数次相続の登記の方法(遺産分割と法定相続)

数次相続の登記の方法(遺産分割と法定相続)

数次相続とは、被相続人の死亡後に、法定相続人が死亡した場合をいいます。相続が1回、2回、3回と順次に開始するので、数次相続といいます。
この場合、不動産の登記でいえば、被相続人についての名義変更(相続登記)をしないままの状態で、その後、法定相続人が死亡し、これら2回(3回)分の相続による名義変更をまとめて行う場合のことをいいます。

数次相続では、基本的に、相続ごとに(第1の相続→第2の相続→第3の相続→・・・)1件ずつ申請書を作成します。この場合、相続人の中に、すでに死亡している人がいる場合であっても、この死者を含めて(死者名義)、1件ずつ申請書を作成します。
例外的に、中間の相続の相続人が1名の場合は、中間の相続登記を省略することができます。これは、法定相続分での登記も遺産分割による登記の場合も同じです。
登記申請書1件で作成するか、2件・3件・・・で申請書を作成するかは、次の登記の大原則があるからです。
登記申請書1件で作成できるのは、「登記の目的」、「原因」と「申請人(相続人)」が同じであることが条件です。これらが異なれば、1件で申請書を作成することができず、2件・3件・・・で申請書を作成しなければなりません。

もう一つ、登記の大原則があります。

それは、登記をする「事実(または法律行為)」ごとにすべて登記をする、というのがあります。

したがいまして、中間の事実(または法律行為)を省略して、最後の事実(または法律行為)だけで登記ができないということになります。

「相続」の場合に限らず、売買の場合も同じです。

例えば、所有者AがBに売却し、BがCに売却して最終的にDが買主となった場合は、「AからBへの所有権移転登記」、「BからCへの所有権移転登記」、「CからDへの所有権移転登記」の3件で登記しなければなりません。

これを1件で「AからDへの所有権移転登記」をすることができません。

このことは、登記の大原則とは別に、税金にも関係します。

例えば、売買の場合、売主には譲渡所得税の問題があり、買主には不動産取得税(と固定資産税)の問題があります。

登記がされますと、その登記情報は、税務署、県税事務所、市区町村役場に通知されます。

このことは、それぞれの役所に登記情報が通知されることによって、「税金」について各役所が課税するかどうかを検討することになります。

売買の先の事例で、「AからDへの所有権移転登記」1件で登記することができることになってしまいますと、

BとCには譲渡所得税と不動産取得税が課税されないことになってしまいます。

これと同様に「相続」の場合も同じです。もっとも、相続税に関しては、税務署は登記とは関係なく調査しているとは思いますが。

「相続」という事実が数回あった場合、中間の相続(という事実)を省略しないで、全ての相続(という事実)で、登記しなければならないということになります。

中間の相続(という事実)を省略して登記することができるとすれば、売買の場合と同じように、相続では相続税が最後の相続人のみに課税されることになってしまいます。(実際、税務署は財産を把握していますので、このようなことはないとは思いますが。)

「相続」の場合、例外的に中間の相続を省略できるのは、「実際に不動産を取得した(亡)相続人A」が一人の場合だけです。

このことは、法定相続分での登記はもちろん、遺産分割(協議・調停)で「実際に不動産を取得した(亡)相続人A一人」とする場合にも中間の相続を省略することができます。

この場合、不動産を取得した「(亡)相続人A」が中間で「相続したという事実」を登記上に表す必要があるため、「年月日A相続、年月日相続(最後)」という記載の方法となります。

中間の相続を省略できる場合であっても、中間の相続という事実があったことを登記上に表す必要があるからです。

数次相続の場合、被相続人の後に、法定相続人が死亡して、また、その法定相続人が何人いるかによって、名義変更(相続登記)の仕方が、まるで違ったものになります。

すなわち、2回分の相続による名義変更をまとめて行う場合、
法定相続人の子供が二人いるときと、一人のときでは、その登記の仕方が違ったものになります。

そこで、典型的な事例、二つで説明します。

事例1:最終的な法定相続人が2人以上のとき(遺産分割協議で登記)

被相続人父の相続人は、妻と子供2人CとD
被相続人父の後に、法定相続人妻が死亡した場合

被相続人1名の相続の場合

最終的に、子供C一人の名義にしたいとき
子供CとDで、被相続人父の不動産についての遺産分割協議を行います。遺産分割協議書を作成します。
これによって、相続する名義人を子供Cとする名義変更(相続登記)ができます。

妻が死亡していますが、妻の法定相続人は、子供CとDであるので、子供CとDは、被相続人父の法定相続人として、かつ、死亡した妻の法定相続人として、被相続人父について遺産分割協議をすることになります。
この場合、死亡した妻を通り越して、子供CとDだけで、被相続人父の遺産分割ができるということになります。

より複雑な数次相続登記は、数次相続の遺産分割協議書・相続関係説明図の作成方法と登記の方法を参考にしてください。

被相続人2名が不動産を所有している場合

これとは別に、死亡した妻にも不動産がある場合、被相続人父とは別に、妻について、子供CとDで遺産分割協議をすることになります。父とは別に、妻に関する遺産分割協議書を作成します。
これについては、共有名義の相続登記の方法(共有者2名が被相続人の場合)を参考にしてください。

以上のように、被相続人父の遺産と死亡した妻の遺産は、別個のものとして遺産分割をします。
この場合、遺産分割協議書は、2枚作成することになります。
登記申請の件数は、被相続人父の登記と、妻の登記で2件で申請します。

以上は、相続人が2名いる場合、遺産分割で相続人1名にする場合(法定相続分とは異なる相続の仕方)を説明しましたが、遺産分割ではなく、相続人2名の法定相続分で登記したいという場合、法定相続分で登記することもできます。
この法定相続分で登記する場合は、次の事例2のような登記の方法となりますので、登記の方法が複雑になります。

事例2:最終的な法定相続人が1人のとき(法定相続分で登記)

被相続人父の相続人は、妻と子供一人A
被相続人父の後に、法定相続人妻が死亡した場合

この場合は、子供一人が法定相続人であるので、事例1の方法をとることができません。
以前は、事例1の方法で登記することも可能でした。
といいますのは、事例1では、子供二人で遺産分割協議をしますが、子供一人で行うときは、自分一人で決める「遺産分割決定書」を作成することを法務局が認めていました。
今では、この方法は、法務局が認めていません。法務局に確認してください。

そこで、子供一人が法定相続人の場合は、法定相続分で登記することになります。

例えば、被相続人父、妻の名義が次の場合と仮定します。
1)土地B:父所有権全部
2)土地C:父持分2分の1、妻持分2分の1

法定相続分での登記の方法を順番に説明します。登記申請書の記載方法です。細かいところは省略します。

1)土地B:父所有権全部について

登記申請書は、2件作成します。
まず
登記の目的:所有権移転
原因:父死亡日、相続
相続人(被相続人、父)
持分2分の1、(亡)妻(死亡している妻名義で登記します。)
持分2分の1、子供A

登録免許税は、(亡)妻名義にする持分2分の1について非課税です。
数次相続の場合、第一の相続については、非課税の取り扱いとなっています。(2021年6月1日現在)
非課税となる不動産は、土地だけです。建物は、通常どおり評価価格の0・4%かかります。
子供Aの持分2分の1については、通常の税率、0・4%かかります。
この場合は、登記申請書に次の記載をします。土地の評価価格を1,000万円と仮定します。
課税価格:500万円(移転持分課税価格:500万円)
登録免許税:20,000円
持分2分の1につき租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税(2021年6月1日現在、適用)

登録免許税の計算は、慎重にする必要があります。多く納めてしまうと、あとで、登録免許税の還付請求をしなければならず、面倒な手続きとなってしまいます。
登録免許税がよく分からないときは、少なめに納めます。不足の分は、法務局に言われたら納めるようにします。

次に
登記の目的:妻持分全部移転
原因:妻死亡日、相続
相続人(被相続人、妻)
持分2分の1、子供A

課税価格:500万円(移転持分課税価格:500万円)
登録免許税:20,000円

以上、2件の登記をすることにより、子供Aは、1件目で持分2分の1を取得し、2件目で持分2分の1を取得するので、合計2分の2、=1となり、父の土地Bの所有権全部を取得することになります。

2)土地C:父持分2分の1、妻持分2分の1について

父持分と妻持分は、登記申請書2件作成します。
父持分2分の1から、登記申請書を作成します。
まず
登記の目的:父持分全部移転
原因:父死亡日、相続
相続人(被相続人、父)
持分4分の1、(亡)妻
持分4分の1、子供A

登録免許税は、(亡)妻名義にする持分4分の1について非課税です。
数次相続の場合、第一の相続については、非課税の取り扱いとなっています。(2021年6月1日現在)
非課税となる不動産は、土地だけです。建物は、通常どおり評価価格の0・4%かかります。
子供Aの持分4分の1については、通常の税率、0・4%かかります。
この場合は、登記申請書に次の記載をします。土地の評価価格を1,000万円と仮定します。
課税価格:250万円(移転持分課税価格:250万円)
登録免許税:10,000円
持分4分の1につき租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税(2021年6月1日現在、適用)

登録免許税の計算は、慎重にする必要があります。多く納めてしまうと、あとで、登録免許税の還付請求をしなければならず、面倒な手続きとなってしまいます。
登録免許税がよく分からないときは、少なめに納めます。不足の分は、法務局に言われたら納めるようにします。

次に
登記の目的:妻持分全部移転
原因:妻死亡日、相続
相続人(被相続人、妻)
持分4分の3、子供A

課税価格:750万円(移転持分課税価格:750万円)
登録免許税:30,000円

次に、もともと妻が持っていた持分2分の1(4分の2)と、父の持分について登記した妻の持分4分の1、併せて2件目で4分の3を登記します。
登記の目的:妻持分全部移転
原因:妻死亡日、相続
相続人(被相続人、妻)
持分4分の3、子供A

課税価格:750万円(移転持分課税価格:750万円)
登録免許税:30,000円

以上土地Cについては、2件の登記をすることにより、子供Aは、1件目で持分4分の1を取得し、2件目で、もともと妻が持っていた持分2分の1(4分の2)と、父の持分について登記した妻の持分4分の1、併せて2件目で4分の3を取得したので、合計4分の4、イコール、1となり、父と妻の土地Cの所有権全部を取得することになります。

次を参考にしてください。
数次相続(被相続人父→弟→母の順番で死亡、相続開始)登記の方法:相続登記相談

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