疎遠な・面識のない・知らない相続人への相続登記等(不動産名義変更・預貯金相続手続)の協力要請方法と協力要請文書(手紙文例)
ここでは、遺産相続手続(不動産相続登記・預貯金相続手続など)を行う上で、相続人の中に、疎遠な・面識のない・知らない相続人への協力要請方法と協力要請文書(手紙文)について解説します。
相続登記など遺産相続手続では、遺言書があれば、遺言書で相続手続を行うことができますが、遺言書がない場合は、相続人全員で相続手続を行う必要があります。
遺産分割協議の方法で相続手続を行うには、相続人全員の同意が必要
遺言書がない場合、遺産分割協議での相続手続は、相続人全員の同意が必要です。
この場合(相続人全員で相続手続を行う場合)、相続人全員での遺産分割協議の方法で相続手続を行う場合は、相続人全員の①戸籍謄本・②印鑑証明書・③遺産分割協議書に署名・実印の押印が必要となります。
この遺産分割協議書に署名・実印の押印が必要な相続人の中に「疎遠な・面識のない・知らない相続人」がいる場合も、この相続人に遺産分割協議書への協力をしてもらう必要があります。
なぜなら、遺産分割協議書に相続人全員の「署名・実印の押印」(実際には、印鑑証明書も必要)がなければ、遺産分割協議が成立しないからです。
相続人全員の合意が得られずに、遺産分割協議が成立しない場合
相続人全員の合意が得られずに、遺産分割協議が成立しないことで、相続登記をはじめ相続手続ができない場合、不動産の名義変更もできず、預貯金の解約払戻しもできないことになります。
また、相続税がかかる可能性が高い場合、相続税の申告・納税(期限が10か月)も遅滞することにもなります。
どうしても、相続人全員の合意が得られずに、遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、家庭裁判所で遺産分割の話し合いをすることになります。遺産分割調停が不成立の場合は、裁判官の審判で解決することになります。
このように考えますと、家庭裁判所での遺産分割は、解決までに時間を要することになりますので、分割方法について、総合的に判断するのがよいでしょう。
特に、疎遠な・面識のない・知らない相続人との遺産分割協議を、早期に、スムーズに成立させるためには、基本的には、疎遠な・面識のない・知らない相続人の法定相続分に見合うものを相続させる方向で検討するのがよいでしょう。
「法定相続分に見合うもの」とは、基本的には、金銭で、ということになります。
ただし、「法定相続分に見合うもの」とは言っても、被相続人の債務があれば、これも当然、考慮する必要がありますし、お墓の管理や支出する必要があるものなど総合的に判断して「法定相続分に見合うもの」の額を検討します。
特に、疎遠な・面識のない・知らない相続人とは
特に、疎遠な・面識のない・知らない相続人は、次の人が考えられます。
- 被相続人の兄弟姉妹
兄弟姉妹が死亡している場合は、その甥姪(代襲相続人)
数次相続の場合は、さらに甥姪の相続人 - 被相続人の前配偶者の子
- 被相続人が認知していた子
「誰が相続人となるのか」については、法定相続人を参考にしてください。
遺産相続手続をする手順
疎遠な・面識のない・知らない相続人に対して、相続手続に協力を要請する前に、次の手順を踏んでから協力要請をします。
法定相続人すべてを確定する
まず、法定相続人を確定(誰が相続人となるのか)することから始めます。
このため、「相続手続をしようとする相続人」が、自分で相続人を調査するか、司法書士など専門家に調査を依頼します。この調査は、次の方法で戸籍調査を行います。相続人であれば、相続手続に必要だという法律上の正当理由があるので可能です。
- 被相続人の出生から死亡までの除籍証明書(除籍謄本・改製原戸籍謄本)
- 被相続人の「戸籍の附票」除票
- 法定相続人の戸籍謄本・戸籍の附票
面識のない・知らない相続人については、被相続人の除籍証明書を取得することで、これらの相続人を知ることになります。これと同時に、「戸籍の附票」を取得することによって、疎遠な・面識のない・知らない相続人の「住所」も知ることができます。
相続手続に協力してもらう必要がある相続人が全部で「この人、この人」であることを「疎遠な・面識のない・知らない相続人」にも説明する必要があるからです。
法定相続人すべてが確定しましたら、「相続関係説明図」のようなものを作成します。相続関係説明図の記載のうち、個人情報に関係する「住所」「生年月日」を省いて、「氏名」のみの「相続関係図」を作成します。
遺産すべてを確定する
次に、遺産すべてを調査して、遺産すべてを確定します。
遺産すべてが確定(遺産が全部で何があるのか)させて、疎遠な・面識のない・知らない相続人を含めて相続人全員に説明する必要があるからです。
遺産すべてが確定しましたら、「遺産目録」を作成します。
疎遠な・面識のない・知らない相続人の連絡方法と協力要請文書(手紙文例)
被相続人の葬儀をする際に、疎遠な・面識のない・知らない相続人の連絡先(氏名・住所・電話番号)が分かっている場合は、ほとんどないかもしれませんが、仮に、疎遠な・面識のない・知らない相続人の連絡先(氏名・住所・電話番号)が分かっている場合は、「被相続人の死亡日、死亡原因、葬儀の日時・場所など」の内容を、これらの相続人に連絡します。
後々、相続手続の遺産分割協議に協力してもらうことになりますので、ここは、感情的にならずに事務的に事を進めます。
遺産分割協議(遺産分割の話し合い)の時期
知っている相続人も含めての遺産分割協議(遺産分割の話し合い)の時期は、通常、四十九日の法要が過ぎた頃にします。
この時点では、未だ、前述の「相続人の確定」と「遺産すべての確定」が終わっていないと思われますので、これらが確定しましたら、遺産分割協議を行うようにします。
「相続人の確定」と「遺産すべての確定」後
相続人と遺産すべてが確定しましたら、遺産をどのように分けるのか(遺産分割)を検討します。遺産の分け方は、被相続人と相続人との関係、遺産の種類(不動産・預貯金など)、遺産総額などによって異なります。
遺産の総額によっては、疎遠な・面識のない・知らない相続人が、その内容を知ることで驚いてしまう場合もありますので、最初の通知段階で遺産目録を提供するかどうかはケースバイケースで、総合的に判断するようにします。
遺産分割協議をしようとする際に、疎遠な・面識のない・知らない相続人がいる場合の通知方法と協力要請文書(手紙文例)
第一段階の通知方法・通知文書(手紙文)
特に、面識のない・知らない相続人は、氏名も住所も電話番号も知らないのが普通で、前述の戸籍調査をして初めて知ることになりますので、お互いに初対面の関係です。初対面の関係ですので、最初の通知は、簡単な内容の文書(手紙文)で行うようにします。基本的には、遺産分割の話し合いをしたいという内容です。
文書(手紙文)の内容は、次の事項を記載します。
- 被相続人と文書(手紙文)を出す自分(相続人)との関係
- 被相続人の死亡日
- 相続人が全部で誰と誰:前述の相続関係図で説明します。
- 遺産目録
遺産の種類や総額が少ない場合は、遺産目録を提供してよいでしょう。
前述のように、遺産の総額によっては、疎遠な・面識のない・知らない相続人が、その内容を知ることで驚いてしまう場合もありますので、最初の通知段階で遺産目録を提供するかどうかはケースバイケースで、総合的に判断するようにします。
この時点で、遺産目録を提供しない場合は、「遺産目録は、確定次第、郵送いたします。」と記載します。
第一段階:疎遠な・面識のない・知らない相続人への通知文書(手紙文例)
(故)○○ ○○の相続手続きについて、ご協力のお願い ○○ ○○ 様 前略 突然のご連絡をすることとなりまして、大変失礼いたします。 私の父○○○○は、令和○年○月○日、永眠いたしました。 この度、父の相続手続を行うにあたり、私が相続人の一人として、必要な戸籍関係書類を取得しておりましたが、○○○○様も相続人であることが判明いたしました。 ○○○○様のご住所は、「戸籍の附票」を取得することにより知ることができました。 相続手続を行うためには、別紙「相続関係図」に記載のとおり、相続人全員の合意が必要なため、○○○○様のご協力をいただきたく、ご連絡を差し上げた次第でございます。 相続手続において、ご協力いただけるときは、○○○○様には、ほかの相続人の皆様と同様に、印鑑証明書と遺産分割協議書に署名・実印を押印いただくこととなります。 父の遺産については、別紙「遺産目録」に記載のとおりです。 (遺産目録を後日郵送する場合:父の遺産については、現在調査中ですので、確定しましたら、追って遺産目録を郵送いたします。) 遺産分割協議の内容は、○○○○様のご意向を伺ったうえで、ほかの相続人全員も含めて納得できる内容で、遺産分割協議を進めて参りたいと存じます。 つきましては、遺産分割協議の内容についてご説明し、ま