相続手続(名義変更・預貯金・相続税申告)の順番(パターン別)

相続手続(名義変更・預貯金・相続税申告)の順番(パターン別)

相続登記と預貯金の相続

名義人が亡くなって相続が開始したとき、相続手続は何から行ったらよいでしょうか。その順番です。

相続手続では、多くの方の場合、次の手続などがあります。
① 不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記)
② 預貯金の相続手続(解約払戻し請求)
③ 生命保険金請求
④ 株式(株式の名義変更と株式の売却)
⑤ 車の名義変更
⑥ 相続税申告

これらの相続手続の順番を考える時、何から始めたらよいかの必要性を、まずは検討します。
闇雲(やみくも)に、しなければならない手続から手を付けてしまいますと、後で、こうすればよかった、ということにもなりかねません。
そこで、相続手続の「必要性」を考えながら、上記①から⑥についての順番を検討します。

実際の相続手続を行う前段階として、相続人が誰であるのか、それぞれの相続分がいくつなのか、遺言書があるのか遺産分割協議で遺産の分配を行うのか、あるいは、法定相続分で相続手続を行うのかを、まずは、確認・決定していただきます。
相続登記と預貯金相続手続の費用(報酬)は、いくらが適正価格なのか?を参考にしてください。
依頼者に解約払戻金を振り込む方法も参考にしてください。
預貯金(預金・貯金)の相続手続の方法(主な金融機関ごと)
預貯金(預金・貯金)の相続手続に必要な書類

パターンA:相続税申告が不要な場合

上記①から⑥の相続手続を行うに当たり、多くの方(約90%)は、相続税の申告をする必要がありません。相続税の申告が必要かどうかは、相続税の主な内容でご確認ください。
すなわち、遺産の総額が、「遺産に係る基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を下回れば、相続税の申告(納税)をする必要がありません。
この場合は、上記、⑥相続税の申告を除く、①から⑤の相続手続を行うことになります。

パターンA(1):お金を先に必要とする場合

相続人の間で、まずは、お金を分配したい場合は、次の順番で相続手続を行うとよいでしょう。
③ 生命保険金請求
② 預貯金の相続手続(解約払戻し請求)
④ 株式(株式の名義変更と株式の売却)
① 不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記)
⑤ 車の名義変更

次に、これらの相続手続について説明します。

③ 生命保険金請求
 生命保険の「保険証券」で、生命保険金の受取人が誰であるのか、特定されている(具体的な氏名が記載されている)場合は、相続人の間で保険金の受取人を誰にするのかを話し合う必要がなく、保険証券に記載されている「受取人」が単独で生命保険会社から保険金を受け取ることができます。
 「保険証券」で、生命保険金の受取人が誰であるのか、特定されていない(具体的な氏名が記載されていない(空欄)、または、「相続人」と記載されている)場合は、相続人の間で保険金の受取人を誰にするのかを話し合う必要があります。この場合は、ほかの相続手続と同じ書類を準備する必要がありますので、多少時間がかかることになります。

② 預貯金の相続手続(解約払戻し請求)
 預貯金の相続手続は、基本的に、被相続人名義の預貯金口座を解約して払戻す手続となります。預貯金の口座がいくつもある場合は、順番に手続を行います。預貯金の相続手続は、金融機関の窓口で行う場合と、すべて郵送で行う場合があります。金融機関によって手続の仕方が異なりますので、面倒だと思われることもあるでしょう。
 まずは、相続手続の受付を窓口で行っている金融機関から先に行うのがよいでしょう。なぜなら、窓口で受付ける金融機関では、被相続人の除籍謄本や相続人の戸籍謄本、遺言書、遺産分割協議書、印鑑証明書など相続書類一式をコピーして、その場で原本を返却してくれるからです。原本を返却してくれますので、次に(その足で・数日後)窓口で受付ける金融機関でさらに手続を行うことができます。
 その次に、すべて郵送で行う金融機関(例えば、ネット銀行)の手続を行うのがよいでしょう。先ほどの相続書類の原本を金融機関に郵送する必要があるからです。
 いずれにしましても、必要書類を金融機関に提出してから手続の完了まで、金融機関によって異なりますが、1金融機関当たり約2週間から1か月かかります。
預貯金の相続手続の方法預貯金の相続手続は実際誰がしますかを参考にしてください。

④ 株式(株式の名義変更と株式の売却)
 株式を現金に換えるには、まず、株式の名義変更が必要です。これが完了しましたら、株式を売却して現金に換えます。このように株式の相続手続では2回の手続を必要としますので、手続開始から完了まで約1か月はかかります。

① 不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記):手続先は法務局(登記所)
 一通り、上記の手続が完了しましたら、不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記)を行います。この相続登記でも、前述の相続書類一式が必要となります。相続登記は、申請してから完了まで約2週間かかります。この手続を依頼する場合は、登記の専門家の司法書士に依頼します。
相続登記の手順を参考にしてください。

⑤ 車の名義変更:手続先は陸運局
 車の相続手続(名義変更)では、車の価格をディーラーに査定してもらって、その車の査定価格が100万円以下であれば、簡易な方法で名義変更ができますので、100万円もしない車は、この簡易な方法を選択した方がよいでしょう。100万円を超える場合は、通常の相続書類一式が必要となります。この手続を依頼する場合は、車の登録手続の専門家の行政書士に依頼します。

このように、相続手続がいくつもある場合、相続書類一式をその手続ごとに全部提出することになる場合は大変ですので、これらの手続を行う前に、法務局(登記所)で法定相続情報証明(法定相続情報一覧図の写しの証明書)をまずは取得した方がよいでしょう。この場合、被相続人の除籍謄本や相続人の戸籍謄本すべて、それぞれの手続で提出する必要がありません。法定相続情報証明を1枚提出すればよいことになります。そうすれば、預貯金の窓口での手続も、担当者が何枚もコピーする必要がなく、待ち時間の短縮につながります。

相続登記と法定相続情報証明を同時に行うことを登記の専門家の司法書士に依頼する場合、法定相続情報証明のみを単独で取得する依頼をするよりも費用は安くなると思われます。(少なくとも当司法書士事務所では、2万円(税抜き)安くなります。行政書士などほかの士業の場合、この証明書を単独で取得することになりますので、費用は高くなります。なぜなら、行政書士などほかの士業は、業務上相続登記を申請できないからです。)

パターンA(2):お金を先に必要としない場合

相続人の間で、お金を先に必要としない場合は、次の順番で相続手続を行うとよいでしょう。
① 不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記)
② 預貯金の相続手続(解約払戻し請求)
③ 生命保険金請求
④ 株式(株式の名義変更と株式の売却)
⑤ 車の名義変更

これらの相続手続の詳細は、前述しました内容を参考にしてください。
①の不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記)を先にする理由は、次のとおりです。
この相続登記では、ほかの相続手続と同様に、手続先の法務局(登記所)に被相続人の除籍謄本や相続人の戸籍謄本、遺言書、遺産分割協議書、印鑑証明書など相続書類一式を提出します。
法務局では、これらの相続書類一式を審査します。問題がなければ登記が完了します。そうすれば、用意した相続書類一式が問題ないことを確認することができますので、ほかの相続手続では安心して行うことができます。
また、前述のように、相続手続がいくつもある場合、相続書類一式をその手続ごとに全部提出することになる場合は大変ですので、これらの手続を行う前に、法務局(登記所)で法定相続情報証明(法定相続情報一覧図の写しの証明書)をまずは取得した方がよいでしょう。そうすれば、被相続人の除籍謄本や相続人の戸籍謄本すべて、それぞれの手続で提出する必要がありません。
この法定相続情報証明(法定相続情報一覧図の写しの証明書)の取得を、相続登記と同時に行なえば、法定相続情報証明を単独で取得するよりも時間の短縮になります。法定相続情報証明を単独で取得しようとする場合、法務局の審査と証明書の発行で約1週間はかかります。

パターンB:相続税申告が必要な場合

遺産の総額が「遺産に係る基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を上回る場合、基本的に相続税の申告をする必要があります。(ただし、遺産総額から差引くことのできるものがあります。詳しくは、相続税の主な内容でご確認ください。)
この場合、相続税の申告は必要ですが、納税も必要な場合と、納税が不要な場合がありますので、分けて相続手続の順番を考えてみます。

パターンB(1):相続税の申告と納税が必要な場合

相続税の申告と納税が必要な場合、ご自分でこの手続を行うことができる場合はご自分で、できない場合は税理士にこの手続を依頼することになります。
相続税の申告・納税は、相続開始から10か月以内という期限がありますので、この期限を目標にして行うことになります。また、被相続人が自営業者などの場合は、準確定申告(期限:4か月以内)をする必要があります。
また、相続税の申告・納税が必要な場合、相続の仕方(誰が何を相続するのか)によって、相続税が変わってきますので、これを厳密に計算する必要があります。税理士に相談することをお勧めします。
相続税の申告・納税が必要な場合、最終的に税務署に遺産分割協議書など相続書類一式を提出することになりますので、遺産分割協議書を作成する必要がある場合は、税理士に作成してもらうことをお勧めします。(もっとも、当司法書士事務所でも税務署に提出する遺産分割協議書(不動産を含む)の作成を行っております。)

そこで、相続税の申告・納税期限の10か月まで余裕がある場合、次の順番で相続手続を行い、最後に相続税の申告・納税をするとよいでしょう。ただし、この場合であっても、それそれの手続でどのくらいの期間がかかるのかを確認しておいた方がよいでしょう。手続の数が多くなればなるほど時間がかかることになります。相続税の申告・納税期限が迫っている場合は、先に相続税の申告・納税をします。

相続税の納税が必要な場合、相続人の手持ちで納めることができない場合は、預貯金・生命保険金など納税額を先に準備することも必要です。

手続完了までの期間は、次のとおりです。
① 不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記):約2週間
  法定相続情報証明(法定相続情報一覧図の写しの証明書)の取得を同時に行う。

相続登記と法定相続情報証明を同時に行うことを登記の専門家の司法書士に依頼する場合、法定相続情報証明のみを単独で取得する依頼をするよりも費用は安くなると思われます。(少なくとも当司法書士事務所では、2万円(税抜き)安くなります。行政書士などほかの士業の場合、この証明書を単独で取得することになりますので、費用は高くなります。なぜなら、行政書士などほかの士業は、業務上相続登記を申請できないからです。)

② 預貯金の相続手続(解約払戻し請求):約2週間から1か月
③ 生命保険金請求:約2週間から1か月
④ 株式(株式の名義変更と株式の売却):約1か月
⑤ 車の名義変更:約2週間
⑥ 相続税申告

パターンB(2):相続税の申告は必要だが、納税が不要または少額の場合

前述しましたとおり、遺産の総額が「遺産に係る基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を上回る場合、基本的に相続税の申告をする必要があります。(ただし、遺産総額から差引くことのできるものがあります。詳しくは、相続税の主な内容でご確認ください。)

相続税の申告のみの場合であっても、申告期限は相続開始から10か月以内です。
相続税申告の対象となるであろう相続人には、税務署から相続税についての文書が郵送されますので、無視することなく、対応するようにします。
例えば、遺産総額と遺産に係る基礎控除額が同じくらいの場合であって、税務署から文書が郵送された場合、相続税の申告が必要ないことを説明する必要があります。税務署に出向いて説明するか文書で回答するようにします。

また、 遺産総額が遺産に係る基礎控除額を超える場合、配偶者の税額控除や小規模宅地の特例を適用して、結果として納税が不要な場合であっても、相続税の申告は必要です。
この場合は、相続税申告書の作成が必要となりますので、これをご自分でできない場合は、税理士に作成を依頼することになります。(税理士に報酬を数十万円支払うことになります。)

相続手続の順番は、相続税の申告のみの場合も、基本的には前述の申告・納税が必要な場合と同じです。
① 不動産(土地・建物・マンション)の名義変更(相続登記):約2週間
② 預貯金の相続手続(解約払戻し請求):約2週間から1か月
③ 生命保険金請求:約2週間から1か月
④ 株式(株式の名義変更と株式の売却):約1か月
⑤ 車の名義変更:約2週間
⑥ 相続税申告

最後に、印鑑証明書は、基本的に本人しか取得することができませんので、もし、遺産分割協議書を作成し、印鑑証明書が何通か必要なときは、あらかじめ合計何通必要なのかを確認して、ほかの相続人に用意してもらうようにしたほうがよいでしょう。
そうしないと、印鑑証明書が必要となるたびに、また印鑑証明書が必要だから用意して、と言うと、ほかの相続人が疑心暗鬼になります。書類に実印をもらうのも一度に終わらせるようにした方がよいでしょう。

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