相続した不動産に(株)SFCGの根抵当権設定仮登記が登記されているときの手順、方法、費用、日数

相続した不動産に(株)SFCGの根抵当権設定仮登記が登記されているときの手順、方法、費用、日数

【相続登記相談】
被相続人父所有の不動産を相続しました。相続人は、子である私一人です。
この不動産には、(株)SFCGの根抵当権設定仮登記が登記されています。(株)SFCGは、破産手続きが終結しているようです。登記されている「債務者」は、被相続人の父ではなく、第三者です。
現在、この不動産を売却しようと考えていますが、どのような手順で売却までしたらよいでしょうか。必要書類や費用、手続完了までの日数も教えてください。
相続不動産
土地 固定資産評価価格:150万円
建物 固定資産評価価格:50万円
     合計:200万円

登記記録情報(土地・建物)

相続登記から根抵当権設定仮登記の抹消登記までの手順、必要書類、費用、日数

次の手順で、相続登記から根抵当権設定仮登記の抹消登記まで行います。
抹消登記の完了まで約7か月以上かかりますので、不動産の売却については、売却を依頼する不動産仲介業者に、その旨を伝えます。
また、根抵当権設定仮登記の抹消登記と売買による所有権移転登記を同時に行うことはできますが、通常このような難しい抹消時の場合、抹消登記を完了させてから、売買の決済を行います。その後に、売買による所有権移転登記をします。

相続登記から根抵当権設定仮登記の抹消登記までの手順、日数

  1. 相続登記(不動産の名義変更)
     相続登記の必要書類の取得:約2週間
     相続登記申請書などの作成
     相続登記申請(登記申請書類の提出):完了まで約2週間
     相続登記完了:登記識別情報通知などを受領
     登記事項証明書の取得
  2. (株)SFCGの根抵当権設定仮登記の抹消登記の裁判
     必要書類の準備:約2週間
     訴状・特別代理人選任申立書の作成:約2週間
     訴状・特別代理人選任申立書の提出
     特別代理人選任:約1か月後
     第一回口頭弁論(期日):特別代理人が指定された後、約1か月後
     判決(期日):約1か月後
     判決確定:2週間後
     判決確定証明書の取得:約1週間(郵送)
  3. 根抵当権設定仮登記の元本確定登記と抹消登記
     必要書類の準備:約1週間
     登記申請書などの作成
     登記申請(登記申請書類の提出):完了まで約2週間
     登記完了:登記完了証の受領
     登記事項証明書の取得

相続登記(不動産の名義変更)

(株)SFCGの根抵当権設定仮登記を抹消登記をすることになりますので、その前に、まずは、相続登記をして、不動産の所有者を確定させます。裁判を行うときの「原告」を確定させるためにも必要です。

相談事例の場合、相続人は、相談者の子一人であるので、法定相続による登記となります。
この登記は、法定相続による相続登記ですので、次を参考にしてください。
法定相続分による相続登記の方法
法定相続分での相続登記の方法
【相続登記の難易度】相続登記を自分ですることは可能でしょうか。

【相続登記の手順】

  1. 相続登記の必要書類の取得:約2週間
  2. 相続登記申請書などの作成
  3. 相続登記申請(登記申請書類の提出):完了まで約2週間
  4. 相続登記完了:登記識別情報通知などを受領
     登記識別情報通知は、売却時に売主が用意する「権利証」として必要となります。
  5. 登記事項証明書の取得
     相続登記完了に、登記事項証明書を取得します。これは、(株)SFCGの根抵当権設定仮登記を抹消する裁判で必要となります。

(株)SFCGの根抵当権設定仮登記の抹消登記の裁判

(株)SFCGについては、すでに破産手続きが終結していますので、破産管財人を新たに選任してもらうことができません。
(株)SFCGを相手方とするには、(株)SFCGの旧本店所在地の東京地方裁判所に清算人選任の申立てをし、この清算人と抹消登記について共同申請することも考えられます。しかし、清算人への予納金がどのくらいになるのか予想できないため、裁判によることを選択することにします。

特別代理人の選任申立

特別代理人選任申立は、民事訴訟法第37条、第35条に基づいて申立てをします。

民事訴訟法(法人の代表者等への準用)
第三十七条 この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。
(特別代理人)
第三十五条 法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。

民事訴訟法 | e-Gov法令検索

裁判では、相手方を「特別代理人」としますので、訴状と併せて特別代理人選任申立書を裁判所に提出します。
特別代理人は、裁判所が指定し、弁護士が選任されます。申立から選任まで1か月ほどかかります。
特別代理人選任申立では、予納金を裁判所に納めます。通常、予納金は、11万円のようです(〇簡易裁判所では、11万円)。原告の負担となります。
この予納金は、選任された弁護士に報酬として裁判所から支払われます。

どこの裁判所で裁判するのか:どこの裁判所に訴状・特別代理人選任申立書を提出するのか

裁判をするには、裁判所の管轄(どこの所在地の裁判所か)の問題や地方裁判所か簡易裁判所かの問題があります。
相談事例では、固定資産評価価格の合計が200万円であることから、裁判における訴額が100万円(訴額は固定資産評価価格の2分の1)となりますので、簡易裁判所での裁判(訴額が140万円以下)ができ、また、不動産所在地の簡易裁判所とすることができます。
簡易裁判所であれば、司法書士が相続人本人(原告)の代理人となることができます(訴額が140万円以下)。
訴額が140万円を超えますと、司法書士が原告の代理人となれませんので、相続人本人が自分で裁判をするか、弁護士に依頼するかを選択することになります。

必要書類の準備
 訴状と特別代理人選任申立書には、次の書類が必要となります。
 (1)不動産の登記事項証明書(1通)
 (2)(株)SFCGの閉鎖事項全部証明書(2通)
 (3)固定資産評価証明書
仮登記根抵当権の元本の確定登記請求権と抹消登記請求権に基づく訴状を作成します。

仮登記根抵当権の元本確定登記が必要な理由

元本の確定登記は、根抵当権の債権を確定させ、抹消する原因を、基本的には、債権の消滅時効を援用する方法で行います。
ただし、最初の訴状で、元本の確定の前に債権の消滅時効を援用すると、元本確定後に発生する可能性のある(実際にはありえない)と主張されることを防ぐ目的で、また、時系列的に矛盾が生じるので、最初の訴状で元本確定登記請求をし、相手方被告弁護士が反論してきた後の第一回口頭弁論期日に、債権の消滅時効を援用する方法とします。

根抵当権の元本が確定し、債権が時効で消滅すれば、根抵当権は、抵当権と同様に消滅します(付従性)。したがいまして、仮登記根抵当権抹消登記請求権で抹消することができます。
SFCG(旧・商工ファンド)の根抵当権仮登記の抹消登記を参考にしてください。

元本確定登記請求(債務者が第三者の場合)

相談事例の場合、登記されている「債務者」が第三者であるので、次の方法により、元本を確定させます。
元本確定登記請求は、民法398条の19第1項により、「根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定する。」ことから、訴状の中で、元本確定登記請求をします。

民法(根抵当権の元本の確定請求)
第三百九十八条の十九 根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定する。

民法 | e-Gov法令検索
元本確定登記請求(債務者が被相続人の場合)

債務者が被相続人の場合は、民法第398条の8第4項により、「相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。」ので、これを根拠に元本確定登記請求をします。

民法(根抵当権者又は債務者の相続)
第三百九十八条の八 元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
2 元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
3 第三百九十八条の四第二項の規定は、前二項の合意をする場合について準用する。
4 第一項及び第二項の合意について相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。

民法 | e-Gov法令検索
訴状の「請求の趣旨」と「請求の原因」

訴状の「請求の趣旨」と「請求の原因」を次のように記載します。
以上の内容から、訴状を作成します。

請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物に登記された別紙登記目録記載の各登記について、本訴状送達の日から二週間を経過した日の元本確定を原因とする根抵当権元本確定登記手続をせよ。
2 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物に登記された別紙登記目録記載の各根抵当権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
  との判決を求める。

請求の趣旨には、判決理由が記載されていても記載されていなくても登記上問題がないため、あえて記載しないということもできます。請求の趣旨に判決理由が記載されていない場合、登記原因は「〇年〇月〇日判決」となります。

請求の原因(一部省略)
3 被告については、令和1年12月18日東京地方裁判所の破産手続が終結している(甲〇号証)。よって、別件で、本件裁判手続を遂行する特別代理人選任命令の申立てをする。
4 〇番根抵当権仮登記の債務は不存在であるので、確定債務不存在により〇番根抵当権仮登記を抹消登記することになるが、この抹消登記をするには、〇番根抵当権仮登記の元本確定登記をする必要がある。
 そこで、民法第398条の19第1項の規定により、根抵当権の設定者たる原告が被告に対し本訴状をもって〇番根抵当権仮登記の根抵当権について元本確定請求をする。これにより、担保すべき元本は、本訴状送達の日から二週間を経過することによって確定する。
5 前述4項の元本確定により〇番根抵当権仮登記の債務は不存在であるので、〇番根抵当権仮登記について元本の確定した根抵当権は消滅することになり、〇番根抵当権仮登記を抹消登記する必要がある。
6 結語
 よって、原告は、被告に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物に登記された別紙登記目録記載の根抵当権設定仮登記について、仮登記根抵当権の元本確定登記及び仮登記根抵当権の抹消登記手続を求め、訴えを提起する。

簡易裁判所では、実際(第一回口頭弁論期日)、次のような抹消原因でよいのではないかと言われたました。
(株)SFCGの破産手続きは、すでに終結しているので、終結した時点で、(株)SFCGのすべての債権債務関係が存在しないことになり、かつ、破産手続き終結後の債権の発生もありえないことから、確定債務が不存在であるという理由です。
原告としては、その理由に追加して、被告が反論してきた場合に備え、予備的に、債権の時効消滅も理由に加えました。被告答弁書では、「債務の不存在の理由が記載されていない」と反論されました。

特別代理人選任申立書の作成

前述の民事訴訟法35条の「遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して」の内容を特別代理人選任申立書に記載します。

相続登記から根抵当権設定仮登記の抹消登記までの費用(相談事例で司法書士に依頼した場合)

相続登記費用(不動産の名義変更)
 司法書士報酬:58,300円
 実費(登録免許税・証明書)<