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相続登記と時効取得

相続事例
被相続人が亡くなり相続が開始してから20年を経過しました。
法定相続人の3名のうち、そのうちの相続人1名Aが被相続人名義の土地建物に20年以上、住み続けており、固定資産税を支払ってきました。
土地建物の名義は、現在、被相続人名義のままです。
法定相続人の3名で、過去、遺産分割の話し合いをしたが成立していない。
相続人Aは、被相続人名義の土地建物について、「時効取得」を理由(登記原因)として、自分に名義変更登記をすることができるでしょうか。
ここでの問題点は、次のとおりです。

時効取得とは

民法第162条(所有権の取得時効)第1項 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
 第2項 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

民法第185条(占有の性質の変更) 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。

上記の条文の内容から、時効により不動産を取得するには、「所有の意思」が必要となります。
時効取得に必要な「所有の意思」は、法律上根拠のある思い込み(信じたこと)が必要です。
「所有の意思」は、裁判となった場合、これを証明する必要があります。

不動産の相続の場合の時効取得

遺言書があり、法定相続人のうちの1名に不動産(の所有権)を相続取得させるとある場合には、その法定相続人が相続開始時に確定的に不動産(の所有権)を取得します。
遺言書がない場合、複数の法定相続人の間での遺産分割協議が成立し、法定相続人のうちの1名が不動産(の所有権)を相続取得する場合は、その法定相続人が相続開始時に確定的に不動産(の所有権)を取得します。

これら遺言書がない場合、遺産分割協議も成立していない状態の相続の場合に、法定相続人が複数いる場合には、相続の開始時点で被相続人名義の不動産は法定相続人の共有状態となります。(法定相続)

この法定相続の場合に、法定相続人のうちの1名長男が、自分は長男だから不動産を相続取得したものと思い込んだ(信じた)としても、時効により取得することはできません。(法律上根拠のない思い込み)
現在の法律(民法)では、法定相続の場合に、戸籍を調べれば、法定相続人が誰であるのか、わかってしまうからです。

時効取得に必要な「所有の意思」は、法律上根拠のある思い込み(信じたこと)が必要です。
「所有の意思」は、裁判となった場合、これを証明する必要があります。

「所有の意思」があるというためには、例えば、法定相続人全員で遺産分割協議をして、法定相続人のうちの1名が相続取得する、とした場合は、その相続人がその協議成立の時点で、「所有の意思」がある、ということになります。

被相続人が親で、相続人が子の場合、

  • 善意、無過失で10年間占有していたときに時効取得が成立するのは、
    例えば、相続人の子が一人で、きちんと戸籍で調べても、法定相続人が自分ひとりだと思っていた場合、後になって、実は、もう一人法律上の子がいたとき
    所有の意思があったと言えるでしょう。
  • 20年間占有していたときに時効取得が成立するのは、
    例えば、相続人の子が一人で、戸籍で調べないで、法定相続人が自分ひとりだと思っていた場合、後になって、実は、もう一人法律上の子がいたとき
    所有の意思があったと言えるでしょう
  • 時効取得が成立しないのは、
    この場合(20年間の占有)、小さいときから兄弟姉妹がいたことを認識していたとき
    所有の意思があったとは言えないでしょう。
    偽りの所有の意思
    自分に相続権があれば、他の兄弟姉妹にも相続権があると思うのが普通ですから。

遺産分割協議が成立していない状態の場合は、不動産の単独所有意思はなく、共有持分権の意思だけの状態です。

単に、20年以上住み続け、固定資産税も払ってきました、という事実だけでは、現在の法律では、時効取得は成立しません。

20年以上住み続け、固定資産税も払ってきました、ということで時効が成立する条文がない以上、基本的に、時効取得は成立しません。

この場合の時効取得を成立させる明確な法律がないので、結局、最高裁判所まで裁判をすることになります。
相続人の一方(原告)は、時効取得が成立している、と主張し、相続人の一方(被告)は、時効取得が成立していない、という主張の裁判です。(結局、どちらが正しいか、よくわからないことになります。)
1審・2審・最高裁判所までの訴訟費用や弁護士費用は相当な金額になるものと思われます。(ご自分で訴訟をすれば別です。

20年以上住み続け、固定資産税も払ってきました、ということで時効取得が成立するには、新たな法律が必要です。(現実問題とし、新たな法律を作るべきだと思います。)

すくなくとも、現在の法律では、単に、20年以上住み続け、固定資産税も払ってきました、という事実だけでは、時効取得は成立しません。

ただし、裁判となった場合、防御をきちんとしないと、所有の意思の否定や過去の判例を引き合いに、防御の根拠をきちんと提示しないと、敗訴する可能性もあります。

時効取得の登記申請方法

当事者の共同申請の場合

時効取得を登記原因として不動産の登記を申請する場合の方法は、
時効により不動産の権利を取得した人と時効により不動産の権利を失った人が共同して申請します。
登記権利者は、時効により不動産の権利を取得した人、登記義務者は、時効により不動産の権利を失った人、がなります。

登記義務者の用意する必要書類は、次の書類です。

  1. 不動産の権利証(登記済権利証または登記識別情報
  2. 印鑑証明書
  3. 実印を押印した登記用委任状
  4. 実印を押印した移転登記原因証明情報
  5. 固定資産税の評価証明書

裁判所の和解・判決による場合

裁判所の和解・判決によって、時効による不動産の権利を取得した人が、自分一人で、登記権利者が、登記義務者の協力を得ることなく単独で、登記申請できます。
この場合、上記当事者の共同申請で用意する登記義務者の書類は不要となります。

ただし、この和解・判決による登記をする前に、次の登記をする必要があります。
相続を登記原因として、法定相続人全員の名義に所有権移転登記

時効取得と税金

事例の場合、相続税については、相続開始から20年も過ぎているので、相続税の対象となりません。

不動産を時効取得したときには、税法上、一時所得として所得税の課税対象となります。
一時所得の計算方法は、
時効取得した土地等の財産の価額(時価)−土地等の財産を時効取得するために直接要した金額−特別控除額(最高50万円)= 一時所得の金額(課税対象は、この金額の1/2の金額です。)

次の国税庁のサイトを参照してください。
No.1493 土地等の財産を時効の援用により取得したとき

事例の場合の結論

相続の時効取得で登記する場合、法定相続人当事者の話し合いが成立して、共同申請で行う場合の登記申請の方法は、次のとおりです。

  1. 相続を登記原因として、法定相続人全員の名義に所有権移転登記
  2. 時効取得を登記原因として、他の法定相続人全員から不動産の権利を取得した相続人に対する持分全部移転登記

当事者の話し合いで、時効取得を原因として登記ができるのであれば、この登記をせずに、遺産分割協議による相続登記をした方がよいでしょう。

20年以上住み続け、固定資産税も払ってきました、と事実だけで、裁判により解決しようとする場合、時効取得が認められる確率は、限りなく0に近いでしょう。

そこで、次の方法が考えられます。

現在の法定相続人全員と法定相続分に対する金額の支払いを条件として、遺産分割協議の交渉をします。
この協議が成立しない場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停を申立てます。
遺産分割の調停が成立しない場合は、さらに、家庭裁判所に遺産分割の審判を申し立てます。

相続の場合、成立するかしないか不透明な時効取得により解決するのではなく、「相続」で解決するのがよいでしょう。

法定相続人らが、相続開始後、このような事態に陥らないためにも、今後は、遺言書の作成がますます重要となるでしょう。

法定相続人は、被相続人の権利義務を承継することとなっています。
被相続人が生前しなければならないことをしなかった場合、このしなければならないことは法定相続人が当然、引き継ぎ、しなければなりません。
相続人が、それは自分の責任ではない、と叫んでみても、被相続人の責任を当然、引き継いでいることを知る必要があります。
権利だけ欲しいが、義務はいらない、ということにはなりません。
諦めずにやってみることです。

また、現状において、日本全国で、相続登記のできない不動産が溢れているものと思われます。
この解決は、新たな法律の制定をするしかないでしょう。

逆に、先祖代々の不動産がきちんと引き継がれ、相続登記がなされている場合のように、
被相続人が生前しなければならないことをしてくれた場合、法定相続人は、被相続人や協力してくれた親戚に感謝することを忘れてはなりません。自分たちが複雑、困難なことをしなくてよいのですから。