- 相続登記(不動産名義変更)をスムーズ(比較的簡単)に行うための「台湾籍の方の公正証書遺言書作成」
相続登記(不動産名義変更)をスムーズ(比較的簡単)に行うための「台湾籍の方の公正証書遺言書作成」
公正証書遺言書(公証人役場で作成したもの)があれば
日本在住の台湾籍の方(被相続人・相続人)が日本の不動産の相続登記(不動産名義変更)を行う場合、台湾の戸籍証明書(被相続人・相続人のもの)がない場合が多くあります。この場合、相続登記では、必要書類を揃えるのに困難を極めます。そこで、日本の公証人役場で公正証書遺言書を作成しておけば、相続登記をスムーズ(比較的簡単)に行うことができます。
台湾籍の方(被相続人・相続人)の場合、日本に帰化して日本国籍を取得した方がいる場合や帰化していない場合がありますので、台湾籍の方の場合、ケースバイケースで「これとこれの書類」があれば、相続登記ができるとは一概に言えませんので、実情に応じで必要書類を揃えることになります。
日本在住の台湾籍の方(被相続人・相続人)が台湾の戸籍証明書がないことによって、相続登記が困難を極める事例は、次でご確認ください。
相続登記と相続人が外国人(台湾の方)
被相続人が台湾の方の相続登記(戸籍証明書がない場合)
【相続登記の難易度(難しい)の目安】相続登記を自分ですることは可能でしょうか。 を参考にしてください。
台湾籍の方の法定相続人
台湾籍の方が日本の不動産や預貯金の相続手続を行う場合の「法定相続人が誰がなるのか」は、基本的に日本人と同じです。ただし、第4順位の相続人は、祖父母です。
被相続人・相続人が台湾籍の場合に「基本的に必要な書類」
台湾にも日本と同様に「戸籍制度」があります。このため、日本の不動産の相続登記(名義変更)を行う場合、日本人が登記所に提出する場合と同様の書類が必要となります。相続登記に必要な基本的な書類は、こちら(相続登記の必要書類)でご確認ください。日本にある預貯金などの相続手続でも同様の書類が必要となります。
台湾籍の方の相続登記に基本的に必要な書類:法定相続分または遺産分割協議による相続登記で「共通な戸籍関係書類」
ここでは、被相続人と相続人が台湾籍の方の場合、法定相続分での登記と遺産分割協議による登記とで共通な「戸籍関係書類」について説明します。その他の書類については省きます。その他の書類については相続登記に必要な書類でご確認ください。
被相続人(台湾籍)
被相続人台湾籍の方の「台湾の役所」が発行した「出生時から死亡時までの戸籍関係書類」(日本語に翻訳します。)基本的に三段階の認証が必要です。
被相続人が死亡前に日本に帰化していた場合(日本国籍を取得)は、日本の役所で「戸籍謄本」を取得します。
必要な理由:法定相続人が誰と誰かを証明するため、戸籍関係書類を被相続人の出生時から死亡時まで連続したものが必要となります。
法定相続人全員(台湾籍)
法定相続人台湾籍の方の「台湾の役所」が発行した「戸籍証明書」(日本語に翻訳します。)基本的に三段階の認証が必要です。
相続人が日本に帰化している場合(日本国籍を取得)は、日本の役所で「戸籍謄本」を取得します。
必要な理由:被相続人の相続人であることを証明します。
被相続人と相続人が台湾籍の方の場合、必要書類を揃えることが難しい(面倒な)理由
被相続人・相続人が揃える書類として、法定相続分または遺産分割協議による相続登記で「共通な戸籍関係書類」を揃えることは、日本人の場合と比較して、次の理由により難しい(面倒)と言えます。
- 戸籍関係書類を台湾から取寄せることになります。
この取寄せ方法は、相続人ご本人が台湾の役所に出向いて取得するか、台湾の親戚の人に代理で取得してもらうか、台湾の地政士(日本でいうところの司法書士)に代理で取得してもらうかの方法となります。
日本における司法書士事務所などに代理で戸籍関係書類を取得してもらう場合、戸籍関係書類の取得だけで数十万円はかかると思われます。このため、台湾に親戚がいれば、この親戚の方に戸籍関係書類を取得してもらう方がよいでしょう。
代理で戸籍関係書類を取得してもらうには、日本にある(相続人の住所地の)「台北駐日経済文化代表処」であらかじめ委任状の認証をしてもらう必要があります。 - 台湾の役所で戸籍関係書類を取得して、さらに基本的には三段階の認証を得る必要があります。
- 取得した戸籍関係書類を日本語に翻訳する必要があります。
被相続人・相続人の戸籍関係書類の相続登記に必要な書類を一部または全部取得できない場合
上記のように、被相続人・相続人の台湾の戸籍関係書類を取得することが難しい(面倒)とは言っても、必要な書類を全部取得できれば、問題ありません。
ところが、被相続人・相続人の戸籍関係書類の一部または全部を取得できない場合があります。
被相続人・相続人の戸籍関係書類の一部または全部を取得できない場合とは、台湾籍の方が日本で出生したのか台湾で出生したのかの事情によって異なります。したがって、台湾籍の方がその違いによって台湾で戸籍関係書類を取得できる場合とできない場合があることになります。
- 被相続人が台湾で出生しているとき
戸籍関係書類を取得できるでしょう。日本で死亡した場合、台湾の役所に死亡届を提出することによって、死亡した旨が戸籍に記載されます。日本と同じです。 - 相続人が台湾で出生しているとき
戸籍関係書類を取得できるでしょう。 - 被相続人が台湾で出生しないで、日本で出生した場合
日本の役所には出生届(住民票に記載される。)をしていますが、台湾の役所に出生届(戸籍の届け)をしていない場合、台湾での戸籍が作成されません。したがって、台湾の戸籍関係書類を取得できないことになります。
これは、被相続人の相続人である子の場合も同じです。
日本在住の台湾籍の方が二世・三世・四世の場合、日本で出生している場合がほとんどです。
この場合、日本の役所には出生届をしても(住民票に記載される。)、台湾の役所に出生届(戸籍の届け)をしない方が多いようです。台湾の役所に出生届(戸籍の届け)をしなかった理由を聞いてみますと、台湾の役所に出生届(戸籍の届け)をしなければいけないと思わなかった、とのことです。
そうしますと、この場合、ある意味、無国籍と同じ(ご本人は台湾籍という認識があっても国籍を証明書する書類がないので無国籍の取り扱いとなる。)となりパスポートを取得できず、海外に行くこと、台湾に行くこともできないということになります。
実際、戸籍証明書のない「被相続人・相続人」は海外に一度も行ったことがないとのことです。
こういう事情もあり、二世・三世・四世の方が日本に帰化して日本国籍を取得することもあります。
被相続人・相続人の戸籍関係書類の相続登記に必要な書類を一部または全部取得できない場合に補完する書類
上記のように、被相続人と相続人の台湾の役所の戸籍関係書類を取得できない場合、次のような書類を取得または用意する必要があります。これは、法定相続分による登記と遺産分割協議による登記では、被相続人の法定相続人が誰と誰であるかを確定・証明しなければならないからです。
次のような書類は、被相続人と相続人の事情により異なりますので、必要がない場合もあれば必要な場合(用意した方がよい場合)もあります。その事情により用意してください。できれば、こういう書類が多ければ多いほど、法定相続人が誰と誰であるかを証明する度合いが高くなると言えます。
- 被相続人の「外国人登録原票写しの証明書(出入国在留管理庁)」(平成30年東京法務局城南出張所で完了)家族構成などが記載されています。
- 相続人の「外国人登録原票写しの証明書(出入国在留管理庁)」(平成30年東京法務局城南出張所で完了)家族構成などが記載されています。
- 台北駐日経済文化代表処発行の「相続関係の説明図」(平成30年東京法務局城南出張所で完了)
- 横浜華僑総会発行の「家族証明」(平成18年横浜地方法務局平塚出張所で完了)
- 相続人の「出生届」及び「出生証明書」(証明文付き)(平成18年横浜地方法務局平塚出張所で完了)父母の氏名が記載されている。
- 被相続人から相続人への手紙文(平成30年東京法務局城南出張所で完了)
- 被相続人の出生時の台湾の出先機関発行の「登録証」(平成30年東京法務局城南出張所で完了)
- 上申書(主に司法書士が作成)
戸籍関係書類を取得できない理由、相続人が誰と誰であることなど、通常の上申書よりも詳細に記載します。
台湾籍の方が日本の公証人役場で「公正証書遺言書」を作成することによりスムーズ(比較的簡単)に相続登記ができます。
上記のように、台湾籍の方の場合、被相続人と相続人の戸籍関係書類の一部または全部がない場合、これらが全部ある場合と比較して、100%相続人が誰と誰であるかを証明することができません。
そこで、台湾籍の方は、生前、日本の公証人役場で公正証書遺言書を作成しておけば、スムーズ(比較的に簡単)に相続登記ができます。これは、戸籍関係書類が全部取得できるであろうと思われる場合も同じです。
公正証書遺言書がある場合の相続登記に必要な書類:親子が台湾籍の方
ここでは、被相続人(親)と相続人(子)が台湾籍の方の場合、公正証書遺言書による登記で必要な「戸籍関係書類」について説明します。その他の書類については省きます。その他の書類については相続登記に必要な書類でご確認ください。
親子が台湾籍の被相続人と相続人の戸籍関係書類が全部取得できる場合
- 公正証書遺言書
- 台湾籍の方の被相続人と相続人が親子であることを証明するもの
被相続人親の戸籍証明書(台湾で取得)、相続人子の戸籍証明書(台湾で取得)
公正証書遺言書では「遺言者の親が子に〇〇を相続させる。」と記載します。そうしますと、被相続人と相続人の親子関係を証明するだけでよいことになります。このため、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍関係書類全部を用意しなくてよいことになります。被相続人の子が誰と誰であるかまでを証明する必要がありません。これは、日本人の場合も同じです。
公正証書遺言書があれば、台湾の役所で戸籍証明書を取得する場合であっても、それほど面倒なことが少なくて済みます。
親子が台湾籍の被相続人と相続人の戸籍関係書類の一部または全部を取得できない場合
- 公正証書遺言書
- 台湾籍の方の被相続人と相続人が親子であることを証明するもの
〇 台湾に被相続人親の戸籍証明書または相続人子の戸籍証明書があればこれを
〇 台湾籍の方の戸籍証明書が全部ない場合:上記、全部取得できない場合に補完する書類のうち、
次のいずれかで台湾籍の方の親子関係を証明します。
(1)被相続人の「外国人登録原票写しの証明書(出入国在留管理庁)」
(2)相続人の「外国人登録原票写しの証明書(出入国在留管理庁)」
(3)台北駐日経済文化代表処発行の「相続関係の説明図」
(4)華僑総会発行の「家族証明」
(5)相続人の「出生届」及び「出生証明書」(証明文付き) - 上申書(主に司法書士が作成)
台湾籍の方が戸籍関係書類を取得できない理由などを記載します。
親子の台湾籍の方が日本の公証人役場で「公正証書遺言書」を作成する方法と費用
台湾籍の方が、日本の法律に基づいて遺言書を作成することは有効か?
台湾籍の方が遺言書を作成するとき、台湾において台湾の法律に基づいて遺言書を作成するのが基本です。
しかし、次の台湾の法律(渉外民事法律適用法)により、台湾籍の方が、日本において日本の法律に基づいて遺言書を作成することは有効となります。
中華民国(台湾)渉外民事法律適用法:2011年改正、2012年施行
涉外民事法律適用法-全國法規資料庫 (moj.gov.tw)
第 60 條
1 遺囑之成立及效力,依成立時遺囑人之本國法。
2 遺囑之撤回,依撤回時遺囑人之本國法。
第 61 條
遺囑及其撤回之方式,除依前條所定應適用之法律外,亦得依下列任一法律為之:
一、遺囑之訂立地法。
二、遺囑人死亡時之住所地法。
三、遺囑有關不動產者,該不動產之所在地法。
上記条文の翻訳文は、次のとおりです。
第60条 1 遺言書の成立及び効力は、遺言者の本国の法律による。 2 遺言の取消しは、取消しの時点での遺言者の母国の法律によるものとします。 第61条 遺言及びその撤回の方法は、前条に規定する適用法のほか、次のいずれかの法律による。 一 遺言書が作られる場所の法律。 二 死亡時の遺言者の住所地の法律。 三 遺言書に不動産がある場合、不動産の所在地の法律。
日本の法律に基づいて遺言書を作成した場合であっても、台湾の法律が適用される
日本の法律に基づいて遺言書を作成した場合であっても、台湾の法律が適用される場合の一例は、次のとおりです。
台湾の民法にも、遺留分についての規定があり、法定相続人となる人には、兄弟姉妹を含めて「遺留分(相続人に最低保証される相続分)」があります。
1 直系血族(子・孫):2分の1
2 父母:2分の1
3 配偶者:2分の1
4 兄弟姉妹:3分の1
5 祖父母:3分の1
台湾においても、相続人が遺留分を侵害されたときは、遺留分減殺請求権を行使することができます。
台湾においても、遺留分減殺請求権を行使するかしないかは、遺留分を侵害された相続人の自由です。
したがいまして、遺言書を作成することで、相続人となる人の遺留分を、相続開始時に、侵害することになったとしても、遺言の内容は有効で、無効になることはありません。
このことは、日本の民法でも、同様に、遺言の内容は、有効で無効になることはありません。日本の場合は、遺留分侵害額請求権を行使することになります。
そこで、日本の法律に基づいて遺言書を作成することは有効ですが、将来、相続開始時に、ほかの相続人が遺留分減殺請求をする可能性がある場合は、この点をご理解、ご了解いただければ、遺言書を作成することができます。
公正証書で遺言書作成
台湾籍の方が日本の公証人役場で「公正証書遺言書」を作成する場合の基本は、日本人が公証人役場で公正証書遺言書を作成する場合と同じです。公正証書で遺言書作成を参考にしてください。
公証人役場に持参する書類と印鑑
- 遺言者:台湾籍の親の身分証明書(写真付き)として在留カードと認印(または、印鑑証明書(3か月以内のもの)と実印)
- 台湾籍の親子の関係を証明するもの
台湾の戸籍証明書(日本語の翻訳文を付ける)がない場合、上記「親子が台湾籍の被相続人と相続人の戸籍関係書類の一部または全部を取得できない場合」の書類のいずれか
子の住民票(日本に在住の場合)もあった方がよいでしょう。 - 遺産に不動産が含まれる場合は
- 不動産の登記事項証明書
- 権利証
- 不動産の評価額が分かる固定資産評価証明書または納税通知
- 銀行などに預金のある場合は
預金通帳の写しと現在の残高 - 証券会社等に株・有価証券がある場合は
株式・有価証券の内容がわかる証券 - 遺言内容を記載したメモ
- 祭祀承継者(仏壇・仏具や墓を誰に継いでもらうか)を決める場合は、そのメモ
遺言に定めない場合は慣習に従うことになります。 - 遺言執行者(遺産について遺言書どおりに名義変更の手続をする人)を決める場合
遺言執行者の住民票 - 立ち会う証人(推定相続人、受遺者、その配偶者・子供等以外)決めている場合
立ち会う証人2名の身分証明書(写真付き)と認印(または、印鑑証明書と実印)
適当な証人候補者がいない場合は、公証人役場にご相談ください
公証人役場に支払う手数料
公証人役場に支払う手数料の詳細は、公証人に支払う手数料は?を参考にしてください。
公証人役場に支払う手数料は、遺産の総額や相続の仕方、遺言内容により異なります。
遺産の総額が5,000万円ほどであれば約5万円です。(多少前後します。)
まとめ:台湾籍の方が日本の公証人役場で公正証書遺言書を作成した方がよい理由
上記に説明しましたように、被相続人と相続人が台湾籍の方の場合、相続登記(不動産名義変更)や預貯金など各種相続手続を行う場合、台湾には日本と同様に戸籍制度がありますので、被相続人と相続人の戸籍関係書類を用意する必要があります。
また、この戸籍関係書類の取得や認証、日本語への翻訳を伴い、さらに、この戸籍関係書類を取得できない場合がありますので、日本人の相続登記に比べ、台湾の方の場合は非常に難しいと言えます。
【相続登記の難易度(難しい)の目安】相続登記を自分ですることは可能でしょうか。 を参考にしてください。
そこで、日本において公証人役場で公正証書遺言書を作成しておくことにより、これがない場合と比較してスムーズに相続登記などを行うことができます。
したがいまして、台湾籍の方には、公正証書による遺言書作成をお勧めする理由です。
なお、自筆証書による遺言書の場合は、家庭裁判所による検認手続や、登記所の保管制度を利用した自筆証書の遺言書では、いずれにしても結局、被相続人と法定相続人全員を確定・証明する必要がありますので、この自筆証書による遺言書作成をお勧めできません。
遺言書を公正証書で作成した方がよい事例を参考にしてください。
台湾籍の方の公正証書遺言書作成:日本の不動産の相続登記を参考にしてください。
なお、日本在住台湾籍の方が、自筆証書遺言書を作成したときは、このようになります。日本人と同じ手続をすることになってしまいます。
「日本在住の台湾籍の方」と「日本在住の台湾籍から日本に帰化された方」が、自筆証書遺言書を作成したときは、日本人と同じ手続をすることになります。
法務局(登記所)に保管された自筆証書遺言書は、
この遺言書情報証明書を取得するには、日本人と同様、登記所に「被相続人の出生から死亡までの除籍謄本や相続人全員の戸籍謄本と住民票」を提出する必要があります。
登記所の保管制度を利用しない自筆証書遺言書は、
この家庭裁判所の検認手続をするには、日本人と同様、登記所に「被相続人の出生から死亡までの除籍謄本・住民票除票や相続人全員の戸籍謄本(住民票)」を提出する必要があります。