公正証書遺言書による遺贈登記:必要書類、申請方法、費用
公正証書遺言書で「法定相続人以外の人」に遺言者(被相続人)の遺産を遺贈する場合です。【難易度②】
公証役場で作成する公正証書遺言書には、通常、遺言執行者が指定されています。
「遺贈」の場合は、遺言執行者を指定します。遺言執行者が指定されている方が「遺贈登記」が簡単にできます。遺言執行者が指定されていない場合の方法は、後述します。
遺贈とは、遺言書で遺産を「あげる」ことをいいます。法定相続人以外の人に遺産を「あげたい」場合に「遺贈」という言葉を使います。この場合、登記原因を「遺贈」とします。
遺言書で法定相続人に遺産を承継させたいときは、「相続」という言葉を使います。この場合、遺言書には、「(法定相続人)○○に相続させる。」と記載します。登記原因を「相続」とします。
登記原因が「遺贈」と「相続」とでは、登記申請の方法が異なります。「相続」で登記する場合は、こちら➡相続人に「相続させる。」という内容の遺言書での相続登記の方法を参考にしてください。
ここでは「遺贈」で登記する場合のことを説明します。
相続開始後、公正証書遺言書で速やかに登記できるように、公正証書遺言書を作成する前段階においても注意が必要です。これについては、後述の遺贈の登記を確実にするための事前準備を参考にしてください。
遺贈登記の事例
遺言者(被相続人):A
受遺者(遺贈を受ける人):B(法定相続人ではない)
遺言執行者:B(受遺者と同じ人)
法定相続人:Aの兄弟姉妹
遺言者には、配偶者と子がいない。父母・祖父母も死亡している。
【遺産】
不動産(土地・建物)
土地 評価価格:1,000万円
建物 評価価格:500万円
預貯金:200万円
公正証書遺言書で遺贈する
公正証書遺言書の内容は、次のとおりです。
遺言者は、遺言者の有する全ての財産を、Bに遺贈する。 遺言者は、本遺言の執行者として、前記Bを指定する。
遺言書のこの内容で、遺言者(被相続人)の不動産と預貯金すべてをBが取得します。
公正証書遺言書のメリット
公正証書遺言書があれば、遺贈登記に必要な書類を揃えて、速やかに登記できます。
自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用しない場合の家庭裁判所の遺言書検認手続や、登記所の保管制度を利用する場合の遺言書情報証明書の取得)のような煩わしい手続をする必要がありません。
遺言書を公正証書で作成した方がよい事例を参考にしてください。
遺言者の兄弟姉妹の相続権は
遺言者(被相続人)には、兄弟姉妹がいますが、この遺言により遺言者の遺産を何も取得することができません。
被相続人の兄弟姉妹には、法定相続人としての遺留分(法律上最低限保証される相続分)がありません。遺留分は、法定相続分とは異なり、遺言による相続手続の場合に問題となる持分のことをいいます。
遺言書がなければ、兄弟姉妹は、相続する権利がありますが、遺言書による場合は、遺留分がないので、遺言者の遺産を取得することができなくなります。
次に遺贈登記をするための必要書類を集めます。
遺贈登記の必要書類と印鑑
遺贈登記に必要な書類と印鑑は、次のとおりです。
- 公正証書遺言書(正本または謄本)
- 被相続人Aの除籍謄本と最後の住民票除票(本籍地記載あり)
Aの死亡と最後の住所を証明します。最後の住所が登記上の住所と一致していることが必要です。 - Aの権利証(登記済権利証あるいは登記識別情報通知)
- 評価証明書(固定資産税納税通知書課税明細書または評価証明書)
- 受遺者Bの住民票
- 遺言執行者Bの印鑑証明書
- B(遺言執行者として)の実印
遺贈による登記では、申請人が権利者・義務者として申請(共同申請)し、権利者が受遺者B、遺言執行者Bが登記義務者となります。事例では、受遺者と遺言執行者が同じ人Bなので、簡単に登記できます。
ただし、被相続人A名義の権利証(登記済権利証あるいは登記識別情報通知)が必要となります。
権利証がない場合は、登記所からの事前通知の方法を選択します(無料)。事例では、受遺者と遺言執行者が同じ人Bなので、問題なく「登記所からの事前通知」の方法を選択できます。
登記申請の方法
登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権移転
原 因 〇年〇月〇日遺贈(Aの死亡日)
権 利 者 (住所)○○
(氏名)B○○
義 務 者 (住所)○○
(氏名)亡A
(住所)
遺言執行者(氏名)B○○
添付情報
登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明情報 住所証明情報 評価証明情報
課税価格 金1,500万円(土地建物評価価格の合計)
登録免許税 金30万円(税率は、評価価格の2%)
登録免許税は、登記原因を「相続」で登記する場合、税率が0・4%ですが、遺贈の場合、受遺者Bは、被相続人Aの法定相続人ではないので、税率が2%となります。
遺贈登記の費用
遺贈登記費用
司法書士報酬:約60,000円
登録免許税・証明書:約302,000円
合計:362,000円
遺言執行者が指定されていない場合の方法
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合の方法は、次の二通りの方法です。
法定相続人全員が登記義務者となる
遺言者(被相続人)Aの法定相続人全員(兄弟姉妹)の協力を得る必要があります。
事例では、登記の義務者が兄弟姉妹全員です。
この場合、兄弟姉妹に関する次の書類と印鑑が必要となります。
- 被相続人Aの除籍謄本と最後の住民票除票(本籍地記載あり)
- Aの出生から死亡までの除籍謄本(配偶者と子がいないことを証明)
- Aの両親の出生から死亡までの除籍謄本(Aの両親の死亡と兄弟姉妹全員が誰なのかを証明)
- Aの祖父母の除籍謄本(祖父母の死亡を証明)
- Aの権利証(登記済権利証あるいは登記識別情報通知)
- 兄弟姉妹全員の印鑑証明書
- 兄弟姉妹全員の実印
兄弟姉妹全員を登記義務者とするには、前述のとおり、必要書類が多くなり、集めるための時間を要します。かつ、兄弟姉妹全員の協力を得ることは非常に難しいと考えるのが普通です。
そこで、次の方法を選択します。
遺言執行者選任の申立てをする
家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをします。
この遺言者執行者が登記義務者となって、権利者の受遺者と一緒に申請します。
この方が簡単です。
この場合、法定相続人以外の人に「遺贈する。」という内容の遺言書での相続登記の方法を参考にしてください。
遺贈の登記を確実にするための事前準備
遺贈の登記を確実に実行するためには、遺贈する不動産(土地・建物)について、公正証書遺言書を作成する前に、事前調査をします。実際に遺贈の登記をする際に、土地・建物が不完全な登記の状態であれば、公正証書遺言書を作成する前に、相続開始後、土地・建物を速やかに遺贈登記ができるように完全な状態にしておく必要があります。
相続登記のための遺言書作成【事前準備・事例】を参考にしてください。
(事例の遺贈登記は、2022年横浜地方法務局神奈川出張所で登記完了。)