相続した不動産の相続人の中に、行方不明の人がいる場合の売却までの手続(相続登記相談)

相続人の所在等不明共有者(相続人の行方不明共有者)がいる不動産の売却までの手続:不在者財産管理人選任・「持分の取得」・「持分の譲渡」(相続登記相談)

【相続登記相談】
5年前に父が死亡し、被相続人父所有の戸建てを売却しようと考えています。
法定相続人は、母・私(長男)・行方不明の弟(二男)です。
この場合、どのような手続をすれば、売却できるでしょうか。
戸建ての時価は、約3,000万円です。被相続人父の遺産には、この戸建てのほかに預貯金などはありません。
現在、母と私(長男)の財産は、預金が300万円です。

相続登記(不動産名義変更)を申請(相続登記相談)

後の手続の前提として、まず、被相続人父所有の戸建てについて、法定相続分による相続登記を申請します。このページでは、相続した不動産の相続人の中に、行方不明の人がいる場合について解説しますので、法定相続分による相続登記については簡単に説明します。
相続登記について、詳しくは、次のページでご確認ください。
相続登記の手順法定相続人法定相続分相続関係説明図相続登記の必要書類相続登記費用相続登記申請書の書き方

相続人が母・長男・二男(行方不明)であるので、法定相続分は、母が持分2分の1、長男・二男(行方不明)が持分各4分の1で登記します。
二男は、行方不明で申請人となることができませんので、母または長男が二男の代わりに申請人となり、民法の保存行為((共有物の管理)252条5項)により登記申請します。
この場合、登記完了後、母と長男には登記識別情報通知(権利証)が発行されますが、二男は申請人とならないため、二男には、これが発行されません。

相続した不動産の相続人の中に、行方不明の人がいる場合の売却までの手続(相続登記相談)

相続した不動産の相続人の中に、行方不明の人がいる場合の売却までの手続は、次の二通りの方法があります。どちらが適切なのかを、事案に応じて選択します。

A:従来からある「不在者財産管理人」を選任してから不動産を売却する方法
B:令和5年4月1日から施行された「所在等不明共有者の「持分の取得」と「持分の譲渡」による不動産の売却

A:従来からある「不在者財産管理人」を選任してから不動産を売却する方法

内容につきましては、相続と不在者財産管理人を参考にしてください。
管轄裁判所:行方不明者の最後の住所地の家庭裁判所
対象となる財産:行方不明者の全財産(全部の財産
申立人:利害関係人として他の共有者(被相続人父の相続登記をした後の相続名義人)
申立て条件:所在等不明の証明
申立人の代理人となれる人:弁護士のみ。司法書士は代理人となれない。
            司法書士ができるのは、申立書類の作成と提出。
売却までの期間:申立てから売却まで約6か月

次の2段階で申立てをします。

  1. 第1段階:不在者財産管理人選任の申立て
     最寄りの警察署に捜索願を提出します。受理証明書をもらい、家庭裁判所に提出します。
     申立人:利害関係人として他の共有者(被相続人父の相続登記をした後の相続名義人)
     予納金:申立てた後、家庭裁判所から予納金の納付を言われます。(事案によって約30万円から100万円)
         予納金は、申立人の負担となります。
         予納金は、財産管理人となる弁護士・司法書士の報酬として裁判所から支払います。
     警察への捜索願により、行方不明者が見つかることもあります。この行方不明者と連絡が取れて話し合いができれば、申立てを取下げて、不動産を売却することができます。    
  2. 第2段階:不動産売却の許可申立て:財産管理人が申立てます。
         売買契約書(案)を家庭裁判所に提出します。
    不動産の売却
     売買契約の締結は、財産管理人と他の共有者が売主となります。
    売却代金
     行方不明者の共有持分に相当する代金は、原則、財産管理人が行方不明者が現れるまで保管します。
     財産管理人が代金(管理している金銭)を供託して、財産管理行為を終了させることもできます。

費用(手続を司法書士に依頼した場合)

  1. 当司法書士事務所報酬:11万円
  2. 実費
     ① 裁判所申立手数料:800円
     ② 郵便切手代
     ③ 戸籍謄本など取寄せ費用
     ④ 予納金:事案によって30万円から100万円

B:令和5年4月1日から施行された所在等不明共有者の「持分の取得」または「持分の譲渡」による不動産の売却

管轄裁判所:不動産所在地の地方裁判所
対象となる財産:所在等不明共有者の共有持分のみ
申立人:利害関係人として他の共有者(被相続人父の相続登記をした後の相続名義人)
申立て条件:所在等不明の証明
申立人の代理人となれる人:弁護士のみ。司法書士は代理人となれない。
            司法書士ができるのは、申立書類の作成と提出。
公告期間:3か月以上(異議届出期間等の経過)
「時価相当額の金銭」の供託:不動産売却の前(売却代金を受け取る前に)に申立人が負担します。
売却までの期間:申立てから売却まで約6か月

費用(手続を司法書士に依頼した場合)

  1. 当司法書士事務所報酬:165,000円
  2. 実費
     ① 裁判所申立手数料:2,000円
     ② 郵便切手代:6,000円
     ③ 戸籍謄本など取寄せ費用
     ④ 時価相当額の金銭:共有持分に相当する金額(不動産売却の前に申立人が負担します。)
Bの1「持分の取得」を(登記)してから第三者に譲渡

地方裁判所の決定を受けて、所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得した後、不動産全体を売却する方法

  • 「時価相当額の金銭」の供託(不動産売却の前(売却代金を受け取る前に)に申立人が負担します。)
     申立後、裁判所の決定で、「時価相当額の金銭(共有持分に相当する金額)」を供託します。
     この「時価相当額の金銭」は、申立人が負担し、供託します。
     所在等不明共有者が現れない場合、消滅時効で、供託金が確定的に国庫に帰属することになります。
  • 持分の取得:「所在等不明共有者」の持分を取得させる旨の裁判(確定)
  • 登記:所在等不明共有者の持分を申立人(他の共有者)に持分移転登記をします。
  • 不動産の売却:売買契約の締結は、所在等不明共有者を除く他の共有者が売主となります。

民法(所在等不明共有者の持分の取得)
第二百六十二条の二
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按あん分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。
4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

民法 | e-Gov法令検索

非訟事件手続法(所在等不明共有者の持分の取得)
第八十七条 所在等不明共有者の持分の取得の裁判(民法第二百六十二条の二第一項(同条第五項において準用する場合を含む。次項第一号において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分の取得の裁判をいう。以下この条において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をす