台湾籍の方の公正証書遺言書作成:日本の不動産の相続登記
【相続登記のための遺言書作成相談】 私は、現在、台湾籍で、東京に住所があります(住民票が東京にある)。私には、配偶者も子もおりません。 そこで、日本にある不動産を姉(台湾在住)に遺すことを想定し、公正証書で遺言書を作成したいと考えています。 この場合、どういう遺言書の内容にすればよいのか、遺言書作成に必要な書類、費用や日数、また、遺言書作成後、将来、私の相続が開始した後の名義変更(相続登記)の方法について、教えてください。 また、この手続をそちらに依頼した場合、いくらかかりますか。 なお、現在、母(国籍:アメリカ)が存命です。
【遺言書に記載する不動産】 土地 評価価格:1,000万円 建物 評価価格:500万円 合計:1,500万円
相続関係図
台湾籍の方の遺言書作成の形式でよいのは?
台湾籍の方が、日本の法律に基づいて遺言書を作成することは有効か?
台湾籍の方が遺言書を作成するとき、台湾において台湾の法律に基づいて遺言書を作成するのが基本です。
しかし、次の台湾の法律(渉外民事法律適用法)により、台湾籍の方が、日本において日本の法律に基づいて遺言書を作成することは有効となります。
中華民国(台湾)渉外民事法律適用法:2011年改正、2012年施行
涉外民事法律適用法-全國法規資料庫 (moj.gov.tw)
第 60 條
1 遺囑之成立及效力,依成立時遺囑人之本國法。
2 遺囑之撤回,依撤回時遺囑人之本國法。
第 61 條
遺囑及其撤回之方式,除依前條所定應適用之法律外,亦得依下列任一法律為之:
一、遺囑之訂立地法。
二、遺囑人死亡時之住所地法。
三、遺囑有關不動產者,該不動產之所在地法。
上記条文の翻訳文は、次のとおりです。
第60条 1 遺言書の成立及び効力は、遺言者の本国の法律による。 2 遺言の取消しは、取消しの時点での遺言者の母国の法律によるものとします。 第61条 遺言及びその撤回の方法は、前条に規定する適用法のほか、次のいずれかの法律による。 一 遺言書が作られる場所の法律。 二 死亡時の遺言者の住所地の法律。 三 遺言書に不動産がある場合、不動産の所在地の法律。
日本の法律に基づいて遺言書を作成した場合であっても、台湾の法律が適用される
日本の法律に基づいて遺言書を作成した場合であっても、台湾の法律が適用される場合の一例は、次のとおりです。
台湾の民法にも、遺留分についての規定があり、法定相続人となる人には、兄弟姉妹を含めて「遺留分(相続人に最低保証される相続分)」があります。
1 直系血族(子・孫):2分の1
2 父母:2分の1
3 配偶者:2分の1
4 兄弟姉妹:3分の1
5 祖父母:3分の1
台湾においても、相続人が遺留分を侵害されたときは、遺留分減殺請求権を行使することができます。
台湾においても、遺留分減殺請求権を行使するかしないかは、遺留分を侵害された相続人の自由です。
したがいまして、遺言書を作成することで、相続人となる人の遺留分を、相続開始時に、侵害することになったとしても、遺言の内容は有効で、無効になることはありません。
このことは、日本の民法でも、同様に、遺言の内容は、有効で無効になることはありません。日本の場合は、遺留分侵害額請求権を行使することになります。
そこで、日本の法律に基づいて遺言書を作成することは有効ですが、将来、相続開始時に、ほかの相続人が遺留分減殺請求をする可能性がある場合は、この点をご理解、ご了解いただければ、遺言書を作成することができます。
日本における遺言書の形式の主なもの
遺言書作成には、普通の人が作成する場合、主に、自筆証書遺言書(法務局の保管制度を利用しない)、自筆証書遺言書(法務局の保管制度を利用する)、公正証書遺言書があります。
これらは、次の違いがあります。
- 自筆証書遺言書(法務局の保管制度を利用しない)
作成当時、費用はかかりません。
相続開始後、家庭裁判所の検認手続が必要です。
被相続人(出生から死亡まで)と法定相続人全員の相続関係を証明する書類、相続人の住所証明書を家庭裁判所に提出する必要があります。
家庭裁判所の検認手続では、法定相続人全員に対して、家庭裁判所から検認手続への検認期日の出席通知(実際の出席は不要)が郵送されます。 - 自筆証書遺言書(法務局の保管制度を利用する)
作成当時、法務局に支払う実費(印紙代):3,900円
相続開始後、遺言書情報証明書を法務局で取得します。この遺言書情報証明書で相続登記をします。
この遺言書情報証明書を取得するには、被相続人(出生から死亡まで)と法定相続人全員の相続関係を証明する書類、相続人の住所証明書を法務局に提出する必要があります。
法務局が遺言書情報証明書を発行した後、法務局が法定相続人全員に対して、遺言書情報証明書を発行した旨を通知(郵便)します。 - 公正証書遺言書
遺言書は、公証役場で作成します。
公証役場に手数料を支払います。遺言書に記載する財産と遺言書の内容で、公証役場の手数料が決まります。
相続開始後、特別の手続をすることなく、必要書類を揃えて、相続登記ができます。
以上の内容から、台湾籍の方の場合、公正証書遺言書で作成します。
公正証書遺言書作成
台湾籍の方の法定相続人は
公正証書遺言書の内容
相談事例の場合、母が存命であるため、相談者の姉は、現在、推定相続人(相続開始時に相続人となる人)ではありません。このため、現時点では、姉に「遺贈する」と記載します。
相談者には、現在、配偶者も子もいないため、現時点で、母が存命であるため、推定相続人は母(第二順位の相続人)です。相続開始時に、母がすでに死亡していれば、姉が相続人となります。このため、予備的に、姉に「相続させる」と記載します。
そこで、遺言書の内容は、相談事例の場合、次のように記載します(遺言書原案)。
公正証書遺言書(原案)(一部省略) 第1条 遺言者は、遺言者の所有する次の不動産を、姉○○(生年月日 〇年〇月〇日、住所 台湾○○)に遺贈し、同人が相続人となるときは相続させる。 所 在 東京都○○ 地 番 〇番〇 地 目 宅地 地 積 ○○・○○平方メートル 所 在 東京都○○ 〇番地〇 家屋番号 〇番〇 種 類 居宅 構 造 木造スレートぶき2階建 床 面 積 1階 ○○・○○平方メートル 2階 ○○・○○平方メートル 第2条 遺言者は、本遺言の執行者として、前記姉○○を指定する。 第3条 遺言執行者は、必要があるときは、この遺言執行の事務を委任することができる。 遺言者 東京都○○ 職業 ○○ ○○ ○○ 〇年〇月〇日生 証 人 東京都○○ 職業 ○○ ○○ ○○ 〇年〇月〇日生 証 人 東京都○○ 職業 ○○ ○○ ○○ 〇年〇月〇日生
公正証書遺言書作成に必要な書類、費用、日数
公正証書遺言書作成に必要な書類と印鑑
遺言書作成では、次の書類と印鑑が必要となります。
- 遺言者の台湾戸籍謄本(日本語への翻訳文付き)、住民票(日本の住所を遺言書に記載)、身分証明書(写真付き)、認印(または、印鑑証明書と実印)
- 姉の台湾戸籍謄本(日本語への翻訳文付き):住所は戸籍に記載されている住所
- 母の身分証明書(写真付き):アメリカ国籍で、存命であることを証明
- 不動産の登記記録情報(登記簿謄本)
- 固定資産税納税通知書・課税明細書
- 証人の身分証明書(写真付き)、認印
公正証書遺言書作成に必要な費用
不動産評価価格合計:1,500万円
(1)公証役場の手数料:約50,000円
(2)当司法書士事務所の報酬:55,000円
合計:約100,000円
公正証書遺言書作成の日数
公正証書遺言書を作成する日数は、おおよそ次のとおり、最初の準備段階から完成(公証役場での署名捺印)まで、おおよそ2