する。」

被相続人(父)は、生前、公正証書で遺言書を2通作成し(A・B)、1通を子(長男)に、もう1通を「認知する子」の遺言執行者に渡していました。
父は、生前、認知したい子がいましたが、子(長男)に言いづらかったこともあり、遺言書で認知することととしました。ただし、父としては、基本的には、子(長男)に財産を遺したいという意向がありましたので、子(長男)に「すべての財産を相続させる。」という遺言書を作成しました。

だれしも、子(長男)をはじめ、近親者は、法定相続人が一人であると思っていますので、被相続人父が公正証書遺言書で「子(長男)にすべての財産を相続させる。」としたことを不思議に思ったことでしょう。

公正証書遺言書による相続登記(不動産名義変更)の方法

公正証書遺言書による相続登記に基本的な必要書類(一部省略)

  1. 公正証書遺言書(登記原因証明情報)
  2. 被相続人父の除籍謄本(死亡を証明)(登記原因証明情報)
  3. 被相続人父の住民票除票(本籍地記載)(または戸籍の附票除票(本籍地記載))
  4. 相続人子(長男)の戸籍謄本(相続人であることを証明)(登記原因証明情報)
  5. 相続人子(長男)の住民票

認知の遺言は、遺言者の死亡の時に効力を生じます。(民法985条)
遺言執行者は、その就職のとき(遺言執行者となることを承諾したとき)から10日以内に認知の届出をすることとなっている(戸籍法64条)ので、父死亡から数日で認知の届出が行われたものと思われます。
相続人子(長男)が、相続登記をするために被相続人父の除籍謄本を取得する頃には、父の戸籍に「認知した」旨が記載されているでしょう。

そうしますと、子(長男)としては、法定相続による登記ではなく、公正証書遺言書がある以上、遺言書による登記の方法を選択すべきでしょう。
子を認知した父の除籍謄本を法務局に提出した場合、ほかに相続人の子があることが判明するからです。(子長男は、このことを知らないかもしれないが。)

これで相続登記を完了させます。

預貯金の相続手続

子長男(の遺言執行者)は、不動産の相続登記と同様に、公正証書遺言書で預貯金の相続手続をします。これで預貯金の相続手続を完了させます。

認知された子の相続権と遺留分

認知の届出

遺言書で認知された子については、遺言書で遺言執行者として指定された者が役所に認知届出をします。

戸籍法 第六十四条
遺言による認知の場合には、遺言執行者は、その就職の日から十日以内に、認知に関する遺言の謄本を添附して、第六十条又は第六十一条の規定に従つて、その届出をしなければならない。

戸籍法 | e-Gov法令検索

認知された子が成人であるときは、この子の承諾が必要であるため、認知届出書に「認知を承諾する」旨、認知された子に署名捺印をしてもらいます。

認知の効果

認知の遺言は、遺言者の死亡の時に効力を生じます。(民法985条)
【戸籍への記載】
被相続人父の戸籍:「○○を認知した。」旨が記載されます。
認知された子:母の戸籍に「(父)○○が認知した。」旨が記載されます。

認知された子の相続権

認知された子は、認知によって父の相続権を子長男と平等の割合で取得します。
ただし、子長男が、公正証書遺言書で不動産と預貯金のすべてを相続することになりますので、認知された子が嫡出子の長男と平等の割合で相続権を行使できなくなります。
そこで、認知された子は、自分の遺留分に相当する分を金銭で請求することになります。

認知された子の遺留分

認知された子の遺留分(相続人に最低限、保証された相続分)は、本来の相続分2分の1の、さらに2分の1。
事例では、遺産総額が6,000万円なので、6,000万円×1/2×1/2=1,500万円

遺留分侵害額請求権の行使

認知された子は、遺留分侵害額請求権を行使して、遺留分に相当する金銭:1,500万円を子長男に請求することになります。

まとめ:法定相続人が一人の相続手続と認知

認知したい子がいるとき、法定相続人の子一人に相続させたいときは、遺言書を公正証書で作成します。
自筆証書遺言書(家庭裁判所の検認手続登記所保管制度)では、相続開始後の手続に時間がかかり、相続人の負担が大きいので、公正証書で遺言書を作成します。

遺言書で認知する旨が記載されている場合、遺言執行者が認知の届出をします。自筆証書遺言書で遺言執行者が指定されて(書かれて)いない場合は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをしなければなりませんので、安心・確実な公正証書で遺言書を作成した方がよいでしょう。

事例のように、遺産を嫡出子の相続人にすべて相続させ、認知した子には、遺留分侵害額請求権を行使してもらい、遺留分に相当する分を金銭で解決するのがよい方法でしょう。
事例の場合、子(長男)は、不動産と預貯金を相続取得し、認知された子に預貯金から1,500万円を渡せば済むことになります。

相続登記、預貯金の相続手続や遺言書については、当司法書士事務所にご相談ください。

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